70.Appleが追求する組織構造と我々の今後について

Harvard Business Reviewの最新刊に掲載されている記事の中に、Appleが10万人を超える大規模な会社になってもなお機能別組織の形態をとり続けている理由を述べているものがあり、非常に興味深かったので、本日はそれをテーマにブログを書かせて頂くことにしました。




記事の内容に触れる前に、まずは機能別組織と事業部制組織についておさらいさせて下さい。

 

機能別組織:

事業部制組織:

 

簡単に言うと、仕事の種類や目的ごとに括られた部門を社長配下にフラットに並べたものが機能別組織であり、一方、ある特定の扱い製品や、対象とする市場といったくくりで分けられた「事業部」の中に販売~製造に関する部門を個々に帰属させ意思決定の迅速化を狙ったものが事業部制組織と呼ばれるものです。一般には会社の規模が大きくなると事業部制組織を取る傾向にあります。Appleが事業部制組織形態をとっていたとすると、iPhone事業部やMAC PC事業部の下に製造部門や販売部門が帰属することになりますが、実際のAppleは機能別組織形態をとり、各シニアバイスプレジデントは個々の製品カテゴリ毎の利益責任を負っている訳ではありません。

 

具体的に言いますと、CEOの直下に「設計部門」、「ハードウェアエンジニアリング部門」、「ハードウェア技術部門」、「ソフトウェア部門」、「サービス部門」等があり、各々の分野に深い知識を持つスペシャリストがシニアバイスプレジデントとして部門を牽引しています。Appleがこの機能別組織にこだわる理由は何でしょうか?
まず基本的な彼らの考え方は、

 

「ある特定の領域に関して最も専門的知識や経験がある人物は、その特定領域において、より正しい意思決定ができるはずだ」

 

というものです。そしてこの考え方は、2つの視点に基づき辿り着いたものだそうです。1つは、Appleが事業展開している市場では技術的変化のスピードが速いために、当該領域に関する深い知識と洞察を持つ責任者による直感的な意思決定に頼る必要があるという事です。そして2つ目は、各部門のシニアバイスプレジデントは、製品ごとの短期の利益目標に対する責任を負っておらず、全社の利益に対して責任を持っているという事です。製品仕様に関する意思決定は財務的判断とは切り離されており、逆にエンジニアリングチームは製品の価格決定のプロセスには参加しません。例えばR&Dのリーダーは製品コストを下げる事よりも、ユーザーのベネフィットを重視する事を期待されています。

 

私は、この記事を読んだときにAmazonの創業者であり現役のCEOでもあるジェフ・べゾスを思い出しました。彼は“あらゆる品物をインターネットを通じて提供し、消費者の利便性を高める”というコンセプトを追求してここまで来ていますが、中でも「顧客優先」という考え方をとても重視しています。スティーブ・ジョブスもジェフ・べゾスも、製品の最終利用者のベネフィットを最も重視しているという共通点がある事がとても印象的でした。

 

さて、もう少しAppleが追求する機能別組織の内容について踏み込んでいきたいと思います。彼らが推し進めるこの組織形態において、各部門のリーダーが最も期待されている3つのポイントについてご紹介します。それは、

 

①深い専門性
②詳細レベルまでの深い関与
③部門をまたがり協同的に討論する意欲

 

です。1つずつ見ていきましょう。

 

深い専門性:
彼らの考え方の中で、興味深くもあり且つ納得させられてしまったのは、

 

“そもそも専門家がマネジメントを身につける事の方が、ゼネラリスト的なマネージャーが専門知識を身につける事よりも簡単だ”

 

という考えを持っている事でした。確かにそうだなと思います。そしてワールドクラスの優れた人物は、スポーツの世界がそうであるように、他のワールドクラスのメンバーと同じチームで仕事をしたい思うものであり、且つそのような専門領域で働くことを生きがいとする者は、その専門分野において何も学ぶべきものが無いようなリーダーの下で働きたいと思うはずがない…と言う考えに基づいてAppleは人選を進めています。

 

iPhoneに内蔵される高機能カメラは今やApple製品を強力に差別化するものの一つとなっており、このカメラ技術はiPhoneのみならずMAC PCを含むすべての製品に適用されるようになりました。事業部制組織であったなら、このカメラ技術の強みは事業部ごとに分散され、薄まってしまい今日のような成果は出せなかっただろうと彼らは主張しています。

 

詳細レベルまでの深い関与:
Appleの各部門のリーダーたちは、3階層下の詳細レベルまで把握していることを求められています。これにより迅速な意思決定がなされると信じているからです。逆にこの深い関与が日常的になされていないと、重要な意思決定の場で、意思決定に必要な情報が欠如している等の理由や言い訳で、決定が先延ばしされ、結果重要なチャンスを逃すことにもなりかねないと感じている様です。

 

彼らがこだわる部分は、例えばiPhoneの角のカーブの描き方等、一般の人から見ると些細な事だったりもするのですが、この些細なこだわりが決定的な違いを生むこともあり、その意思決定は専門的知識を持つリーダーが普段から深く詳細レベルまで関与していることによってのみ実現されるものだと考えている訳です。

 

部門をまたがり協同的に討論する意欲:
Apple内には数百の専門チームが存在し、そして1つの製品を作るのに、その内の数十ものチームが関与することになります。そして、先に述べた通りそのチームは、個々の製品やサービスの事業成績に関する責任は持っていません。その様な状況下で彼らはいったいどうやって製品を市場に出すまでの意思決定を適切にできるのでしょうか?答えはチーム横断的な協同的ディベートを通して意思決定していくということになります。そのディベートが膠着状態に陥った際には迅速にシニアバイスプレジデント、場合によってはCEOが介入して意思決定を助けます。

 

互いに対等な立場にあるチーム間で意見を戦わせ、1つの結論に収束させることは非常に困難な事ではあるのですが、これを可能にしているのは、Appleという会社が持つ価値とその企業目的に対する深い理解と情熱を、皆が共有しているという事です。そして彼らが共に共通の意思決定に至る過程の中でこだわっているのは、“いかに困難か”という理由でその選択を避けると言ったような意思決定をするのではなく、“いかに正しいか”を重視し、意思決定し、それを実現する為に困難を乗り越える活動を進めていくことであり、その結果より素晴らしい体験をユーザーに提供できると信じています。

 

本日、このテーマを取り上げたのは、この取組は日本企業に対しても親和性が高いのではないかと思ったことと、少し宣伝になってしまうかもしれませんが、弊社(Tech-Dab)の製品BPOSの発想の原点がこれに近い考え方にあったからです。BPOSのコンセプトは、事業目標実現に向けて、戦略策定~プロセス設計までの一貫した定義をつくるといった当たり前のことを実行しましょう、それによって、これまでの業務の繰り返しではなく、成長目標に対して近づくためのPDCAを確実に回し、事業成長を実現させましょう、そしてそれは外部のコンサルタント会社等を使うのではなく、現場の業務をよく知るマネージャー職が中心になって推し進めましょう…というモノです。戦略策定~プロセス設計策定までのノウハウはBPOSの内部に組み込まれているので、これを使いこなすための論理的思考法を学んでいただいた上で、BPOSを活用することで、事業成長に向けたPDCAを確実に回し、結果、経営トップはアンテナを高くして正しいビジョンを示すことに注力し、マネージャー層はより担当領域の専門性を成長領域に注力することに集中する事ができるようになります。

 

Appleの組織に関するこの記事で説明されているのは主に、モノづくりに関する専門性の重要性です。そして日本の強みはモノづくりと現場力です。私は日本のエンジニアは優秀だと思っています。私の会社員時代は一貫して外資系IT企業で働いておりましたが、トラブル等の時に海外からスペシャリストが送り込まれてきて、いざ解析に取り組み、日本のエンジニアと協議を開始すると、日本のエンジニアの優秀さに驚き、

 

「彼らに任せておけば大丈夫なんじゃないか」

 

と言って帰っていくシーンなどを見たことがあります。Appleの記事の中でも、iPhoneの差別化に寄与したポートレイト写真機能の開発プロジェクトに対して、boken(冒険)というネーミングがされていることからも、日本のエンジニアがリスペクトされていることが伺い知れます。

 

なので、我々日本人はもっと自信をもって、成長にどん欲にビジネスを進めていくことで元気な日本を取り戻す事ができると信じています。

 

ちなみに、BPOSの将来はビジネスのプロセス毎に各専門的ナレッジの情報を紐づけて、ユーザーがどんどん賢く進歩する事に貢献する形に昇華させることを考えています!!是非期待してください!!!