14.変わらない日本の経営課題

本日は日本の企業経営者の課題意識の変化について考えてみたいと思います。
実は毎年、日本能率協会と言うところが「日本企業の経営課題 20XX」という統計資料を発表しています。それによると2019年(最新版)で発表されている日本企業の経営課題のTop3は以下の通りです。



 

1.収益性向上
2.人材の強化
3.売上・シェア拡大

 

これだけですと、少し面白みのない結果ですよね。当たり前すぎるというか。
この統計は企業規模によってもカテゴライズされています。カテゴライズされた企業規模は以下の通りです。

 

大企業   :従業員数3,000人以上
中堅企業:従業員数300人以上 ~ 3,000人未満
中小企業:従業員数300人未満

 

面白みを見つけるために、過去3年に渡る当該統計の推移を調べた結果驚くべきことが分かりました。なんと、この経営課題Top3は過去3年全く変わっていないのです。大企業だけを見るとTop3には“事業ポートフォリオの再構築”が入っていたりするのですが、中堅企業以下を見ると過去3年間の経営課題Top3は、上記の通り全く変化がありません。

 

ご存知の通り、日本の雇用の70%は中小企業によって賄われていると言われています。上記の“中堅企業”は会社法上は大企業になりますが、中堅企業+中小企業でみると雇用のみならず、経済的規模も日本企業の創出する価値の半数を超えます。とても、重要な層という事になりますね。

 

実はこの統計、同時に「3年後の経営課題は何になっていると思いますか?」という問いに関する回答もまとめています。
それに対する中小、中堅企業の回答には“事業ポートフォリオの再構築”や“新製品・新サービス・新事業の開発”といった課題が挙げられています。
これは何を意味するのでしょうか?2017年に各企業経営者は上記の課題を挙げつつも、3年後の2019年にはこの課題のいくつかはクリアし、次の課題として“事業ポートフォリオ”の見直しや“新製品”の強化に取り組みたいと思っていたわけです。
しかしながら、統計の結果だけ見ると、全く進展しなかったという事を意味しています。
他に課題として取り上げられていた4位以下の項目を参考までに列挙してみますね。

 

・デジタル技術の活用・戦略的投資
・働きがい・従業員満足度・エンゲージメントの向上
・技術力・研究開発の強化
・高コスト体質の改善
・コーポレートガバナンスの強化 等々

 

皆さん、ここで何か気付きませんでしたでしょうか?
Top3の課題の内、人材強化を除く2つの課題は、“収益性向上”、“売上・シェア拡大”という、つまりビジネスの結果ですよね。ほかに挙げられている課題項目はこれら結果を導き出すための施策や手段と言えるものです。

 

これに気付いたとき、私は強烈な危機感を感じました。あくまでもこの統計から推論できる範囲ですが、

「日本の経営者は収益性や売上といったビジネスの結果をだすために必要な施策が整理されていないのではないか?」

と思ってしまったのです。さらに言うならば、Top3の残りの1つは“人材強化”。
あくまでもネガティブに分析すればという前提ですが、この結果を見ると、“収益性”も“売上”も上がらない。ここは“優秀な社員”を見つけて頑張ってもらうしかない。。。。と言っているように見えてしまい、極めて当事者意識が欠けている経営者が多いように見えてしまうのです。本当のところはどうなのでしょうか?

 

読者の皆さんが経営者であるなら、自身のこれまでの取組や心構えを、皆さんが従業員であるならば、経営者の方の態度や言動を思い出してみてください。

 

皆さんの会社の経営者が、社長“然”としていて立場にこだわっている雰囲気を醸し出していたり、

「そんな些末なことに社長の俺/私がかまってられないよ!」

といった言動や雰囲気を出しているのであれば要注意です。なぜならばそれは当事者意識の欠如からくるものかもしれないからです。

 

会社とは、継続的に社会に対して価値を提供していないと、存続の価値はありません。継続的価値創造活動ができなくなった時の責任の所在は経営者にあります。“些末”な理由により価値創造活動に支障がきたしているときに、“それは社長の仕事じゃない”と言えるでしょうか?100歩譲って、それは〇〇常務の職掌だ・・・と言えればまだ次のアクションもとれますが、中には誰の仕事か不明確なのに、「全部社長の俺がやるなんて無理だよ」と嘆いている人がいます。全部ひとりでできないなら、その役割を決めてJOB Assignをすればよいのです。それもせずに嘆いているのは、当事者意識が欠如していると言われても反論できませんよね。

 

不幸なことに、このような当事者意識が欠如している経営者のもとで貴方が働いている場合、取りうる選択肢は以下の3つになるでしょう。

 

①会社を辞める
②社長に進言する
③社長に頼らず自身でできることから着手する

 

ここで私から、この選択がお勧めですと断言することはできません。私は自分の会社を立ち上げるまでに3社ほどの会社勤めを経ておりますが、辞めるときに上記の③を試すべきだったかな。。。と後悔したことはありました。③を選択すると、その時にはとても大きな苦労を背負い込むことになるかもしれません。しかし、逃げではなく前向きな選択の結果、苦労を背負ったときに、何のプラスもなかったという話を私の周りでは(自分自身も含めて)聞いたことがありません。なので経営に一歩近づくチャンスと考えて③という勇気のある選択をしてみるのもよいと思います。
但し、全く無策で飛び込むわけにもいきません。“何から始めたらよいかわからない”ということを避けるためにも、会社の中にある活動の全体像について、皆さんと俯瞰していきたいと思います。

 

会社の中にある活動をここではプロセスと呼びます。大きく分けると社内のプロセスは以下の3つに大別する事ができます。

次に、各プロセスが価値を提供する“お客様”を明確化します。“オペレーションプロセス”の場合は顧客になるでしょう。しかし個々のプロセスによって想定される顧客とその期待は変わってきます。商品を提供する為の一連のプロセスが想定する顧客と、保守サービスプロセスが相対する顧客は異なります。マーケティングプロセスに至っては未来の顧客をイメージすることになります。サポートプロセスにとっての顧客は社内にあるでしょうし、マネジメントプロセスの顧客は、株主やメディアになるでしょう。
このように各プロセスの顧客を整理したら、次は各顧客の期待値になるべく低コストで答える方策を考えることが次の考えるべき事です。

会社全体の運用をイメージする為に、もう少し上流から考えるべき事を列挙すると、

 

・企業理念を理解し、これを維持する
・事業(数値)目標を策定し、これをめざす
・目標を達成する為に、各プロセスが相対する顧客の期待に、最適なコストで答える方法を追求する

 

という事になります。これらが整理されていれば、あとは“期待に最適なコスト”で答えるために、あるシーンではAIが有効かもしれないと考えられるでしょうし、その他のシーンではアウトソースが良いかもしれません。これらは各シーンをきちんと分析し、世の中にどのような方法があるかを調べたり、聞いたりすれば答えに近づくことはできます。何から手を付けてよいかわからないという事には絶対ならないはずです。

 

以前も申し上げた通り、人間が他の生物と圧倒的に違うところは、“想像力”があることです。本日申し上げた会社全体の運用イメージが分かれば、その想像力を駆使することによって、経営に必要なことは何かを、経営者自身も従業員の方も理解する事が出来ます。

 

「収益性が上がらない」、「売上が上らない」という現実の前で立ち尽くすのではなく、一つ一つひも解いていけば、少なくとも具体的な課題を見つけることができます。そして、それは経営者のみの仕事ではなく、従業員の仕事でもあると思います。諺に「出る杭は打たれる」と言うのがあることから、経営に関することに口出しする事を躊躇する向きもあるかもしれませんが、最終的には会社の存続にかかわることになるかもしれないわけですから、私は躊躇すべきではないと考えています。もちろん、指摘された相手がメンツをつぶされることがないような気遣いは必要ですが。

 

次回は、最後に触れた、遠慮や事なかれ主義的な考えについて考えていきたいと思います。