72.オンデマンド人材プラットフォームの台頭

急激なビジネス環境の変化や、DX時代を迎えるにあたって、多くの経営者は如何に必要な人材を適切に確保できるかに日々頭を悩ませています。特に最近では新型コロナウィルスの蔓延により、米国では今年の春には多くの人が職を失いましたが、経済が回復している現在においては急激に再雇用が進んでいます。このように、オンデマンドに人材を削減、獲得する方法やこれを提供する人材サービスはこれまでもありましたが、今後はより高いレベルの人材に対してもオンデマンドで調達するという手法が恒久化していくであろうという記事がHarvard Business Reviewに載ってしました。




現在は、オンデマンドに人材を提供する以下のようなプラットフォーマーが注目を集めているようです。

 

1.Marketplace for premium talent
日本語に訳すと“高品質の人材を得る事ができる場”ということになりますが、このようなサービスを提供する代表的な米国企業としてはToptal社やCatalant社が挙げられます。これらの企業は、科学者や戦略的プロジェクトマネージャー、さらには暫定的なCEOやCFOさえも提供する事が可能で、「世界中のTop3%のフリーランス人材を確保している」と胸を張っています。そして雇用期間は数時間~数年までと柔軟に選択できる形をとっており、冒頭に触れた新型コロナウィルスの影響下においても、このサービスは非常に多くの企業の支持を得る事ができたとの事です。

 

2.Marketplace for freelance workers
“1”で言及したサービスはハイクラス人材に特化したサービスとなっていますが、こちらは個々の細かいニーズに対応したスキルを持つ人材をマッチングできることが特徴となっており、“企業のロゴデザイン”であるとか“法的文書の翻訳”等、特定あるいは特殊なスキルをピンポイントで提供する事を旨としており、代表的な企業としてはUpwork社、Freelancer社及び99design社などが挙げられます。社名からも憶測できるように、最初から適用できる分野を絞って人材を提供しているサービスもあるようですね。リモートワークの広がりにより、この手のサービスの使い勝手も上がっており、需要は増しているようです。

 

3.Platform for crowdsourcing innovation
このサービスでは、技術的な課題を抱える企業がその課題や、解決時の報酬等をポストし、その課題に対してフリーの技術者が集まって解決すると言ったスキームを提供している様であり、代表的な企業としては、InnoCentive社やKabble社と言ったものがあるようです。

 

このようなサービスが台頭してきている理由としては、企業の経営サイドの需要だけではなく、企業に縛られないワークスタイルを希望するスキルある人材が増えているという背景もあるようです。特に2000年生まれ以降の若者は、他の世代と比べてこのようなワークスタイルを好む傾向にあるようですが、実は若者だけでなく、その他の世代においても、介護をしなくてはいけない家族がいたり、育児の為に家庭に集中したいと考える人材が、自身に時間が持てるようになってから復職するための新たなルートしても注目されているようです。スキルある高齢者などにとっても活用できるプラットフォームになるかもしれません。

 

改めて、これらのサービスを通して得らえる企業側のメリットを整理してみると、柔軟かつ低リスクで必要な人材にリーチできるという点がまず挙げられます。技術職は不断の教育、学習が必要になりますが、これが不十分であれば取組みたいプロジェクトを組むこさえできません。先に上げたPlatformを活用することでプロジェクトに応じた適切なタレントを確保し、そしてプロジェクト終了後には開放するという事が柔軟にできるということは、企業の選択肢を広げる事に大きな貢献をしているのではないでしょうか。

 

このように柔軟に必要な人材にリーチできるために、育成の期間を省く事ができるという事は、商品を市場に出すまでの時間を短縮する事にも貢献出来、変化のスピードの速い現代においては重要なサービスともいえるのかもしれません。特に、伝統的に行っている事業ではなく、何かイノベーションを起こすことを目的としたタスクなどにおいては、人材がいないのでタスクを立ち上げる事すらできないという可能性は、これらのPlatformを活用することで低くすることができるでしょう。

 

今のトレンドを鑑みると、このようなPlatformに対するニーズは増えていくと思います。そして社員が社畜にならず企業と対等の立場と緊張感をもって、期待された価値を提供することは良い事だと思います。

 

ただ一方、“会社は社会の公器である”という言葉があります。そして“社会”の中には“社員”も含まれるはずです。そう考えると、今ご紹介したようなオンデマンド人材プラットフォームに過度に依存する事は、経営者として怠慢であるともいえるのではないかと個人的には感じています。

 

ここからは、私の好みの話ですが、私は強いチームが大好きです。当然そのチームを構成する“個”も強い方が好きだし、強くなるための手助けもしたいと思いますし、そして自分も強くありたいと強く思っています。当該Platformを多く活用した企業と、同じ文化を共有する社員で固められた企業はどちらの方が強さを維持できるのでしょうか?私はその答えを持っていないのですが、例えばプロ野球のチームがあり、そこでは監督、コーチ、エースそして4番バッターはチーム専属だけど、その他のメンバーはプールされている100人の選手からどのチームも試合ごとにピックアップする事ができるとしたらどうでしょうか?恐らくチームの強さは監督の采配に大きく依存する事になるでしょう。そしてその”優秀な監督”のもと、レギュラーの8割近くが一時的に呼び寄せられたメンバーで構成されるチームが優勝した時に、ファンの皆さんは本気で感動できますか?その夜のビールかけは盛り上がりますか?絶対盛り上がりませんよね。

 

ある特定のチームの専属になるという事は、優勝を絶対的な目標とした場合、ある程度のリスクも背負う事になるのですが、同じリスクを共有するからこそ一体感が生まれ、それが強さにつながるのではないかとも思います。何が正しいかを常に意識しつつ、周囲の環境の変化に対応し、一つのチームが強さを安定的に維持する為にはとても難しい舵取りが要求されます。つまり経営者はこのような困難さを強いられることを分かった上で、社員にとってもお客様にとっても価値の高い会社であり続けるための舵を取り続けるのだ! という覚悟が必要であり、この覚悟の度合いが経営者の“強さ”を測るバロメーターだと思います。そして私はそのような”強い”経営者が大好きだし、そのような”強い”経営者になりたいと思っています。