4.成功の積み重ねがもたらす効用

今回のテーマは“成功の積み重ねがもたらす効用”です。「大きく出ましたなー!!」って思っちゃいますよね?
「著者さん、著者さん 一体どんな大成功の体験談を話してくれるんですか?」
って言いたくなっちゃいますよね?(汗)
私がこれからお話ししようとしているのは、多くの皆さんが少しの努力でも得ることができる小さな成功の積み重ねです。なので共感できるところもあると思いますよ。



 

世界で最も権威のある時点として有名なOxford English Dictionaryで“Success(成功)”を調べると、

the fact that you have achieved something that you want and have been trying to do or get

となっていました。つまり、

 

“あなたが欲していた事、あるいは実行しよう、獲得しようと努力してきた事を成し遂げる事”

 

という事です。簡単に言えば「目的を成し遂げる事」ということになるでしょう。これを成功の定義とすると、この世の中で成功体験がない人はいないという事になります。成功体験の無い人は死んでしまいます。

「はぁ?どういうこと?」

と思われるかもしれませんが、要は“目的”のレベルを低くすれば小さな成功は誰でも得られるという事です。例えば生きていくためには食べることが必要です。なので今日一日生きていくために食事をしようという目的があった場合、食事をするだけで小さな成功は手に入ります。従って、世の中で成功体験がない人はいない・・・と言うことになります。ということで、ここでは誰にでも手にできる、“成功体験”を活用して、如何に組織や自身の成長に活かすことができるかについてお話を進めていきたいと思います。

 

さて、ここでは“成功”について達成すべき“目的”の困難さによって以下の3つに分けたいと思います。

 

1.本人がその気になれば、だれでも達成できる目的をクリアすることによって得られる成功

2.鍛錬することによって得たスキルにより、達成できる目的をクリアすることによって得られる成功

3.自身のスキルを超えて、何らかの幸運も作用した結果達成できた目的をクリアすることによって得られる成功

 

では、一つずつその内容と効用についてお話ししたいと思います。

1.本人がその気になれば、だれでも達成できる目的をクリアすることによって得られる成功:
これまでのビジネスの経験を通して、私が、最も価値のある“だれでも達成できる目的”と言えるものは“約束を守る事”だと思います。簡単な事のように思えますが、約束を守ることを徹底するだけでビジネスには劇的な効果があるとも言えます。このブログの1回目でも触れましたが、私が全く上司に信用されていない時のでき事を、少しだけ共有させて頂きます。

 

それは、あるトラブルに関するお客様向けの報告書を作成しているときの話です。それは深刻なトラブルでもあったので、その解決には上司も携わってくれていました。以下はその時の会話です。

 

上司 :どうせお前はろくな報告書もかけないんだから、俺が言う事をそのまま書け!
私  :はい。わかりました。
上司 :(しばらく書き進めた後)間違ってファイルが消えないように保存しろ。
私     :「ファイル」→「名前を付けて保存」 を操作。
上司:相変わらず非効率な奴だな。「保存」くらいアイコン化しておけよ!
私    :はい。わかりました。

 

これが一連の会話の一部ですが、翌日、この作業の続きを上司としたときに同じように「保存」しろと言われたときに、前日の上司との作業の後、アイコン化をしておいたので、「保存ボタン」を押し、1クリックで保存をしたところ、

 

上司      :ふ~ん。お前、言われたことは一応やるんだな。

 

と言われました。これが変化のきっかけでした。その時の私は、上司と会話しているときのほとんどは叱られている記憶しかないぐらいでしたので、この一言が非常に嬉しかったのを覚えています。嬉しかったので、それ以降も、どんなに細かい事でも言われたことは必ず反映するようにしました。すると、少しずつ上司と私の間で信頼関係が築かれるようになりました。
信頼関係がないと、前回指示されたことをやったかどうかを毎回チェックされますので、私だけでなく、上司もストレスを感じますし、なにより時間が倍かかります。一方、「こいつは言われたことは必ず実行する」という信頼関係があると、新しい議題に注力できるのでストレスもないし、効率的且つ建設的に議論を進めることができるようになります。

 

このような「約束を守る」という行為があまりできていない感じる方がいるのであれば、是非試してみてください。劇的に仕事のしやすさが変わります。対象は、社内の人、社外の人全てとして、約束したことは3回目のブログ「緻密な計画の立て方」で言及した、週間計画、日次計画にもれなく書き入れて忘れないようにします。また、お客様などとの会議の終わりには、

「残課題はA,B,Cでありこれについて確認して次回ご報告します」

というように、意図的に約束を明確にします。これをするだけで、お客様も頭が整理されるだけでなく、安心感が生まれ、次回約束通り回答をお持ちすることにより安心感は信頼感にかわるのです。

 

以上のように、約束を明確にし、確実に答えることを徹底することを心掛けると、自身の仕事における集中力も高まりますし、信頼関係も深まることに加えて、さらに相手に信頼してもらいたい、託されたいという思いから成長する為に学ぼうという気持ちも高まります。

 

自身のみならず、組織の運営に活かす場合は、組織のメンバーと共通の目的を実現する為に次に取るべきアクションを議論し、

「よし、じゃあ次までにこの3つをやるようしよう」

とお互いに約束し、次回その結果を議論するようにします。もちろん何らかの理由で、その約束が果たせないケースもありますので、その時は、できなかった本当の理由を突き止めて、前に進むための次の目的について約束をします。
賢明な読者の方々はお気づきかもしれませんが、これらの約束は部下のスキルレベルに合わせる必要があります。実行できない約束をしても時間の無駄になりますので。この話を深く掘り下げると、部下に対する個別の育成計画の話に言及する必要がありますが、ここでは割愛します。

 

中には、
「あなたと約束すると、次の会議で必ず結果を追求されるので、約束しません」
といった、信じられないようなメンバーもいましたが、このようなケースは、そもそも成長意欲が全くない人なので、辞めて頂くか、だれでもできる価値の低い仕事をそれなりの給与でやっていただくという判断をすべきでしょう。

 

この項の結びとして、一つ加えたいことがあります。組織運営に関することです。そもそも約束をして、それを達成する事のモチベーションは、相手に褒めてもらいたい/信頼してもらいたい ということであり、これが無いと、約束と信頼のサイクルは継続されません。管理職になると、どうしてもメンバーを管理する視点に偏りがちですが、メンバーにとって魅力的な仕事を提供しているのかという視点も忘れずに持つ必要があると、私は強く思いますし、私もまだまだできていないと思っています。魅力のない職場で信頼関係ができても、あまり意味ないし、褒めてもらっても嬉しくないな。。。と優秀なメンバーほど思うかもしれないからです。

 

2.鍛錬することによって得たスキルにより、達成できる目的をクリアすることによって得られる成功
少し堅い表現になっていますが、“鍛錬することによって得たスキル”とは

 

・営業であれば、売るためのスキル
・エンジニアであれば、担当する製品を導入するスキル
・ファイナンスであれば、財務指標に基づき異常を察知するスキル

 

等、各々の職務を全うする為に必要なスキルです。

前項”1.”は、社会人としてのファンダメンタルな部分を固めるために、簡単な目的と成功を通して信頼関係の構築と生産性の向上が得らえるという話でした。”2.”は各職務従事者がプロとして、自身の数値目標等を達成するには ”必要なスキルを備えている事” が大前提となります。中には、新人営業でもやたら数字の達成意欲が高く、あの手この手で数字を集めるセンスの素晴らしい営業等がいたりしますが、多くのケースは、そもそも売るためのテクニックを理解しないと、何に向かって努力してよいのかわかりませんので、達成意欲がわきません。従って、ここでは各部門は自部門の数値目標を達成する為に踏むべきプロセスを定義するところから始める必要があります。”1.”では“約束”を守ることを唯一の目指す目的と成功でしたが、”2.”ではプロセスを定義して、各プロセスを確実に実行する事を目的とし、その為のスキルを身に付け、実行できたら成功とします。そうして、プロセス毎の小さな成功の連なりが部門の数値結果につながる訳です。

 

プロセスの運用初期段階や、スキルレベルの低い職務従事者は最初は各プロセスを進めることに集中しますが、実績が積み重なっていきますと、部門の数値目標を効率的にクリアする為に、各プロセスを進める工夫点などが議論されるようになります。

 

まとめますと、各部門の目標を達成する為に必要なプロセスを定義し、そのプロセスをこなすことを小さな目標として定義することで、成功体験を踏むことができる。そしてその各プロセスでの成功が、最終的な部門目標につながることをメンバーが経験することで、組織は自走し始めるわけです。

 

もちろん、定義したプロセスが組織の目標達成につながる正しいものでないといけません。ここではプロセス構築に関する詳細については触れませんが、それに関するソリューションに興味がある方はこちらをご覧ください。

 

3.自身のスキルを超えて、何らかの幸運も作用した結果達成できた目的をクリアすることによって得られる成功
これまで述べたように、”1.”の成功を通して社会人としてのファンダメンタルな能力を身に付け、”2.”の成功を等して、組織が組織目標を達成する為に自走する文化が生まれると、結果に対する責任感が醸成されます。責任感が生まれると、組織目標の達成が危ぶまれるシーンに直面した時には、とても焦りますが(笑)、色々とあがくようになります。これが次のステージの入り口となります。

 

ここで、ある事例を共有させて頂きます。

某大手ゲーム会社にシステム開発の提案をしていた時の話です。提案は順調に進み、競合に競り勝ち、我々の提案がお客様社内で上申されることが、そのゲーム会社のIT部長から告げられました。受注を確信した私は、上司にそれを告げ、契約の準備を進めていました。そこに1本の電話が入りました。IT部長からでした。内容は

 

「申し訳ない。社長が今後は御社のソリューションは買うなと一方的に言ってきた。理由はわからない」

 

というものでした。その時は、眩暈を感じるほどのショックを受けました。私が所属する組織の目標を達成する上でも非常に重要な案件でしたし、何しろ私は前日に、上司に対して“結果にコミット”してしまっている訳ですから。。。そのまま気絶していれば楽だったかもしれませんが、、、それは許されません。情報が少なすぎたので、色々と調査をすると、どうやら

“数カ月前に提供した、あるコンサルティングサービスの内容に、社長は不満を持っている”

ということが判明しました。それはABC(Active Based Costing)分析というもので、簡単に言うと以下のようなコンサルティングサービスです。

 

A.社内の業務プロセスを整理する
B.従事するあらゆる社員の時間単価を調査する
C.各社員が各業務にかけている時間を算出する
D.各業務プロセスが創出する売上と粗利を計算する
E.上記Bで算出した単価とCで算出した時間を掛け合わせ各業務にかかる人件費を算出する
F.上記D(粗利)-E(人件費)=営業利益を業務ごとに算出する
G.利益の低い業務に単価の高い社員が従事しているようなケースを洗出し、最適な営業利益を創出できる人員の再配置案を提案する

 

このコンサルティングサービスでは、お客様側は副社長がオーナーを務められ、高い評価を頂いていたはずでした。サービスを実施したコンサルタントからも情報を入手した上で、意を決して社長室に電話をし、

「ご提供したサービスに対して、社長様はご不満があるとお聞きした。御社は我々にとって重要なお客様なので、ご不満な点を勉強し、必要があれば正したいと思う。私の所属する組織の最高責任者の専務と共にお話を伺いにまいりたい」

と伝えたところ、電話に対応してくれた社長秘書の方は

 

「社長は多忙を極めているので。。。その申し出にこたえるのは難しいと思いますよ。一応は話をしますので少々お待ちください」

 

とつれない返事でした。1分後、
「お会いするそうです。但し、専務様は不要です。お一人でいらっしゃってください」
との回答。急いでコンサルティングサービスで提供した報告書等を手にし、訪問の準備を進めて社長を訪ねました。

社長室に通された私は、社長と2人きりの部屋で、

・ABC分析の提案内容
・ABC分析の成果物内容
・進め方については副社長も合意の上、進めたこと

等を、大汗をかきながら説明しました。それに対する社長のコメントは次のようなものでした。

 

「業務の内容と、従事者をパズルのように組み合わせて、利益の出るよう再配置をするというやり方は、社員がサボタージュせずベストエフォートしていることが大前提になるのではないか?残念ながら弊社はその域に達していない。なのでこれは机上の空論になってしまう。御社のメンバーはインタビューの過程でこの大前提が満たされていないことに気付いていたのではないか?」

 

しかし、社長は続けて

「しかし、貴方がABC分析の考え方や進め方を事前に副社長に説明している事や、コンサルティングの作業自身は一生懸命やってくれたことは伝わった。なので、専務様を連れてくることはしなくてもいい。ただ、個人的にはインタビューの過程で弊社がそのレベルに達していないという事を伝えてほしかった」

 

とのコメントを仰ってくれました。社長の本音を聞き、誤解も解け、その場の雰囲気は少し柔らかい感じになりました。しかし、実は私の本当の目的は、既に上司に対して“結果にコミット”してしまっているシステム開発案件の注文を得ることです。でも、社長のアポの際にはその事には一言も触れませんでした。どう話を持っていこうかと私がモジモジしていると、社長が、

 

「もう一つ話があるんじゃないのかね?」

 

と水を向けてくれたのです。それと同時にIT、財務、企画の部長クラスの方々を社長室に呼んでいただき、その場で私は提案の内容を説明しました。で、社長が一言
「この提案の内容でみんな納得してるんだな?」
それに対して、皆がうなずいた後、
「では、正式に発注書への捺印処理を進めて」
と社長からの言葉があり、Happy Endとなりました。

副産物としては、この出来事の後は、多くの案件で半分顔パスのような感じで案件を優位に進めることができるようになりました。

 

少し話が長くなりました。私は武勇伝を披露する為にこの話を引用したのではありません。それにこの出来事は必ずしも、私の交渉力で勝ち得たものではなく、ラッキーもあったと思っています。そこにあったのは熱意と誠意ぐらいかなとも思います。

 

これは私の事例ですが、他のものからも色々な体験談を聞いた結果、言える事なのですが、このような事を経験すると、経験者は “簡単には諦めなくなる” のです。

 

ビジネス環境の変化が激しい昨今においては、100%の準備ができないまま勝負の日を迎えてしまう事も珍しくはありません。70%の準備で勝負の日を迎えたときに

 

「完璧じゃないから負けるかもしれないな」

 

と不安になるのではなく、残りの30%をその場で埋めるぐらいのつもりで、お客様の僅かな顔色の変化を察知してコメントを差し込む等、ぎりぎりまで集中力を高めていくと、“何か”が起こったりします。

 

こういう諦めない仲間と仕事しているとワクワクしませんか?

 

まとめます。
3つのレベルの成功を体験することにより、自身や組織は強くなります。

・約束を守るという基本的な事を繰り返すことで、信頼関係を構築し、
・組織の仕事をプロセス化し、プロセス毎の成功を目標につなげることで、組織は自走し、
・諦めずに得らえたたった一回の奇跡によって、“諦めない事”の効用に確信を持つようになります。

 

これらの内容が皆さん自身や組織の成長に貢献できるようであれば、嬉しい限りです。

 

このような考え方の元、チャレンジを続けていくと、様々な無茶もしてしまうものです。次回はその無茶の一つともいえるかもしれない“短時間睡眠”について触れたいと思います。