9.優秀な社員ってどんな人?

前回のブログでは、企業におけるあらゆるステージにおいて、適切な役割分担がなされ、継続的な成長を実現する為に重要な事として、戦略立案及び業務プロセスの明文化を挙げ、且つこれを自社で策定する事も重要であることをお話しさせて頂きました。しかし、ここで重要になるのは、誰が中心となって戦略及びプロセスの策定を進めるかです。“全員経営”といった言葉を耳にすることもありますが、これはとても重要な仕事ですから、誰でも良いというわけにはいきません。やはり、優秀な社員に任せるべきでしょう。



 

さて、優秀な社員とはどんな人物像なのでしょうか?
今回のブログにおける“優秀な社員”の定義については、その多くを、私のビジネスパートナーでもある“概念化能力研究所株式会社”代表の奥山さんのご著書から引用していることを予めお断りいたします。
※出典:間違いだらけの「優秀な人材」選び こう書房/著者:奥山 典昭

 

中途、新卒を問わず、人材採用に関わった多くの方は採用の難しさを経験していると思います。ここで私の経験談を2つほど紹介させて頂きます。
当時私は、社員数が100~200名程度の外資系企業の日本法人で営業系のマネジメントをしておりました。この会社はグローバルでは大手でしたが、日本においては顧客基盤が弱く、ほとんどのお客様は外資系企業でした。つまり日本以外の国にある親会社同士のつながりから、おこぼれをもらっている状態だったのです。その為に日本でもコンサルティング的な提案ができる優秀な営業を採用することによって、営業力を強め、新規顧客を獲得しようと考えました。

 

採用活動を開始すると、さっそく優秀そうな候補が現れました。大手のIT企業に勤めていた彼は、ソリューションに関する知識も豊富で、自身でコンサルティングもこなすほど。インタビューの受け答えも、歯切れよく、理路整然としていたため、私は安心して

「これなら大丈夫!」

と思い採用しました。
ところが彼は、入社するや否や社内のあらゆる部門ともめ始めます。私は多くのサポート部門からのクレーム対応に追われることになるのです。当時の会社はITのSIerと言われる業種であり、営業一人で商品を売り切ることが難しく、周りからのサポートは必須だったのですが、なぜか彼はサポート部門を顎でつかうような態度をとるために、誰も助けてくれず、案件を前に進めることができません。結果、成績も振いませんでした。それでもなんとか結果を出そうと、私も一緒に新規のお客様を回り、やっと良質の案件に出合うことができました。これが決まれば少し落ち着くだろうと思っていた矢先に彼は、急に退職を申し出てきたのです。慰留は試みましたが、彼の意志は固く、そのまま退職していきました。
その案件の状況は、有利に進んでおり、競合もほぼ排除していたために、

「なぜこのタイミングで辞めたんだ?」

と私は釈然としませんでした。しかしすぐにその理由に気付くことになるのです。
別の営業がその案件を引き継ぐことになり、提案の内容を精査していると驚くべき事実が分かったのです。あらゆる提案の金額が、社内の承認を経ていない、何の根拠もない金額だったのです。偶然競合他社の提案金額を耳にした彼は、その競合に勝つために根拠のない最安値を提示していたのです。
当然我々は、コンプライアンス違反をするわけにはいきませんから、正式な価格を取り直し再提案をしましたが、お客様からの不信感は募り、その案件は失注に終わりました。

 

優秀と思われた彼は、社内でトラブルを繰り返し、四面楚歌の中、数字を上げるためにそのような選択をしたのかもしれません。もちろん私も、一緒にお客様を回るだけでなく、社内の不和という根本原因に対して十分対処できなかったという責任があります。

 

面接だけでは、彼の優秀な面しか見えず、入社後の振る舞いは予測できていませんでした。過ちを繰り返さない為に、次の営業を採用する際に私がとった方法は、前の会社で共に働いたことがあり、印象も成績もよかった営業を採用するという事でした。快活でアグレッシブな営業スタイルの彼なら、新規顧客の開拓に貢献できるだろうと信じ、新規の案件が見つかったときには優先的に彼に担当させるようにしました。ところが、、、大した活動もしないうちから

「ダメですよ。このお客さん。売れないですよ」

とすぐにさじを投げてしまいます。確認の為一緒にお客様を訪問すると、幾つかのビジネスのチャンスはあったために、それを検討する事をお客様と約束して、「それを一つずつ進めていこう」と彼とも話したのですが、それでもやはり案件は停滞してしまいます。年齢的には私よりも上の彼でしたが、徐々に私を避けるようになっていきました。仕方なく私は、彼に新規開拓を任せるのをあきらめ、その会社がもともと持っているおこぼれ案件を中心に扱うアサインをしました。彼はそのミッションは確実にこなし、効率的な活動ができていたと思います。しかしながら、会社を成長させるための活動はできなかったという事になります。

 

なぜ、このような事が起こってしまったのでしょうか?2人とも全くの無能ではなかったはずです。1番目の彼は間違いなくスキルがありました。2番目の彼も、アグレッシブで且つ以前は私と同じ会社で実績を上げ、賞をもらっているところも見ているのです。

 

後に、前述の奥山さんの著書を読んで理由に気付くことができました。
理由は簡単でした。私が彼らに求めるものと、彼らが持っているものが違ったのです。

 

1番目の彼は、確かにスキルは豊富で、前の会社でもそれなりに実績は上げていました。しかしその会社は大企業であり、あらゆる商品のカタログ等の販促物がしっかり用意されていて、営業だけでもかなりの活動が進められるだけでなく、体制も充実していたために、専門のエンジニアも彼のリクエストにこたえることは負担にならなかったのです。

 

一方、移って来た当時の我が社は、商品のカタログも不十分でしたし、体制も十分ではなかったのです。そういった環境下では、案件を精査し、必要なアクションを考えた上で、

「こういった資料を作ってくれないか」

と各サポート部隊に頼み、2人3客で進めていくことが必要だったのです。その経験と能力が彼にはありませんでした。

 

2番目の彼も、以前の会社では(こちらも大企業でした)優秀な成績を挙げていました。しかし彼は、長年付き合いのある得意先を中心に担当をしていたのです。お客様とは気心が知れ、欲しい情報はさほど苦労せずに入手する事が出来たので、お客様が欲しいというものをクイックにお持ちすれば比較的容易に案件を獲得する事が出来たのです。

 

ところが、私から任された仕事は新規獲得。新規の顧客を獲得するには、想像力を研ぎ澄まし、お客様が必要としているものを、場合によってはお客様が気付いていないような課題にも言及し、お客様の関心を引く必要があります。しかし、そんなことは彼はやってこなかったわけです。

 

原因はこれではっきりしました。それでは、本当に優秀な人を採用するにはどうしたらよいのでしょうか?

 

奥山さんのご著書によると、優秀な社員とは

 

“環境に関わらず、会社に実質的な利益をもたらす人”

 

という事だそうです。そして、奥山さんの長年の分析の結果、この優秀な社員とは以下の能力が高い人であることが判明しています。

 

・成果管理能力(組織のために働く力)
 ※組織に貢献したいという思いを持っている

・概念化能力(思考する力)

 

そして、これらの能力がある人は以下の特徴があります。

 

組織の為に働く力が高い人:

  • 当事者意識が高い
  • 成果達成への使命感を持つ
  • 自身で目標を定めることができる
  • 実利のある成果に向かって収束させる力がある
  • リーダーシップがある

思考する力が高い人:

  • 思考する意欲が高い
  • 情報を集める力がある
  • 情報を選ぶ力がある
  • 情報を結びつける力がある
  • 理論を高める力がある

 

お気づきでしょうか?前に例で挙げた2人はこれらの能力に欠けていることに。

 

1番目の彼は、“思考する力”はあったかもしれません。しかし、圧倒的に“組織の為に働く力”がないのです。彼から見ると、カタログや十分な体制を持たない会社が悪いのです。多少、成果達成への使命感はあったかもしれませんが、実利のある成果に向かって物事を収束させる力は欠如していました。

 

2番目の彼は、“思考する力”が足らないために、新規顧客獲得では機能しませんでした。“組織の為に働く力”もなかったかもしれません。

 

この2つの能力の有無を短時間に判断するには、行動心理学に基づいた科学的なアセスメントが必要です。

 

Tech-Dabが提供するBPOSはお客様がご自身で戦略(儲けるための方針))及び業務プロセスをくみ上げることをご支援するToolですが、この取り組みを進めるお客様内のリーダーの選定にこのアセスメントを採用しています。興味がある方はこちらをクリックしてください。

 

短時間でこの2つの能力を見破るにはアセスメントが必要ですが、自社内で選抜を募るような際に誤った人選をしないように参考となるチェックリストの一部をご紹介します。

 

組織の為に働く力が欠如している人の特徴:

  • 目を離すとさぼる
  • 何をやっても飽きっぽい
  • 自分の興味がある業務にしか力を入れない
  • 色々なアイデアを出すが、どれ一つとして形ある成果に落とし込まれない
  • 言動が発散的で1つの結論に収束されにくい
  • 同じミスを何度も繰り返す
  • 自分の都合次第で誰かれ構わず話しかけ、迷惑をかけていることに気付かない
  • 人への感謝の気持ちが長続きしない
  • ナルシスト
  • 発言責任への意識が希薄
  • 「また今度」の「今度」がない
  • 話が冗長になりやすくわかりにくい

等々

思考する力が欠如している人の特徴:

  • やり方が決まっている事や言われたそのままの事しかできない
  • 情報にすぐ反応して間髪入れずに動き、言動に溜めや深みがない
  • 仕事に優先順位をつけられず何でもかんでも抱え込む
  • いつも上から目線で経験や知識を振りかざす
  • 一般論やべき論ばかりを得意げに口にする
  • 経験のない領域に足を踏み入れた途端、その足が止まる
  • 少し抽象的な話をしただけで目が泳ぎ「具体的には?」と聞いてくる
  • 空気が読めない
  • 人の言わんとすることのポイントがつかめず、「ずれた」理解を示す
  • 思い込みや決めつけが激しい
  • 仮説を立てられない
  • 相手の言葉だけに反応し、言外を一切察知できない

等々

 

いかがですか?それなりの要職に就かれている方でもこのような特徴を持っている人が思いつき、ハッとしている方もいらっしゃるのでは?

 

一つ付け加えさせて頂きますが、世の中では当然のことながら“優秀な人”以外の人の方が多いです。上記のような特徴を並べられると、これに当てはまってしまう人を否定的にみてしまいがちですが、だからといって完全に戦力外とみる必要はありません。私の経験談に上げた2人も前の会社では成果を上げていたのですから。

 

戦略や業務プロセスといった会社を強くするための方策を考えるような役割を担う人は、”優秀”である必要がありますが、逆に言うと、その”優秀”な人の活動により策定された業務プロセスによって、仕事のルールも明確化され、(優秀でない人の)欠如した特徴を補い、一定レベルの仕事を可能にさせる事ができる訳です。

 

この2つの能力が欠如している人が要職についているケースには、不幸なことが起こりがちで、十分に思慮がないままにタスクを走らせてしまっては、部下の方を右往左往させます。個人的に私は、“働き方改革”などはその最たるものではないかと感じています。次回は、“働き方改革”について少し話をさせて頂きたい思います。