13.バランススコアカード

前回の最後にお話しした通り、今回のブログではバランススコアカードを取り上げたいと思います。戦略/戦術を整理するフレームワークとしては既にグローバルで活用が広がっていますので、ご存知の方も多いとは思いますが、様々な層の読者を想定し、(一部の方には釈迦に説法になるとは思いますが)バランススコアカード(以下BSC)とは何ぞやという事と、その効用、さらには補完すべきことについてお話しさせて頂きたいと思います。



 

BSCとは、簡単に申しますと、中期の事業目標を実現する為の戦術を、財務、顧客、内部プロセス、学習と成長という4つの視点から検討するためのフレームワークです。最終的にはこれら4つの視点に対する戦術がどのような因果関係を持つものかを示す「戦略Map」というチャートを作成し、アクションプランに落とし込みます。

 

ここで、“戦略”という言葉が出てきました。“戦略”に関しては世の中に多数書籍があることと、適用するシーンやレベルによってその定義も微妙に変化しますので、ここでは超簡単に定義をさせて頂きます。

 

皆さんが経営する、もしくは所属する会社を、ある尺度で評価した時に、現在の位置(評価)をA地点とします。皆さんがこれまで通り、真面目に日々の業務をこなしていくと、A地点のポジションは確保し続けることはできるかもしれませんが、より高い位置(例えばB地点)に行くことはできません。なぜばらば、これまでとやっていることが変わらないからです。外部環境の変化により、景気が良ければよりよい位置であるC地点に行けるかもしれませんが、不景気であればより悪い位置であるD地点に行くかもしれないわけです。”戦略”とは、より高い確率でB地点にたどり着くために必要なものです。

 

つまり、より明確な意思をもって、いまよりも良いB地点に行くぞという方向性を選択する事/示すことを、“戦略を立てる”と呼んでいるわけです。
この“選択”をより確かなものにする為に、3C分析やPEST分析等の様々な伝統的手法が存在するわけです。伝統的手法という意味ではSTP分析なんて言うのも有名な手法ですので、すこし余談ではありますが、簡単な説明と、最近の評価及びそれに対する個人的な意見も皆さんと共有させて頂きたいと思います。
STP分析とは以下を整理して、より自社にとって有利な市場を選択する事を目的としています。

 

Segmentation    :市場をある特徴に基づいて分解する
Targeting            :分解された市場のどの部分を狙うかを定義する
Positioning         :Targetingした市場の顧客に対し、自社がどのような価値を届けるかを定義する

 

なお、Positioningは届ける価値を定義し、実際にお客様が、

「〇〇と言えば△△社」

という印象を持って頂くことによって、お客様を誘導することが最大目的となります。

 

最近は、ネットを通じてダイレクトに顧客の購買動向にアクセスできることと、AIの台頭によりダイナミックに売り方も変えられるからSTP不要論も出てきています。しかし、あらゆる商品をあらゆる場所に届けるインフラを持っているAmazonであればそう言えると思いますが、商品企画から市場投入まである程度の時間がかかる業態では、まだまだSTPは機能するのではないかと感じています。もちろん全てのものが3Dプリンターで製造できるようになれば話は別かもしれませんが。。。

 

話を戻します。現在の位置(A地点)よりも、よりよいB地点に行くぞという方向性を選択する事/示すことを、“戦略を立てる”と呼ぶ と申しました。そして、B地点に行くための方策を戦術と呼び、BSCはこの戦術を偏りなく整理する為の手法だと言えます。

 

冒頭にお話しした通り、4つの視点で戦術を整理し、各戦術の関連性を整理して戦略Mapを作成します。以下に簡単なイメージをお示しします。

少し、冗長的な説明になりますが、以下のような流れで各視点の戦術をまとめていきます。

 

1.財務的には、シェア拡大等「収益増大」を優先するのか?それともコスト削減等「生産性向上」を優先するのか?或いは両方の施策を考えるのか?
そしてそれぞれに対して、
・中方針:BSCではこれを戦略目標と呼びます
・実現させるための施策方針:BSCではこれを重要成功要因と呼びます。
・目標設定:KPIとして設定します。
※重要成功要因は一般にCSF(Critical Success Factorと呼ばれることが多いです)
※KPIは通常は先行指標的なものが用いられますが、財務の視点においては結果としての財務指標は遅行指標を設定する事が一般的です。

 

2.次に、財務の視点で定義した戦略目標を実現する為に重要視すべき顧客との関係は、
“商品をお届けする一連のプロセス”の洗練性を増すことにより、お客様を惹きつけるのか?
“特定のお客様に対する価値”を高めて関係を密にするのか?
“ブランドイメージ”を向上して不特定多数のお客様を惹きつけるのか?
等について、同様に顧客の視点として「戦略目標」、「CSF」、「KPI」を定義します。

 

3.次に、顧客の視点で定義した戦略目標を実現する為に、社内のプロセスをどのように強化すべきかを、「業務管理」、「顧客管理」、「イノベーション(商品開発)」、「規制と社会」について同様に内部プロセスの視点として整理していきます。

 

4.最後に、上記の内部プロセスの視点で定義した戦略目標を実現する為に、それを実践する社員はどのようにスキルを上げていくべきか、ITで支援すべきか、組織文化をどう育むべきかについて、同様に「戦略目標」、「CSF」、「KPI」を定義していくといった流れになります。

 

比較的短期的な効果を狙って焦点を絞るときは、各視点においても選択肢を絞って定義するのがよいでしょう。例えば、財務の視点では「生産性向上」に絞った戦略目標のみを定義するといったことになります。一方で、中長期的な視点で考えれば、例えば内部プロセスの視点等は絞らずに、

 

 ①業務管理のプロセス
 ②顧客管理のプロセス
 ③イノベーションのプロセス
 ④規制と社会のプロセス

 

をまんべんなく4本の柱として定義することが推奨されます。なぜならば、①から④に移るにつれて、活動が利益として還元されるまでにかかる期間が長くなる傾向があるからです。例えば①の取組の結果は通常半年程度での結果を期待していますが、③においては取組から商品リリース及び売り上げにつながるまでは1年以上かかるケースが多いです。
つまり、①~④を並行してサイクリックに続けることで、結果として健全なポートフォリオの確立にも貢献することが期待されるわけです。

 

いかがでしょうか?BSCについてはお判りいただけましたでしょうか?
グローバルにわたり、活用事例が多数あるだけあって、バランスよく整合性のとれた戦術を立てるには優れたフレームワークだと思います。具体的な進め方や事例については書籍やネットで簡単に入手できますので是非、自社でうまく活用する方法等を考えてみてください。

「確かに、「BSCは素晴らしい!是非取り入れよう。これが整理されたら自社の業績も堅実に上昇するに違いないな!」

と感じて頂けましたか?そう!よさそうですよね!・・・ しかし現実はそれほど単純ではなく、BSCが整理されたからと言って業績が上向くわけではありません。そう言うと、

「どういうこと? 長々と説明したことをここで否定するのか?」

と思われるかもしれませんが、そうではありません。もう少しやるべきことがあるという事です。
賢明な読者の方々は既にお気づきかと思いますが、BSCを策定しても、方向性を整理したにすぎません。具体的な日々の業務や意思決定の仕方についてBefore/Afterを明文化しないと、具体的な行動の変化を促すことはできません。その為に、BSCの結果を業務プロセスに反映するという活動が必要になり、その結果はじめて日々の行動を変えることができるのです。

 

Tech-Dabが提供するBPOSはBSC策定及びプロセス策定を支援する機能を提供します。
このブログの中でBPOSの詳細を述べることはしませんが、BSCをプロセスに落とし込む上での特徴的な考え方について少し言及させて頂きます。

 

BSCを通して策定した戦術を効率的に日々の業務に落とし込むために重要な事は、階層化された業務プロセスを定義することです。少しわかりにくいですよね? 図を使って説明します。

BSC:サプライヤーを厳選してコスト削減を実現する

このように、はじめから階層化された業務プロセスのテンプレートがあれば、戦術を適用する箇所が絞り込むことができて、まずは赤枠のプロセスのみのBefore/Afterを定義すればよいという事になり、最短距離で日々の行動の変化を起こすことができます。

 

今回はBSCがテーマですので、ここで改めてBSCの効能について注目したいと思います。日本人は改善活動は得意ですから、業務フロー等を作成したことがある人はある程度いるのではないかと思います。しかし、業務フローの作成からスタートしてしまうと、網羅的に業務フローを作成する事が目的になってしまい、膨大な労力がかかってしまったり、また、業務フローから始まるとどうしても10時間かかっている作業を5時間にできるか?といった作業効率に目が行きがちです。でも、そもそも粗利の薄い事業の末端業務を短縮化しても、会社としての効果はかなり限定的になってしまいます。
なので、まずは利益を出すにはどうすべきかをBSCで整理して、それを実行に移すためにピンポイントで業務改善をすれば、そちらのほうが圧倒的に早く利益創出にたどり着けるわけです。

 

いかがですか?BSCを効果的に活用してみたいなという気分になってきましたか?
もし、読者の皆さんの何人かが、この記事を読んでワクワクと前向きな気分になってくれたのなら、それは僕にとってもとても嬉しい事です。

今回のブログでお話しさせて頂いた、戦略や戦術は経営にとって非常に重要な事であることは言わずもがなです。一方で世の経営者の方々は、日々何について頭を悩ませているのでしょうか?
次回は統計データに基づき、経営者の課題意識について注目していきたいと思います。