41.CEOの責任が重い理由

本日はCEOと呼ばれる人の役割について、皆さんと考えていきたいと思います。CEOという肩書がない会社の場合は、会社のTopの方をイメージしてください。社長さんや会長さんということになりますね。



 

特にCEOという肩書を持つ人の職掌が法律で決められているわけではありませんから、正確な定義がある訳ではなく、各々の会社によってCEOが担っている仕事は少しずつ異なっているとは思います。しかし一般には、

 

“会社を経営する人”

 

と思われているでしょう。では、“経営”とは何かを考えると、これはこれで結構な幅がありますが、敢えて一言で表すとするならば、

 

“会社の維持・成長を継続する為に、社内のあらゆる資源(人・モノ・金)を最適配置する為の、一連の活動”

 

と表現できると思います。では、これらの一連の意思決定は全てCEOによってなされているのでしょうか?そうでないケースもありますよね?人員の配置はCOOや人事担当役員が最終意思決定していることもありますし、財務的な主な意思決定はCFOが担っていることも多いでしょう。つまり、会社によって職掌の境界線は曖昧な事が多いのですね。そこで、改めてCEOの役割を考える為に、CEOにしかできない事に絞って考えてみたいと思います。

 

読者の皆さんはお気づきかもしれませんが、それは方向性を示すことです。あらゆる組織において、その組織がどちらに向かって進むべきかを決める唯一の存在は、その組織の長です。企業であればCEOです。

 

一方、蟻のように誰に指示されるわけでもなく、黙々と統率の取れた行動を取る生物もいて、これはこれで非常に興味深いのですが、今回ブログのテーマとは遠いので、ここでは棚上げにさせて頂きます。

 

話をCEOに戻します。会社の方向性を示す主なものとしては以下の様な項目が挙げられるはずです。

 

・企業理念
・目的
・方針及び数値目標

 

それぞれ突き詰めていくと奥が深かったりしますが、“目的”という項目が少し漠然と感じる方も多いと思うので、少し補足させて頂きます。実は“会社の目的”をどう定義するかによって、会社の将来は大きく変わるとの研究結果もあり、注目されています。当ブログの“緻密な計画の立て方”の中で言及した内容の再掲になりますが、“ほんの少しの目的の違い”が企業の将来にどう影響を及ぼしたかについての、面白い事例でしたので、改めてご紹介させて頂きます。

 

異なる会社目的と成長に関する事例:
米国に2つの同規模のペットフード会社があり、2社は競合関係にありました。この2社が定めた目的は以下の通りでした。

 

A社:“ペットにより良いものを”
B社:“ペットにより良い世界を”

 

A社は、資本投下をペットフードに集中させ、一定以上のシェアは確保しましたが競合の激しいペットフード業界において、飛躍的な成長を遂げたというレベルまでは達しませんでした。
一方B社は、ペットの家族の中での位置づけの高まりに注目し、ペット医療が家族にとって重要であると気づき、獣医関連企業を買収。結果、ペットを取り巻く大きな市場を取込みペット業界のリーダーに成長しました。

 

得意分野を絞るという考え方もありますが、会社が目指す社会的貢献度は大きい方がそれだけ価値が高いことになりますし、ビジネスの環境変化が激しい現代においては、目的はこの例のようにより広がりのある世界をイメージした方が、経営の視野も広くなりプラスに作用するのかもしれません。

 

“目的”の定義一つで会社の将来が変わるという話でしたが、“企業理念”も非常に重要で、いざというときに、全社員がその言葉に寄り添い一つにまとまれるような求心力を持った言葉である必要がありますし、“方針”においては、例えばどの市場に参入するか否か等の判断は会社の将来を大きく左右します。

 

「今述べた3つについて意思決定する事がCEOの仕事です」といったら、CEOの仕事ってめっちゃ難しいと思いませんか?どれ一つとっても会社を飛躍させることもあるし、一方誤った判断をすれば会社を崩壊させてしまいかねない。ということは、CEOは正しい判断をし続けなければならないことになる。

 

ずっと正しい判断をし続けるなんて、果たしでできるのでしょうか?至難の業ですよね。なぜなら、市場には競合がいて、その競合相手もこちらの動きを見て変化していくからです。将来、どんな優れたAIが生まれたとしても、この役割を任せる事はできないと思います。ここからは、私の考えですが、このような困難な問いに応え続け、生き抜いていくには、理屈の世界を超えて、「戦い続けるのだ」という強い意志と情熱がないとできないと思います。しかし人は、自分だけの為に戦い続けられるほど強くはないですから、そこには“社会の為に必要な事だ”という理由が必要になると思います。その思いが自分を奮い立たせ、それを文字に落したものが「企業理念」であり、それに対して対象を具体化したものが「目的」であり、それを実現する為の企業戦略が、勝つための会社の「方針」です。このような理屈から、逆説的に言ってもCEOの仕事はこの3つに集約されると言えるわけです。

 

なので、「お金持ちになりたい」とか「有名になりたい」といった理由だけでは、一時は成功を手にすることもできるかもしれませんが、長きにわたって成長する企業のTopになることは不可能だと思います。

 

私がBPOSというソリューションを作った理由は、CEOにはこの難しい3つの課題に集中していただき、そしてひねり出した方針に対しては、全社員がそれを具現化すべく事業戦略・戦術への落し込み、日々の業務への落し込み及び遂行をし、結果をフィードバックし、それに基づきCEOは次の成長に向けての決断をしていくというサイクルを日本に広げる事に少しでも貢献したいと思っているからです。

 

さて、このようなCEO像を持つ私が、最も尊敬する経営者は京セラの創業者である稲盛さんです。そして、その稲盛さんを同じ京都の企業経営者の先輩としても尊敬しているという、日本電産の永守さんも日本を代表するCEOだと私は感じています。しかし、永守さんは後継者選びに苦労されているようです。ピッカピカの経歴で次期CEOとして招聘された呉氏に続き、吉本氏も社長登用はされたものの、後継者候補からは脱落するといった事が繰り返されています。

 

永守CEOが考える後継者の条件は、「実績を出し、リスクを取れる人」ということです。そして彼が求める実績とは営業利益率10~15%をたたき出すことだそうです。しかし、最近の5年の日本電産の業績を見ると、営業利益率は最高でも11.6%であり、且つ直近の2年は8%前後に落ち込んでいます。永守さんの人物像から言って、自身でも実現が難しい事を、後継者候補に押し付けるようなことはしないと思いますので、必ずしも数字上の実績値が不十分だという理由だけで後継者候補から外したのではないと感じています。永守さんの目からは、「何が何でも目標値を実現させるぞと言う」という“気”のようなものが感じられなかったのではないでしょうか。

 

私は、呉氏や吉本氏が後継者として不十分なのかどうかはわかりませんが、創業者が元気であり、且つ成長を続けている企業において、満足のいく後継者を見出すことは構造的に難しいと思います。創業経営者は自身が掲げる理念を追求し、その理念と目的を維持しつつ、目標の数値を実現する為にあらゆる手を尽くします。永守さんが経営者として最もこだわっているのは雇用だそうです。「将来的に100万人を雇用できるような会社にしたい」と仰っていたのがとても印象的でした。確かな職場があるという事は、人に安心と幸せを提供できますから、私も雇用はとても重要だと思いますし、素晴らしいこだわりだと思います。永守さんは、この社会的にも意義の大きい100万人雇用に向かって、あらゆる手を駆使して目標とする営業利益を実現してきたのでしょう。

 

しかしながら、後継者候補はこの理念への拘りにおいて、創業者を超える事は不可能です。自分が作った理念ではないので。それに、後継者候補はいきなり全権委任されるわけではなく、いくつかの事業のみを担当し、そこでの実績を評価されるわけです。日本電産のセグメント情報を見ると全ての事業がおしなべて営業利益率10%以上を達成しているわけではなく、凸凹はある訳です。つまりハードルの高い数値目標を達成する為の持ち駒も限られた中で結果を出す必要がある訳です。残念ながら、今の永守さんの評価基準では100%満足できる後継者を見つける事は出来ないと思います。

 

先に述べた“企業理念”、“目的”、“方針”はCEOにしか決められない事です。ここに対する後継候補の思いが、CEOと100%一致する状態に達しないと迷いが生じて思い切った手が打てないはずです。
私が尊敬する稲盛さんが社員を育成する上で最も重視することは、仕事に関る事ではなく、人としての考え方だそうです。それは「全てにおいて、“善なる動機”をもって事にあたれば必ず成功へと導かれる」という考え方です。この考え方を徹底的に社員と共有するのが稲盛さんのやり方です。そして、京セラ、KDDI,JALにおいて後継者への引継ぎで失敗をしたという話は耳にしたことがありません。人としての基本的な考え方を高いレベルで一致させる事ができれば、その考え方の延長線上に出てくる“企業理念”、“目的”、“方針”についても大きくずれる事はなく、逆にこれが体現できていれば実績はついてくるということなのだと私は理解しました。

 

今回はCEOに焦点を当ててみましたが、今後しばらくはCEOの責任はさらに重く、難しいものになっていくと感じています。長く続いた世界的経済成長を背景に、各企業のCEOは利益を最重要視して世界に事業を展開してきました。利益を最大化する為に、時には国家間の税制の違いを利用した事業展開もしてきました。しかし、会社は国と言うプラットフォームの上でビジネスをしています。世界が平和に見えていた時は自社の利益のみを追求することが許されてきましたが、残念ながら今は乱世です。国家間の利害が激しくぶつかり合っています。その状況下で自社の利益のみを優先することは難しくなると思います。コロナ禍を通して、これまでは顕在化されていなかった、近隣の大国とその同盟国による脅威が明らかになっています。

 

企業のCEOは自社の企業理念の元、社員が安心して仕事に邁進できるよう、国際政治の状況にも目配りして、事業展開する地域を選択する必要性が増しています。特に日本の場合、米国と比べて国のTopの権限が弱く、安全保障上の備えも十分ではありません。なので、日本のCEOはより自制的でかつ先を見通すべく日々勉強が必要になるのだと思います。・・・と自分に言い聞かせる毎日。