56.スーパー企業になる為の目の付け所

つい先日、非常に興味深いシャープの新製品/技術に関する記事を目にしました。多くの皆さんがご存知の通り、シャープの主要事業の一つは液晶ディスプレーです。そしてこの液晶ディスプレーは様々な場所に設置したいという要望に応えるために、技術を磨き続けてきています。今回の新技術は、この液晶ディスプレーの「液晶」が真冬のスキー場でも氷結して固体化せず、真夏の海岸でも液体化しないようにする技術を応用したもので、いわば“12度まで溶けない氷”です。



 

具体的に今回シャープが開発したものは何かと言うと、特殊な「適温畜冷材」です。一般には“保冷剤”と呼ばれることの方が多いと思いますし、皆さんもイメージがつきやすいでしょう。シャープが持つ技術を応用すると、-24度~28度で溶け始める”氷”の状態で保冷することができるのだそうです。そして今回は、食品宅配サービスの「パルシステム」の要望に応じて、12度をキープする「適温畜冷材」を開発/リリースしました。

 

従来からパルシステムが食品輸送に用いている畜冷材は、冷蔵品・青果ともに0度を維持するもので、青果が直接触れると低温障害により凍結や変色で傷むケースがありました。その為に、畜冷材と青果の間に緩衝材を挿入する必要がありました。今回、12度をキープする「適温畜冷材」を導入する事により、輸送する青果の適温を維持する事が容易にするだけでなく、以下の大きなメリットを享受する事ができるようになりました。

 

・緩衝材が不要になることによるコスト削減
・凍結までの時間を大幅短縮(0度:18時間 → 12度:12時間)
・畜冷材の凍結にかかる電力量の40%削減

 

凄いですね!たった一つの「適温畜冷材」の導入によりこれだけ大きなメリットを提供する事ができるなんて、考え方次第で様々なことが実現可能なのだなと考えさせられる記事でした。皆さんもご存知の通り、日本には多くの製造業が存在します。そして各々の製造業にはシャープの「液晶」のようにコアとなる技術があるはずです。そしてご紹介した事例のように、このコア技術を応用して非常に高い価値の製品を創り出すことが可能なはずです。我々日本人はコロナ禍で縮こまるのではなく、今こそ発想を解放して、様々なチャレンジをするときであり、またこの苦境の時期にどれだけのチャレンジをできたか否かがトンネルを抜けた時に急成長を遂げる会社に変貌するか消えていく企業になるかの境目になるかもしれないとも感じています。

 

さあ、それでは自身が持つコア技術を使って新しい製品や事業を起こすためには何をしたら良いでしょうか?このようなことを考えネットを調べてみると、「ナインシグマ」という“技術”と“ニーズ”とのマッチング事業を推進する企業がある事が分かりました。ところが、ナインシグマいわく、“技術”と“ニーズ”とのマッチングの実現は非常に困難だと言います。どういう事でしょうか?

 

実は各企業や大学が持つ“技術”は、先に述べたシャープの事例のように分かり易く表現されているものは少なく、その“技術”自身がどんな価値を持つ物なのかを知ること自身がハードルが高いものである一方、“ニーズ”についても潜在的なものであったり、これまた分かり易い形で表面化している物ばかりとは限りません。従って、この分かりにくいモノ同士がマッチングされるには以下のプロセスを経る必要があります。

 

①世界に1000万人弱いる研究者が日々生み出している技術の中で、当該技術が魅力的なものであると思ってもらう。
②魅力を感じた当事者に、当該技術に関して、どのような用途があるかを導きだしてもらう。
③導きだした用途を教えてもらう。
④当該用途に対して魅力的な市場があることを確認する
⑤当該市場における、その用途において当該技術に優位性があることを確認する

 

特にコア技術の保有者と、その技術に魅力を感じた当事者間に信頼関係が構築される前においては、上記②③のフェーズで、用途に関するアイデアをコア技術保有者に提供するインセンティブは働きにくく、万が一提供されたとしても、コア技術保有者側の研究者・技術者がその用途に興味を持って取り組みたいと思う確率も限定的となってしまう事が多いようです。従って、上記の①~⑤が成り立つ確率が各々1/100だとすると、①~⑤を経て具体的な事業が生まれる確率は、

 

1/100 x 1/100 x 1/100 x 1/100 x 1/100 = 1/10000000000!!

 

という非常に低いものであると言わざるを得ないという事のようです。そこで前述のナインシグマは、コア技術保有者側に、

 

・技術の用途(前述の②)
・用途における強みの仮説(前述の④⑤)

 

を考える事を促し、提示してもらったうえでナインシグマが持つネットワークに参加する企業に投げかけるというスキームにすることで、要は経るべきプロセスが当該技術に魅力を感じるか否かという上記の①のみに絞り込む事ができ、マッチングの確立を上げる事ができるという手法を取っているとの事です。

 

シャープはそもそも企業文化として自社が持つコア技術に対して、今述べたところの“技術の用途”や“用途における強み”等を自ら見つけ出すことが得意なのか、先に述べた取り組み以外にも様々な意外な事業に進出しているようです。面白いものとしては、空気清浄機の技術を応用した“蚊”の捕獲機と言うのがありました。UVライトを使って蚊を引き付け、そこで空気清浄技術の応用で一気に吸引してしまう。特徴は、一切薬剤を使わないので人体への影響を心配する必要が全くないという点です。

 

ここまではコア技術を中心とした事業多角化のアプローチを述べてきました。一方で、これと対極をなす多角化のアプローチとして、企業の目的を中心としたアプローチがあります。これについては以前このブログで述べた事例を再掲します。

 

異なる会社目的と成長に関する事例:
米国にある2つの同規模のペットフード会社があり、2社は競合関係にありました。この2社が定めた目的は以下の通りでした。
A社:“ペットにより良いものを”
B社:“ペットにより良い世界を”
A社は、資本投下をペットフードに集中させ、一定以上のシェアは確保しましたが競合の激しいペットフード業界において、飛躍的な成長を遂げたというレベルまでは達しませんでした。
B社は、ペットの、家族の中での位置づけの高まりに注目し、ペット医療が家族にとって重要であると気づき、獣医関連企業を買収。結果、ペットを取り巻く大きな市場を取込みペット業界のリーダーに成長しました。

 

コア技術を中心とするアプローチに対して、こちらは対象とするマーケットに対する自社の価値をあらゆる角度から最大化する事に注力していきます。得意分野を絞るという考え方もありますが、会社が目指す社会的貢献度は大きい方がそれだけ価値が高いことになりますし、ビジネスの環境変化が激しい現代においては、目的はこの例のようにより広がりのある世界をイメージした方が、経営の視野も広くなりプラスに作用するのかもしれません。また、このアプローチをとるには事業スピードを鑑みるとM&Aが必須になりますので、日本よりM&Aが早くから浸透している欧米企業の方がこのアプローチがなじむのかもしれません。

 

私の夢は、日本経済を世界最強にすることなので、ここからの課題は、日本企業はどちらのアプローチをとるべきか?ということになります。コア技術を中心とするアプローチをとるには社員が優秀である必要があります。企業の目的を中心としたアプローチをとるにはリーダーが優秀である必要があります。欧米と日本と言うざっくりとした分け方をしたときには、日本の優位性が発揮できそうなのは前者であるコア技術を中心とするアプローチだと思います。しかしながら、それだけでは日本は今と変わりません。

 

現場の社員を優秀に育てるためにかかる労力と、優秀なリーダーを育てる労力を比較した時に、どちらのほうが少ない労力で済むかを考えると、当然そもそも人数の少ないリーダーを育成する方が容易だと私は考えます。優秀なリーダーが牽引する企業を増やす一つの方法は、たくさんのベンチャー企業を輩出することですが、そこでのキープレイヤーは起業家自身とVCになります。

 

一方やや、派手さには欠けますが、私は既存の製造業に注目をしています。中国と西側諸国がデカップリングをしていくことはほぼ確実ですから、日本の製造業にとっては大きなチャンスだと感じています。私自身が考えるリーダーが持つべき素養とスキルは以下の様なものです。

 

A.社会に対する貢献度を重んじる
B.謙虚さを持ち、学ぶ姿勢を一生忘れない
C.論理的思考ができる
D.マーケティングに関する基礎的知識がある

 

そして我々Tech-Dabのアプローチは行動心理学に基づきA~Cの多くを満たす人材を社内から発掘することと、その人に会社の方針を整理するToolを武器として提供する事です。主役はあくまでもお客様であり、我々は助走のお手伝いをすることになります。しかしながら我々も事業家ですから、長く弊社のサービスをご利用いただくために、継続的にToolの強化をし、より皆様のお役になてる努力を続けていきたいと考えております。

 

先に述べたことの繰り返しになりますが、シャープが次々と素晴らしい製品を開発できる理由は社員が優秀だからでしょう。しかしそのシャープが過去に没落した理由はリーダーの力が不十分だったからという事になるのかもしれません。そこに鴻海と言う台湾メーカーが資本参加する事により、強いリーダーが投入され良いモメンタムが生まれているように見えます。

 

ここで、
「やはりリーダーは海外に依存した方が良いのか・・・」

 

等と思わないでください。今では主権を主張している中国(当時は清)ですら疫病が蔓延していて踏み込めなかった台湾を統治して、現在の台湾の基礎を作ったのは日本なのです。

 

新型コロナウィルスに対しては、蔡英文総統の強いリーダーシップの元、迅速に中国との往来を止めただけでなく若き天才オードリー・タンを閣僚として招き入れアプリによるマスクの供給の最適化を成功させ、世界で最も新型コロナウィルスへの対応が成功した政府と言われています。また技術・産業面においても台湾にはTSMCという半導体メーカーがあり、この会社抜きにはファーウェイは自社製品を製造できないとまで言われており、中国-米国間で綱引きが行われています。

 

この様に、現在最も世界で注目されている台湾の独立に向けての礎を築いたのは、7/30にご逝去された李登輝 元総統です。そして、日本統治時代に日本の教育を受け、京都帝国大学を卒業された、その李登輝 元総統が

 

「台湾近代化の基礎を作ったのは日本だ!」

 

と明言されているわけです。我々はもっと自信を持つべきです。世の中は乱世ですが、同時に素晴らしい未来も目の前にあるように感じています。