66.ピンチこそチャンス

安倍政権の功罪のうちの“功”として挙げられるのものの一つとして“経済”があります。ただ、個人的には何か実感として乏しい印象があるのですが、皆さんは如何でしょうか?ちょっと気になったので第二次安倍政権が発足した2012年からコロナ前の2019年までの名目GDP及びその内訳比率の推移を調べてみました。出典は内閣府がHPで開示している統計資料です。



如何ですか?正直、「こんなに着実にGDP成長していたんだ!」って感じた方、多いのではないですかね?私も実は驚いています。ちゃんとやっていたのですね、安倍政権。純輸出が着実に伸びているのと並んで企業の設備投資も成長していますので、恐らく金融緩和で市中の通貨を増やしたことで、円高が抑制され、結果輸出が伸び、そこで得たお金が設備投資に回ると言った良いサイクルがイメージできます。但し、国内の需要が喚起されたわけではないので、個人消費は、GDP全体の伸びに比べると伸びが鈍く、結果的にデフレ脱却に繋がっていないため身の回りの景気が良くなっているとの実感がないのだと思います。

 

身近な経済環境からは明るい未来を感じられないからか、最近の若い人(若い人に限った話ではないかもしれませんが)は、内向きの思考が多いという話をよく耳にします。安定志向という事もありますが、それだけでなく、「私はちゃんとやっているのに、他の人ばかり評価されておかしい!」等々。つまり、自分の都合中心の人が増えているのかなと感じるコメントをよく耳にするわけです。

 

私は、自分の会社を設立するまでは、全て外資系の企業で働いていました。外資系企業は結果で給与が変わりますから、自分中心の発想の人は多かったかもしれません。しかしながら私が社会人になって最初に働いた会社だけは少し違っていました。自分の為と言うよりも、会社の為、チームの為にどうしたら良いかと言う発想を持つ人が少なくなかったと思います。私が最初に働いた会社と、その後で働いた2つの会社。その間にある違いは何でしょうか?

 

恐らくではありますが、最初の会社は、その会社を好きな社員が多かった気がします。愛社精神と言うのは社員を1つにまとめるためにとても大事な役割を持つのだと思います。では、愛社精神を育むためには何が大事なのでしょうか?恐らくこれの答えは1つではありませんから、ポイントを絞るために、逆に飛躍する企業の特徴という事から見てみたいと思います。飛躍を遂げている企業では、間違いなくそうでない企業に比べて愛社精神が育まれていると思うからです。

 

私の好きなビジネス書の一つにジム・コリンズの「ビジョナリーカンパニー -飛躍の法則-」という名著があるのですが、その中で、偉大な企業へ飛躍する企業は、3つの項目を掘り下げて考え、その3つのエリアが交わる領域に資本と労力を投下し続けていると言っています。その3つとは以下の通りです。

 

A.自社が世界一になれる部分はどこか(得意な部分ではない。“世界一”になれる部分)
B.経済的原動力になるのは何か(追求すべき “X当たり利益” は何か)
C.情熱をもって取り組めるのは何か

 

そしてこの3つがうまく噛み合い始めると、“無双状態”になるというのです。私は“愛社精神”の観点では、この中のAとCが注目すべき点だと感じました。だって自分が好きな事をやって世界一になったら最高じゃないですか!?もう少し深く考えると、Aが満たされるときは結果が出た時ですから、先に満たすべき事はCになります。”C”は、皆が“同じ方向を向く”為にとても重要な要素だと思います。仕事の上で“同じ方向を向く”と言う事は言い換えれば、“目標”と“価値観”を共有することです。そしてこの事は、愛社精神を育む上で非常に重要な要素だと感じます。

 

逆に言うと、愛社精神が無いという事は、“社員はバラバラの考えを持っている”ということになります。なので自分中心になっちゃうわけですね。バラバラの考えを持つ社員ばかりの会社を、同じ方向を向いている社員で満たすようにするにはどんな方法があるのでしょうか?毎日の地道な活動の積み重ねなのだとは思いますが、ここでは少しわかりやすい方法を皆さんと考えたいと思います。

 

1つは“採用”です。どんなに徹底した社内教育をやっていても、そもそも全く素養の違う社員をどんどん採用していたら、同じ方向を向く社員で会社を満たすことは不可能です。逆に、“採用”が正しく同じ価値観を持つ人をとるという観点で機能していれば、しばらく時間がたって新陳代謝が進めば、会社は同じ方向を向く社員で満たされるようになる可能性は高いと思います。

 

2つ目のキーワードは、“ピンチ”です。つまり人々は危機に瀕した時に一つにまとまる傾向があるということです。

 

国際政治に関心のある方は、今、“台湾”がものすごく注目されていることをご存知ですよね。これまでは国連常任理事国の中国が、台湾を中国の一部と主張していることから、独立国として認められなかったのですが、経済面では最先端の製造技術を持ち、米国からも強い指示を受けて軍事的にも強化され、対コロナ対策も世界で最も成功した国として認められています。

 

台湾は今年1月の総統選までは蔡英文総統の支持率も低く、親中的な国民党に政権を取られると思われていました。しかしながら、直前に起こった香港問題を目の当たりにし、国民党が政権を取ってしまったら台湾は、中国に支配され自由を失うという強烈な危機感を抱き、国民はこれを阻止するという方向で一致団結し、結果、蔡英文さんは選挙で圧勝し、今がある訳です。

 

実は日本だって同様です。日本が近代化の道を急速に進める事ができたのは、黒船が来航したことにより、強烈な危機感を抱き、これまでの幕藩体制を廃して、日本国として1つにまとまらなければ列強に飲み込まれてしまうとの思いから、明治維新が起こっているわけですし、かつての高度経済成長も、第二次世界大戦に敗戦し、東京が焼け野原になってからの事です。

 

強烈なピンチが訪れると、選択肢は限られるために、そこにいる人々はまとまりやすくなり、且つ突破口に向かって力を集中させるために、ある壁を通り抜けると飛躍的な成長につながるのでしょう。

 

一般的に言って、優秀な人は、自身のVisionや進むべき道筋が明確であるために、そこから外れそうになった時に、それに気づき、機敏に修正をすることができます。“優秀な人”を“優秀な会社”と言い換えても同じことが言えるでしょう。しかし、社員がバラバラな会社では、道筋が定まっていない、もしくは共有されていないので、道から外れているのかどうかも気付く事ができません。鶏と卵のようですが、ピンチによって会社はまとまるきっかけを得る事ができますが、そもそもまとまっている会社は、同じ方向を見ているので、危機察知能力も高いと言えます。同じ方向を見ていれば、会社に起こっていることは自身に起こっている事という当事者意識も高まりますから、結果として社員が能動的に動く傾向も高くなります。

 

もし、これを読んでいる貴方が、今自分は窮地にいると感じているならば、そもそもあなたはVisionが明確で危機察知能力が高い人かもしれませんし、普通の人より高い目標を持っているのかもしれません。しかし、そうではなく、まだVisionも道筋も実は決められていないのだという場合は、窮地を乗り越える突破口を見つけることによって、飛躍するチャンスがそこにあると考えるべきです。

 

これは個人的な意見ですが、人間は同様の努力をしている場合、それほど大きな差は生まれないと感じています。そんな力が拮抗した中で、大きな差を生み出すためには圧倒的な集中力をもって事に当たるしかありません。“ピンチ”はそのために不可欠なものなのかもしれません。