7.DXの推進と戦略/プロセスの重要性
引き続きこのブログにアクセスして頂き、ありがとうございます。初めてのアクセスされた方も、このブログを通して少しでも皆さんにとって意味のある情報が共有できれば、それは素晴らしい出会いだと思います。
さて、昨今AIやDXという言葉を耳にしない日はありませんが、必ずしも、このキーワード(バズワード?)をビジネスに活かせている会社が多いとは言えないのが実情のようです。特に日本はDigitalのビジネス的活用が外国企業に比べて遅れているという事を耳にしますが、Harvard Business Reviewに寄稿されている記事でも、
「なぜ、AIに対する取り組みは、Poc(Proof of Concept)の域から出ず、実ビジネスへの活用が進まないのか」
※Poc:概念実証と訳されますが、実証実験と同等の意味であると理解して差し支えありません。
と言った旨の記事の目にしますので、必ずしも日本のみがAIを積極的にビジネスに活用することに苦しんでいるわけではないようです。
さて、ここまで、AI, DX, Digital, ITと敢えて用語を統一せずに用いてきましたが、これらを整理するところから始めたいと思います。
まず、AIとはご存知の通り、“人工知能”の事です。AIはコンピュータ上で動くプログラムの集まりですが、このAI用プログラムは、人に替わって意思決定をしてくれます。初期のAIは人間が意思決定するときに用いていた基準をそのままプログラム化したものでした。例えば、お医者さんが問診の際に、
・体温は平熱より高いか?
・食欲ないか?
・のどの痛みはあるか?
という3つの質問をし、3つとも「はい」と答えた場合は「風邪」と診断していたとします。
これをコンピュータ化し、画面を通して3つの質問を患者に聞き、3つともYesと入力されたら、「あなたは風邪」ですと答えるようなシンプルなものです。このAIの欠点は、事前に人間がすべてのパターンを洗い出して、意思決定の基準も決めたうえでプログラム化する必要があります。従って、暗黙知のように、明確にパターンとして表現する事が難しいものや、未知のものには対応できません。
これと比較して、機械学習と言われるような最近のAIは、現象と結果をプログラム自身が学習し、統計定期手法に基づき、最適解を導き出します。
自動運転の為のAIのアルゴリズムの例では、車に導入したプログラムには以下のような条件を与えておきます。
・その車は一定時間の中でできるだけ得点を上げることを目的とする
・その車のスピードが上がれば上がるほど得点を得られる
・何かと衝突すると、スピードはゼロになると同時に、得点がマイナスされる
すると、その車は、最初はただ走れる方向に走りだしますが、すぐに周辺のものに衝突し、とまり、点数が上がらない状況が続きます。しかし、徐々に学習し、ハンドルを切ることでよけることを覚え、衝突を回避しつつ点数を上げていく。というように自分で学習してプログラムを書き換えていくのです。
このような考え方は、昔からありましたが、センサー技術の発展により、小型のセンサーであらゆるデータを取得できるようになったり、そしてセンサーを通して集められた膨大なデータを小型のストレージの保管できるようになったり、さらには複雑な統計的計算を高速にできるようになったりといった技術の進歩によって、現実のビジネスに適用可能になってきた訳です。
次に、DX(Digital Transformation)について説明します。“DX”をWikipediaで調べると以下のように定義されています。
「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という概念。
さらに、複数の定義の紹介が続くのですが、ここではIDCによる定義が分かりやすかったのでご紹介いたします。
第1プラットフォーム:メインフレーム/端末システム
第2プラットフォーム:クライアント/サーバーシステム
第3プラットフォーム:クラウド・ビッグデータ/アナリティクス・ソーシャル技術・モビリティー
IDC Japanはデジタルトランスフォーメーション(DX)を
「企業が第3のプラットフォーム技術を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネスモデル、新しい関係を通じて価値を創出し、競争上の優位性を確立すること」と定義している。
この定義を読むと、“DX”という言葉はその要素技術としてAIも含んでいるといって良さそうです。従ってこれ以降は、“DX”と記したときにはAIも含んでいるとご理解ください。
DigitalやITは情報技術という意味で用いていることがほとんどですので、そのように理解してください。
さて、上記のIDC Japanの定義にもある通り、“DX”は企業価値を高めるための取組ですから、企業経営者にとっては重要なテーマです。しかしながら、冒頭でも述べた通り、
“Pocの域を出ず、ビジネスの創出につながっているケースが少ない”
という課題があるようです。日本でも、社長の掛け声で、DX Teamが組成され、現在の業務に対してどのように適用できるかを検証したりしていますが、「ROIがでない」ということで進捗しないケースが多いようです。しかし、このような発想で取り組んでいる限りは、DXが実用段階に進むことは難しいでしょう。
賢明な読者の方々は、もう気付いてしまっているかもしれませんが、このまま説明を進めますね。
少し遠回りかもしれませんが、“DX”への関心が高まっている事の背景からお話しさて頂きます。
そうですね。。。 日本のBusiness Men/Womenの方々はPDCAという言葉はなじみが深いと思いますので、これを例にとって説明を進めてまいります。
PDCAは伝統的に以下のようなステップで進められていきます。
P:Plan (市場調査等、未知の情報と実績情報を調査し、それに基づき自社が目指したい方向に現実解を照らし合わせて、次のビジネスPlanを策定する)
D:Do (Planに基づき、ビジネスを遂行する)
C:Check(Planと実績の乖離を確認、分析し解決策を検討する)
A:Action(解決策をビジネスに適用する)
この一連のPDCAのサイクルが高速に回せて、常にPlanとDoの結果の乖離が少ない状況を維持できればビジネス目標が達成される可能性が高くなります。これまでは一連の作業をアナログ的に人手を介してやってきました。しかし、現在では、
・商品をECサイトから販売し(Do)
・購入者情報から想定より女性客比率が多いことが瞬時に分析され(Check)
・サイト上の女性向け商品数を増やす(Action)
といったことが人手を全く介さず進めることが可能です。
PDCAを全く人手を介さず、リアルタイムに回せることができるのであれば、DXを推進しない理由はないですよね!
つまり、技術の高まりにより、そもそも経営者がやりたいことが、莫大な費用を投資しなくても実現できる世界がやってきた。。。というのが“DX”への関心の高まりの理由の一つです。
しかし、理由はそれだけではありません。
インターネットの台頭により、顧客の購買活動のパターンが変わってきているのです。顧客はわざわざベンダーから商品の説明を得なくてもインターネットを通じで情報がとれます。一昔前は、特定のソリューションの情報はベンダー等の方が持っていましたが、現在では情報の取得方法が多数あるために、お客様の方が情報を持っているケースもあり、いわゆる
“情報の非対称性”
は失われてしまいました。さらには、これまでは競合になり得なかったような企業や先進国以外の企業が容易に情報武装し、強敵となって現れる時代となっています。顧客や競合が情報を活用して、これまでとは違う行動をとるようになってしまった今、自身もITを駆使して競争力を上げる活動をしなければ生き残っていけなくなっているわけです。これが、“DX”への関心が高まっているもう一つの理由です。
ここで、改めて日本の“DX”に対する取組みについての例に戻ってみましょう。前述の文を再掲します。
“日本でも、社長の掛け声で、DX Teamが組成され、現在の業務に対してどのように適用できるかを検証したりしていますが、「ROIがでない」ということで進捗しないケースが多いようです。“
お気づきでしょうか?そうです。
そもそも、顧客や競合の行動パターンが変わり、同じことをやっていても生き残れないという状況になりつつあるから“DX”が必要なのに、”現行の業務“を是としてその業務の効率化のみに焦点を当てて”DX”を検討している例なのです。
今のままでは儲からなくなってきているから、“革新的な何かをしなくてはならない”のに、儲けの薄い現業の一部をITで効率化してもROIがでる訳がない。。。ということです。(もちろん、単にAI化するだけでコスト削減できるエリアはありますが、その取り組みだけで生き残ることは難しいでしょう)
このように、“DX”の頭とお尻を取り違えてしまい、前に進めない状況を回避する為に重要な事は、
・戦略(儲けるための方針)
・業務プロセス
を明文化することだと言えます。
何故か?それを、いまや世界的なアパレルメーカーとなったユニクロの例を用いてお話をしたいと思います。
いま、ユニクロは世界のトップメーカーになるために、“サプライチェーン改革”という全社的な“DX”プロジェクトに取組んでいます。
出典:ファーストリテイリング発表資料
図の中央上部にある
“ほしいものが、いつもある”
が、儲けるための方針、つまりは戦略となります。
ファストファッションのTopを走るZARAは年商3兆円程度を稼ぎ出しており、且つ成長を続けています。これに飲み込まれることなく、打ち勝つための”力”をつけるために柳井会長は考え抜いたのだと思います。
経営に限りませんが、“力”は以下の式で表すことができます。
“力(企業力)” = “意志” x “能力”
そして、この“意志”こそが“戦略”です。もう少し正確に表現しますと、
経営の“意志”を論理的に整合性のとれた形で表現したものが“戦略”です。そして、“能力”とは、業務を遂行する人のスキルや、自動化されたプロセスを指します。いくら“能力”があったとしても、そもそも向かうべき方向が定まっていなければ、その能力が有効か否かもわかりません。方向、つまり戦略が定まってはじめて強化すべき“能力”が明確になります。そして”能力”はITにより強化する事が可能です。つまり、“戦略”が定まってはじめて“DX”として取組むべきテーマが決まる訳です。
そして、その上でPocのテーマを決めるべきです。コンセプトはばっちりなのだけど、実際に動かしてみたら遅くて実用に耐えなかったとか、実用に耐えるだけのマシンを用意すると、投資額が莫大になってしまうという話は、よく耳にすることですから、Pocを通してビッグバン方式で一気にすすめるのかStep by Stepで進めるべきかを判断することになります。世の中にはユニクロのような資金力のある会社ばかりではありませんから、Step By Stepの進め方を取るケースの方が多いはずです。この時に、適切にどの部分から着手すべきかを判断する為には、“業務プロセス”を明文化することが必須になります。
明文化された業務プロセスとは
・誰が(どの組織が)
・何を用いて(インプットとなる情報、もの)
・どのように処理し
・何を創出するか(アウトプットとなる情報、もの)
を定義したものです。これのBefore/Afterが明確になっていないと、そもそもどのような価値を創出しているプロセスで、どれだけの人がかかわっているかについてのBefore/Afterもわかりませんから、Step By Stepで部分的なDigital化に着手した場合のROIも算出できません。
正しく定義された業務プロセスは、インプットとなる情報の定義や、その情報がどのプロセスで用意されたものかについても整理されています。アウトプットとなる情報の定義や、それがどこのプロセスに渡されるかも同様に整理されています。このように業務プロセスが整理されていれば、“DX”をStep By Stepで進める場合、融合するプロセスや、ITで自動収集される情報によってどれだけのプロセスがメリットを享受できるかという影響範囲さえも判断できるようになります。
私は、戦略策定、プロセス定義、DXといったものは一時的なプロジェクトとして進めるものではなく、日常的にビジネス環境の変化に応じて更新していくべきものだと考えています。これらを考え抜く力を自社内に持ち、経営者とマネージャー/リーダー層が適切な役割をもって進めることにより、“力”を維持/強化できるようになります。次回は経営者とマネージャー/リーダー層の適切な役割にフォーカスを当ててみたいと思います。