16.メンバーとのコミュニケーションは大変だ!

今回は、前回の最後にお話しした通り、私が女性だけの部門の責任者になったときの経験を皆さんと共有させて頂こうと思います。
当時の私は新規開拓をミッションとする営業部の責任者をしておりました。新規開拓の営業の活動は、得意先を担当する営業と比べると、かかる負荷の傾向が全く異なります。得意先担当部門では、多数の見積もり依頼を効率よくこなしたり、導入後の機器の保守更新等の事務的な対応が多かったりするのですが、新規開拓の場合は、お客様を魅了する為のソリューションの品揃え等、提案の上流部分の負荷が高くなります。従って、立ち上げたばかりの新規開拓営業部門が効率的に稼働できるように、サポート部門に対し数多くの要求をしておりました。その事もあってか、サポート部門の一つである営業業務部門もお前が面倒を見ろということになりました。



 

当時の営業業務部門の主な仕事は以下のようなものでした。

 

・簡単な見積書作成
・受注登録
・メーカー発注部門への発注依頼
・納期管理及びお客様との納品スケジュール調整

 

ここで、「新規開拓を経験していない会社ってどういう事?」と疑問をお持ちの読者の方々もいらっしゃると思うので、少し補足します。
その会社は、外資系企業の日本法人でした。そしてお客様の9割程度が外資系企業だったのです。つまり米国やシンガポールにある同社の法人が大きな案件をゲットして、そのプロジェクトをグローバル展開するときの受け皿的な事を日本法人はやっていたわけです。
その為、提案力よりも言われたとおりにクイックに見積もりを出して、予定通りに納品する事こそが重要だったのです。つまり、営業マンの提案能力よりも、営業業務の正確性の方が重要視されていました。

 

私がその会社に採用された時に期待されたことは、新規の市場を切り開くことでしたので、その会社は丁度過渡期にあったと言えるのでしょう。
入社当初の営業業務メンバーの雰囲気は、明らかに営業を見下しているという印象でした。
一方で、提案しない営業など想像もできない私は、事務方中心の考え方を持つ彼女たちとは、衝突を繰り返しており、一部のメンバーとは非常に険悪な関係に陥っていました。
さらに、別の部署の話ですが、メンバーと新任マネージャー間の関係が崩壊し、最終的にはマネージャーが退職に追いやられるといったシーンも目の当たりにしていました。その会社は業務が標準化されておらず、メンバーに総スカンをくらうと、マネージャーは何もできなくなってしまう状況だったのです。

 

そのような状況下で、私は営業業務部門の管理監督をするべく辞令を受けたのです。
個人的には、女性だけの部門を管理することも、事務方部門を管理することも初めてであった私は、手当たり次第に、女性を部下に持つ場合の注意点等に関する記事を読み漁りました。そして、非常に興味深い記事に出合うことができたのです。
それは、

 

「彼女たちの居場所を奪ってはいけない」

 

という記事でした。
一概には言えませんが、多くのケースにおいて、男性社員に対してはキャリアアップ等、次の目標に向かって進みたいという気持ちがあるために、現状にダメ出しをしても、次のステージに行くためにどうすべきかについて、双方向のコミュニケーションを通して、伝え、議論し、振り返り・・・といった指導が機能します。
一方で、日本における多くの女性社員の場合は、次のステージに進むことが重要なのではなくて、今の職場の居場所を守ることが重要だというのです。その為、彼女たちの“今”を否定すると、彼女達は激しく狼狽し、抵抗し、機能不全に陥る危険性が高まるという事でした。

 

私は、果たしてこの記事をうのみにして良いものかと考えましたが、この時、それより前に在籍していた会社でのあることを思い出しました。
それは、“アウトバウンドコールセンターの電話営業”についてです。そのコールセンターの主な仕事は、セミナー等にご参加いただいた、見込客もしくは見込客予備軍の企業と電話やメールを通して関係を築き、醸成し、具体的投資のタイミングを逃さず把握し、外回りの営業に引き継ぐというものでした。
その部門には男性も女性も数多く在籍していたのですが、なぜか長期にわたって高いパフォーマンスを維持できるのは女性に限られていたのです。なぜなのでしょうか?

 

今でこそ、アウトバウンドのコールセンターの重要性は多くの方に認めらえていますが、当時は営業の補助的機能といった印象がありました。しかし会社としては重要視していましたので、そこには優秀な社員も男女を問わず在籍していました。優秀な男性社員は、期待通りにきちんとパフォーマンスを発揮してくれました。しかし、しばらくの期間成績を残すと、彼らは次の事を考え始めるのです。本物の“営業”になりたいと。
アウトバウンドコールセンターの電話営業と外回りできる営業との違いを、彼らは2軍と1軍のような印象で見ていたのかもしれません。
いずれにせよ、優秀な男性電話営業はしばらくすると、ほぼ例外なく悩みはじめ、伸び悩み、移動を希望するか辞めていってしまうのです。

 

一方で、優秀な女性電話営業は、その組織で成果を出し続け、周りからも重宝されることが非常に快適だったようです。先ほどの記事の言葉を借りれば、確かな“居場所”を確保できていることに安心するのでしょう。

 

もちろん、女性の社会進出の必要性が叫ばれている昨今においては、この限りではないと思いますが、私の経験においては、記事の内容と実体験が符合したわけです。そして、私が新たに担当する部門は営業業務という事務方であり、長年あまり頼りにならない営業を支えてきたメンバーです。私は、

 

「彼女たちの居場所を奪ってはいけない」

 

という説はこの組織にも当てはまると思い、これを重視することに決めました。
居場所を侵さないためには、彼女たちが何を居場所と考えているかを理解する必要がありますので、1人1人とコミュニケーションをとって個々の悩みやこだわりを理解していきました。このような活動が功を奏したのか、着任当初は戦々恐々とした雰囲気を醸し出していた彼女たちでしたが、次第に相談を持ち掛けられるようになりました。
最初に質問を持ち掛けられたときは、非常に嬉しかったのを今でも覚えています。しかし事態はそれほど簡単ではありませんでした。

 

10人近くいるメンバーの中で2人の女性社員が積極的に相談を持ち掛けてくれました。便宜上、この2人の社員をAさんとBさんと呼ぶことにしましょう。
最初はとりとめもない相談から始まったのですが、次第にその内容は変化していき、Aさんから相談を受けたとき、その内容の50%以上はBさんを非難するものでした。一方、Bさんが相談するときはその逆で、50%以上がAさんの非難に充てられたのです。
そうです。そこには派閥が存在したのです。外から見ていた時は、1つにまとまっているように見えたチームですが、実は内部は2つに分裂しており、そのリーダー格の2人が自陣に私を引き入れようと綱引きを始めたのです。
最初の方は、私も理解をする為に、2人の訴えることをひたすら傾聴する事だけをしていましたが、それだけだと、彼女たちもだんだん満足できなくなってきます。そこで、部の方向性としてプラスになりうる訴えについては、実行する約束をし、直後にメンバー全員の前でその方針を発表し、実行に移すというということを、双方の訴えに対して繰り返しました。まあ、害の無い範囲でバランスをとっていた程度ではありますが。

 

そのような地道な取り組みの成果なのか、特に大きなもめ事も起こらないまま、しばらくの時間が過ぎていきました。ただ、部としては、私が着任してから何か大きな進展があったわけでもなく、“もめ事だけ”は起こらなかったというだけの事でした。しかし、このあと営業業務は徐々に変化を見せることになります。

 

実はこの時、会社は親会社から変化を求められていました。それは当たり前の要求でした。これまでのような受け身の営業ではだめだ。自律的に成長できる体質に変化しなさい。新規開拓営業に限らず得意先担当の営業も、提案型にシフトしなさい・・・というものでした。
そうなると、営業の時間の使い方も変わります。単純な見積書作成はなるべく事務方に任せ、自身は新しいスキルを身に付けたり、お客様の課題を発掘する為に費やす必要が出てくるわけです。その結果として営業業務の仕事の割合も変化が強いられることになりました。

 

この変化が私にとっては+に作用しました。営業部と業務部の双方を管理している立場だったのでややこしいのですが、具体的には以下の活動を進めてきました。

 

1.営業を提案型にシフトさせるために、営業にやってほしくない単純作業を洗出し
2.業務部門の現行業務の洗い出しとワークロード洗出し
3.業務部門に追加すべき営業サポート業務とそれに回せるワークロード洗出し
4.廃止できる業務の洗い出し
5.新業務への移行プラン及び採用計画

 

以上をまとめる上で、“会社が前に進むために”という大義名分を最大限利用して、メンバー間で役割分担をして情報を整理しました。そして“5”で計画を立てた後は段階的に営業部側にサポート拡充のアナウンスと、それと同時に営業側で遵守して欲しいルールも伝えて段階的に営業に対するサービスを拡充していきました。
ここで、個々人ではあらがえない大きな会社の方向転換があり、業務部門全員が協力しないとこなせないかもしれないという大きな課題が目の前に突き付けられたことからか、派閥が邪魔をして、議論が前に進まなかったという事はなかったように記憶しています。それに加えて何よりも大きかったのは、業務部門のメンバーは皆、

 

「営業に協力してあげたい」

 

と心の底では思っていた事でした。但し、甘やかすとルールに沿っていない無茶な依頼をしてきて、膨大なワークロードを強いられることが怖いので、営業に対してはこわもてを保っているだけで、実は助けてあげたいと思ってくれていたのです。
逆に言うと、この基礎さえあれば、組織は一つにまとまることが可能です。当時私が実施したことは以下の3つぐらいでした。

 

・会社の意図と目的をメンバーと共有
・役割の再分担
・他のマネージャに対する、再分担後の説明と稼働状況についての報告と、それに対するFeedbackのヒアリング

 

因みに、もしその基礎(営業に協力したいというマインド)を満たしていないメンバー社員がいた場合はどうするか?
その場合は、シンプルにお辞めいただくという事になります。働かざる者食うべからずという事ですね。

 

これらの一連の経験から学んだことは、

・変化を求められた組織を機能させるには、大きな課題があった方がまとまりやすい
・一方でベースとして個々人が「人の役に立ちたい/助けてあげたい」という気持ちを持っていることが重要

という事です。

 

さてこのように、組織を改革するときには、その改革が前に進んだときは素晴らしい経験だと心から感じることができますが、一方で、解雇という非情な判断もしなくてはならないことも事実です。解雇をした後は当然のことながら補充が必要になります。ここで、経営層の方々が意識をしなくてはならないことは、自社が社会的にみて魅力的な会社と言えるか否かという事です。人材の補充はモノを買い足すように簡単にできるものではないし、採用できたとしても失敗するケースも多いです。そしてその会社が魅力的でないとしたら、それは経営層の方々の責任にほかなりません。

 

外資系企業の場合、比較的雇用の流動性が日本企業と比べて高いので、エージェント企業もそれを狙って積極的にアプローチをしてきます。私も定期的に彼らとはコミュニケーションをとっていましたが、優秀なエージェントほど、各社の内部の情報を握っていて、非常に興味深かったです。次回はその転職市場に関する話に触れてみたいと思います。