42.個人と経営の狭間で思う事

世の中にはたくさんの起業経験者がいると思いますが、起業を試みるようなチャレンジ精神が旺盛な人は皆、最悪な事が起こったとしても、自分一人ぐらいは食っていくことはできるという自信を持っていると思います。であるならば、一人で好きな事をして気ままな人生を歩むという選択肢もある訳ですが、そうでなくリスクを冒してでも事業を起こすという選択をする人間は、何を考えてその選択をするのでしょうか?まあ、自身の事なのですが、コロナ自粛で家にいる時間も多いので、改めて自分が考えている事と、違う選択をする人が何を考えてそうしたのかをなるべく客観的視点で眺めつつ、違いと共通点、そして今後自分は何を続けていくのかについて、つらつらと書いてみました。



 

あまり対極にいる人を想定しても、その人に関する批評めいた文章を書いてしまいそうなので、自らのタレント性やアイデアを中心に仕事をしている様な人達を中心に考えてみたいと思います。

 

私が思うに、芸術家のような仕事を持ち、その腕が世間で評価されていて、何年も先まで作品の予約が詰まっているような人って、超幸せなんじゃないかなと思ってしまいます。なぜならば、生活面での不安はなく、好きで始め、極めた道を続ける事ができるからです。ただ、よく考えてみると、世間一般の仕事の場合は、同じことをただ繰り返すだけでは、いずれ新しい何かに淘汰されてしまうように、芸術の世界でも、同じ作風を続けて一生評価され続ける保証はないはずです。彼らは何を目指しているのでしょうか?

 

もう少し我々ビジネスマンがイメージを持ちやすい職業で考えますと、例えば料理人などは芸術家に近いところがあると思うのですが、優秀な料理人はつねに新しい味を追求し、且つその料理に対する評価をお客様からダイレクトに受け取る事ができるので、評価され続ける事に対する努力のありようは、比較的理解しやすいです。評価する人はお客様という点で、我々のビジネスと同じですから。

 

一方で、芸術家・・・もう少し幅を広げてアーチストと呼ばれる人は、自身の価値観で作品を作ることが多いと思うので、食べていくためにどこで折り合いをつけるのだろうかと思ってしまいます。例えば、歌手の人などは、「このような歌い方が評価されるから、そのような歌い方に変えよう」といって作風を変えるようなことは抵抗があると思うし、なかなかできないですよね。だからオーディションを受けてたまたま評価された人だけが脚光を浴びる事ができるという狭き門になるのかもしれませんが。ただ、それでも一度脚光を受けたとしても、一生飽きられずに評価されることは一部の人を除いては困難だと思います。かといって作風を変えることもとても勇気がいるし、簡単ではないと思います。従って、食べていくという観点では、著名になったという事を貯金にして、活動をマルチ化していく必要があるのだと思います。TV番組には多数のバラエティー番組やワイドショーがありますが、そこに多数のマルチタレントが出ていますよね。これらの番組ってアーチスト/芸能人が長く生き残っていくために必要なプラットフォームになっているのではないかなと思います。ただ、これらも飽きられつつありますが。

 

改めて、純粋な芸術家に目を向けたいと思います。現代においては芸術家の方たちも、美大や音大での学びを経てプロの芸術家になるケースが殆どですが、それでも芸術家を志すかたは、独自の感覚や世界観を重視して作品を作りたいはずです。そうでなければ工業製品のようにコピーを作れば済んでしまうからです。しかし、芸術家としても活動を続けるためには、生計を立てていかなければならない訳で、自身の世界観と市場の評価の間で折り合いをつけることが必要になるはずです。気になったので少し調べてみたのですが、例えば絵画の世界ではアートフェアやコンテストが各地で催されるのですが、それぞれにおいてテーマがあるようで、それによって評価者の特徴も分かれるという事です。従って重要な事は、自分の特徴が受け入れられやすいアートフェアやコンテストに出展して評価を得て、実績を重ねる事という事でした。芸術の世界も市場の選択が重要なのですね。

 

ここで、我々がいるビジネスの世界に目を向けたいと思います。多くの起業家は、“世の中をこう変えたい”といった世界観を持っています。もちろん“世の中”は対象とする市場によって大小様々ですが。
芸術の世界とビジネスの世界で大きく違う事は、ビジネスの世界では1人ではできないという事です。もちろん個人事業のような形態もありますが、その業界でTopを目指すような志を持った場合は、どうしても仲間が必要になります。起業間もない時は、資金的にも余裕はありませんから、従業員選びは難しい選択になりますが、余裕がないからこそ従業員選びは重要になります。なぜなら100人の会社が1人を採用する場合と2人の会社が1人を採用する場合は、その1人の占める割合が全く違うからです。誤った人選をすると、会社が蝕まれてしまいます。経営者の価値観を理解し、それを実現する為に自ら思考する能力を持った社員を見つける必要があります。

 

ここから先は、私自身が自分に言い聞かせるつもりで考えを述べさせて頂こうと思います。事業が軌道に乗り、さらなる発展を実現する為には、重要なのは、やはり人です。私は自身が実現したい世界観があって起業しておりますから、自分が追放されない限り、経営者として働き続けたいと思っています。ということは、採用される社員は、求められる職務の範囲でプロとして、長く働いてもらう必要があります。その為に私が考え、遂行して行かなければならない事は、次のような事だと考えています。

 

①事業が新しく、社会にとって価値が高いものにする事
②社員が担う仕事は、新しいチャレンジがあり成長が強いられるものである事
③社員が身に付けたスキルは社会的にも評価されるものである事(その為に①が大前提)
④会社のブランド力を高め、社員がそこで働いていた事が実績として評価され、多くの選択肢を持てる事

 

最後の④の意味は、我が社で働いていた事が、転職市場でも評価され、社員が様々な可能性を保有する状況を作りたいと言う意味です。勿論、優秀な社員には長く会社にいて欲しいのですが、私自身が経営者として働き続けたいと思っているわけですから、たとえ右腕のような社員でも、様々な選択肢が持てるようになるまで“ブランド力を高める”という覚悟を持たないと無責任だと思い、このような誓いを立てました。

 

この誓いを守っていくためには、私は新しいチャレンジをし続ける必要があります。結局、芸術家のような個人の活動も、企業の活動も市場にも社員からも支持されるためには、安定なんて無いんですね。

 

多くの人は、年を重ねていくと自分の夢にも折り合いをつけていく傾向があるようなのですが、何故か私は年をとっても夢は広がり続け、全く折り合いが付きません。このままやるべきことがどんどん増えて、最後は沢山の事をやり残して死を迎えるのだと思います。だけど、それが最高の人生だと私は思っています。

 

コロナ自粛で1人が長いので、こんなことを考えてみました。ご清聴ありがとうございました。