5.短時間睡眠の功罪

読者の皆さんの中で、毎日忙しくて時間が足らない!!って思ってらっしゃる方はどのくらいいるのでしょうか?このブログに興味を持たれる方は、成長意欲の高い方かなとも思いますから、多くの方は時間が足らないと思っているかもしれませんね。



 

日々忙しくされている方が、さらに新しいことに取り組もうと思ったときに取るアプローチは、大きく分ければ以下のようになると思います。

A. これまでの活動の効率化を進め、時間を作る
B. 睡眠時間を削る
C. 優先順位をつける(何かを捨てる)

これについては、様々な書籍が様々な立場から主張をしていますので、これが正しいというのはないと思います。但し、AとCについては、生きていく上でのある程度の能力だったり成熟度が無いと適切な行動や判断をするのが難しいと思います。そういった観点から考えると、ある意味だれでも取れる方法がBの“睡眠時間を削る”という事になります。しかし一方で、“睡眠時間を削る”という事自身にアレルギー反応を示される方もいて、

 

「えー、寝る時間削るなんてありえない」

 

という方もいます。果たして、新しいことに取組む時のアプローチとして短時間睡眠はありなのでしょうか?ということで、今回は短時間睡眠の功罪を、自身の経験を交えてお話ししていきたいと思います。

 

1.短時間睡眠の “功”

そもそも私が短時間睡眠を始めることにしたきっかけは、英語の習得でした。当時は30代の前半で、丁度エンジニアから営業になって間もない時でした。配属された営業部は外資系企業のみをお客様として担当する組織でした。その辞令を受けたとき、私のTOEICの点数は300点程度でした。どの程度の英語力かというと、

「英語話せますか?」

と聞かれたときに間髪おかずに

「話せません!」

と回答するレベルです。(笑) 「ん~ 日常会話は少し」とか格好つける余地もないレベルです。なので、配属先の先輩に

 

「私は全く英語しゃべれませんよ。戦力になれるかどうか。。。」

 

と不安を吐露しましたが、“外資系とはいえ日本にある会社なのだから社員は日本人の方が多い。日本語で充分仕事はできる” といわれたので、それなら大丈夫かもしれないと思いました。そして、最初に引継ぎを受けたお客様を訪問した時にお客様からあるプレゼントを頂いたのです。それは、

 

“100ページに及ぶ英語のRFP(Request for Proposal)”

 

でした。(汗)
よく、読み書きはある程度できますが、話すのはちょっと、、、という方がいらっしゃいますが、私はそういう方は結局は読み書きもダメだと思います。リアルタイムで処理しなくてよいので調べたり、聞いたりすることができるから、そう答えているだけで、実務レベルで必要なスピードには対応できないはずです。従って私も、“お客様が求めるスピードで対応できるのか?”と頭を抱えながらそのお客様のビルから出てきたのを今でも鮮明に覚えています。

 

当時私は、“売れない新米営業”でしたので、気軽に頼ることができる人もいませんでした。辞書を引きながら翻訳をするにしても、文法に全く自身が無かったので、適切に翻訳ができるかどうかわかりません。重い足取りのまま、たまたま目の前にあった書店に入り、手掛かりを探しました。そして、目についた本のタイトルは

 

“10時間で英語が読めるようになる本”

 

という、単行本サイズの本でした。すがるような気持ちでその本を購入し、家に帰るや否やその本を読み始めました。RFPを受け取り、その本を買ったのが金曜日でした。土日にRFPの翻訳をしたいと考えていましたので、私は金曜の夕方から“10時間で英語が読めるようになる本”を頑張って5時間で読了し、なんとか基礎的な英文法を頭に叩き込んだうえで、土日に辞書を片手に100ページのRFPにルビ訳をつけて、説明できるレベルまで読み込むことができました。そして月曜日には、提案書作成の協力を仰ぐエンジニアの方々に説明をし、作業に着手することができました。エンジニアの方々は

「すげえ!全部ルビ訳がついている!」

と言ってくれましたが、結局は多くのエンジニアの方は英語を理解する方々でしたので、私の努力は不要だったかもしれません。ただ、“売れない営業”だった私が、

「僕、英語全然ダメなんで、、、お願いします!」

と言って渡すより、努力の影が見える分だけ、エンジニアの方々のやる気を後押しすることができたのではないかと思っています。

 

さて、そんな事があり、いよいよ私は

「英語を使えるようにしないとあかんな。。。」

と本気で思うようになり、勉強をする決心をしました。しかし、夜勉強をするとなると、どうしても付き合いで飲むこともありますので、勉強をしない日が生まれてしまいます。毎日勉強をしようと考えると、「勉強は早朝にした方が確実だな」 という結論に至りました。とはいえ、もともと要領が悪かった私は、残業しがちでしたので、酒を飲む時は、飲み始めも遅い時間になることが常でした。ということは、

 

“その日によって、就寝できる時刻は遅くなったりもするが、朝は決まった時間に起きて英語を勉強する”

 

事が必要だなという事に気付きました。つまり睡眠時間を削るしかないと。そして、その時に新たに手にした本が

 

“ナポレオン 3時間睡眠法” (タイトル名はちょっと曖昧かも。。。)

 

というものでした。
この本は結構いい加減な本で、いろいろと理屈が書かれていましたが、要約すると
“最初の1カ月は体がボロボロになるが2カ月目からは慣れる”

 

というものでした。しかし、それは本当で、最初の1カ月は相当しんどい思いをしましたが、2カ月目からは体が慣れて、普通に3時間睡眠を維持することができるようになりました。肝心の“英語力”ですが、1年後にはTOEICが600点台になり、それから数年後には外国人の上司に英語でレポートをするようになってましたから、ビジネス英語はなんとか身に付いたと言って良いのではないでしょうか。
あ、そう言えば、巷には“聞き流すだけで英語がきけるようになる”とか“英語に文法は不要”とかいう英語学習教材が出回っていますが、あれは嘘ですね。英語をマスターした日本人は皆、

「語学の習得には時間がかかる」

と言っています。一朝一夕にはいきません。でも、少し理解できるようになると楽しくなるので、効果を感じる瞬間を早める手法はあると思いますし、そういう意味で有効な教材はあると思います。

 

ということで、短時間睡眠の“功”の一つとして、強い意志をもって(あるいは追い込まれて?(笑))始めれば、これまで自分に持っていないものを身に付ける有効な手段になりうると言えます。また、2次的な効果として言えるのは(“私の場合” ですが)、以下の2点が得られたのかなとも思います。

 

「絶対に負けない という強い意志が育まれる」
「異次元の世界で生きることができる」

 

まずは前者の「絶対に負けない という強い意志が育まれる」についてお話しします。
英語力がある程度落ち着いてきてからの話ですが、当時の私は本当にワーカホリックでして、起きている時間は“仕事しているか勉強しているか”という状態でした。その時に、3時間睡眠の話をそれなりに営業成績の良い同僚にしたところ、

「3時間睡眠?ありえない。私は6、、7時間はねないとだめ」

という反応が返ってきました。この意見自身は尊重すべきですし、人によって効果的なアプローチは様々だと思いますので、全く否定するものではありません。ただ、その時私が思ったことは次のようなことでした。

 

「6~7時間寝ているということは、俺はこいつより1日3時間多く仕事しているのか」
「という事は、1週間で3x5=15時間違うな」
「という事は、1カ月で15x4=60時間違うな」
「という事は、1年で60x12=720時間違うやん」
「1日の標準的労働時間を8時間とすると720÷8=90日も違うという事か」
「1カ月の労働日を20日とすると90÷20=4.5カ月・・・1四半期以上!」

 

という考えが巡り、こいつらが1年を4半期かけて数字を作っている間、おれは5四半期以上働いている。。。。絶対負けられんな!!
と思ったわけです。まあ、自分を奮い立たせるっていう意味では“功”と言って良いのかなという事です。

 

次に後者の「異次元の世界で生きることができる」ですが、これは敢えて少し尖った表現にしていますが、要するに、人とは違う時間感覚になるということですね。

 

ある晩のことですが、A先輩と酒を飲んでいました。飲み始めも遅かったので、勘定を払うときは12時を回っていました。その時に私が、

「明日は早朝7時からB本部長のレビューなんですよ」
※B本部長は当時鬼軍曹のように恐れられていた

という話をしたところ、A先輩は、

「マジ!? そんな大事なレビューの前に遅くまで飲んで、、、お前、肝座ってるな~!」

と驚かれたのでした。しかしその時は3時間睡眠の熟練者になっていましたので、そこからタクシーで帰って簡単にシャワーを浴びれば1:30には床に就くことができます。3時間後の4:30に起床し、身支度/通勤に1.5時間を見たとしてもレビュー開始までに1時間の余裕があります。当然前の日に、酒を飲む前には準備は済ませておりますので、レビュー前に頭を整理するには1時間もあれば十分です。
つまり、肝が据わっているのではなく、十分な時間的余裕が事実としてあっただけです。

 

という事で、一般の方々とは違う時間間隔の中で、酒も仕事も楽しめるという事で、「異次元の世界で生きることができる」という表現をさせて頂きました。

 

2.短時間睡眠の “罪”

さあ、ここからは“罪”についてですが、実のところよくわかりません。ただ、

「体を壊すかもしれないから気を付けて」

とは言いたいですね。実は私は3時間睡眠が日常になってから暫くした頃、40代半ば頃ですが、手が思うように動かず、PCのタイプに時間がかかるような症状に見舞われるようになりました。それと同時に、眩暈が頻発するようになり、激しい立ち眩みのようなことが起こり、ひどいときは数秒間気絶するような感じでした。眩暈には、何となく前兆があるので、いきなりバタンと倒れることはないのですが、ゆっくりと手をつき、倒れていく感じになります。そして2Km以上のジョギングができなくなりました。原因不明の期間が長く続いたのですが、ある年の健康診断で再検査となり、診察を受けた結果

 

“洞不全症候群”

 

と診断されました。簡単に言うと、不整脈が激しくなったような病気です。心臓の鼓動が規則正しく脈を打たなくなり、時折数秒停止してしまう。その心臓が停止しているときに貴方は眩暈を起こしたり気絶したりしている。。。と言われたときはちょっと怖いなと思いましたね。
この病気は、心臓の鼓動が停止した時に、そのまま止まり続けて死に至る可能性はほぼないという事なのですが、心臓が止まっているときに、駅のホームから落下したり、運転中に小学生の列に突っ込んだり・・・という事件を引き起こす可能性があるから、すぐに手術してペースメーカーを入れましょう という事になったのです。

 

術後は眩暈もなくなり、回復しました。正直、短時間睡眠とこの病気の因果関係はわかりません。ただ、睡眠には重要な役割があります。それは脳や体の回復です。人間の体のいたるところには血管とリンパ管が張り巡らされています。リンパ管は体の各部位の老廃物を回収し、体の外に出す働きがあり、血管は栄養を体の各部位に届ける働きがあります。この働きが活発になるのが睡眠中だと言われています。
従って、短時間睡眠によって損なわれるかもしれないものの一つは、体の回復です。若いときは新陳代謝も激しく、短時間睡眠でも十分回復できたのかもしれないことが、年齢を重ねるうちに、ひょっとしたら回復が追い付かなくなり、病気の温床となってしまったのかもしれません。

 

まとめ:

結局私は、その手術を境目に、3時間睡眠はやめました。ただ、10年以上に及ぶ3時間睡眠を経て、人より長く起きている時間を使って多くの事を学ぶことができたので、その学びを活用して、効率的に仕事を進めることもできるようになっていたため、今では3時間睡眠でなくとも時間が足りないと感じることはありません。

 

最近、“Short Sleeper”などと名乗って短時間睡眠を推奨する動画をよく目にします。この人はそれをビジネスにしているようです。体験談では若い女性が、

「Short Sleeperになって趣味に時間を割くことができるようになりました」

等と言っています。
私は短時間睡眠の体験者ですから、その効果を否定はしませんが、実践をしたいと思う人はお金を払ってレッスンを受けなくても、私のように最初の1カ月体がボロボロになる覚悟さえあればだれでもできます。もし、その1カ月が嫌で、代わりにお金を払ってレッスンを受けてShort Sleeperになろうという方がいる場合、その方たちにお勧めしたいことは、

 

“体の回復に関するメカニズムについてどう解決しているのか”

 

を確認する事です。

「Short Sleeperになる方は同時にこのサプリを飲むことによって日中の体の回復能力が倍増しますので、3時間睡眠でも十分なのです」

といった理路整然とした回答が返ってくれば試してみる価値はあるかもしれませんし、あとはそのサプリの医学的根拠をネット等で確認すればよいでしょう。
逆に言えば、この回復のメカニズムが不明のままShort Sleeperを志す場合は、Short Sleeperは一生続けることはできないものだと考えた方が良いです。なので、これまでの私のブログで申し上げた、“崇高な夢”“緻密な計画”の考え方を駆使して、ご自身の取り組むべきことの優先順位をつけて取り組むと自身にとって意味のあるShort Sleeper時代を過ごすことができるかもしれません。「趣味に時間を割く」程度の事が目的なら、体をむしばむだけなので、お勧めはしません。

 

私は、短時間睡眠については、もう辞めてしまいましたが、まだまだやるべきことがあると思っています。なのでこれまで学んだことを生かして、効率的に物事に取り組んでいますし、読者の皆さんも同じ思いなのではないかと思います。物事を効率的にこなす方法は、様々なものが世の中に存在すると思いますが、その究極はAIとかではなく、仲間を作り補い合う事だと思っています。次回はそこに焦点を当ててお話をしたいと思います。