17.盛り上がる転職市場

最近はビズリーチ等の新興企業のCMだったり慢性的な人手不足もあってか、転職市場は活況を呈しているように見えます。経団連の中西会長やトヨタの豊田章男社長からも、終身雇用制の終焉を示唆するようなコメントが出ています。そのような環境下ですので、本日は転職市場、雇用の流動化について考えたいと思います。



 

私は個人的に外資系企業で働いていた期間が長かったこともあり、終身雇用というものにあまりなじみがありませんでした。一定期間以上業績が芳しくない社員は、自動的に業績改善プログラムに乗せられてしまいます。この期間中に目立った業績回復が見込めなければ基本的に解雇となります。もちろん、ここは日本ですから、中には合同労組などに駆け込み、会社と争う者もいますが、基本的には外資系とはそういうものだと理解している社員も少なくないですから、そのまま退職に至るケースが多いです。そして辞めていった社員は転職市場に流れ、再就職し、場合によっては他の会社で実力が開花するようなこともあります。

 

私が個人的に気を付けなければいけないなと思うことは、この解雇に向けた一連のプロセスの中で、評価する側の経営層/管理職は傲慢になりがちだということです。先に述べた、業績改善プログラムは被評価者と課題と目標を共有して、毎週のように実績の評価を進めていきますので、評価する側にも一定以上の負荷がかかります。その上社員がごねだしたりすると、

「とっとと辞めてくれないかな」

などと考えるようにもなったりするわけです。心で思っていることはどうしても態度に現れますので、こうなると最後は喧嘩別れのような雰囲気で退職になることもあります。この時に、経営層/管理職が思い出さなければいけないことは、解雇をした後は採用をする必要があるという事です。この点については、日本企業に長くお勤めの方も多いと思いますので少し補足致します。

 

日本の場合は、解雇となると業績不振によるリストラが主な理由と思うかもしれませんが、外資系の場合は、会社の業績を維持する為に平時から従業員の業績をモニターして、ある閾値に達してしまった社員を業績改善プログラムにかけて新陳代謝を測るのです。なので、リストラによって従業員を減らす必要が無いケースの解雇もあるので、解雇の後には補充の為の採用が必要となるわけです。

 

ここで、解雇を通告するときも、採用面接をするときも、経営層/管理職は評価する側にいる訳ですが、欲しいのは優秀な社員です。ここで忘れてはならないことは、優秀な人は逆に、会社を評価した上で、入社をするか否かを決めるという事です。

 

転職エージェントの優秀なコンサルタントは、細かい情報を持っています。退職し、新しい職場を探している人から細かい情報を得ているのです。解雇に向けての一連のプロセスに限らずですが、社員から評判の悪い経営層/管理職の噂は間違いなく転職エージェント会社に届きます。転職エージェントは転職者との関係も重視しますので、転職者が入社後に不幸になる確率の高い会社を紹介しようとはしません。自身の信用にも傷をつける事になるからです。
ここまで読んで、何か気付かれましたでしょうか?そうです。社員が優秀でないと嘆き、傲慢な態度で社員に接し、業績を維持する為に会社の新陳代謝を強引に進める会社には、選択肢のある優秀な社員は来なくなるわけです。なので、経営層/管理職の人たちは、自社が社員にとって魅力的な会社であるか否かを常に意識する必要があります。別に社員に過剰にやさしくしましょうと言っている訳ではありません。この会社で働きたいと、多くの人に思わせる仕組みづくりをしていく必要があるという事です。

 

さて、ここまでは外資系企業の話を中心にしてまいりましたが、冒頭に申した通り、国内企業においても雇用の流動性は高まっています。
気付いていますか?現在の年間転職者数とリーマンショック後の転職者数が同じ域に達していることを。つまり、現在の平時の転職者数は、2008年にリーマンショック後の大リストラによって強制的に引き起こされた転職者の数に追いついてしまったわけです。

雇用の流動化は既に始まっており、そして冒頭で述べた経団連会長等の発言から鑑みても、今後も転職者の数は増え続けることは間違いないでしょう。

 

ということで、今一度この“雇用の流動化”というものに正面から向き合ってみたいと思います。雇用の流動化は止められませんから、これをいかに好機ととらえるかについて考えてみたいと思います。そこで、雇用の流動化によってもたらされるメリットを経営の目線と社員の目線で考えたいと思います。

 

メリットとデメリットは常に表裏一体ですから、ここでは一旦デメリットは忘れてメリットのみに注目します。
まずは、雇用の流動化により得られる会社側のメリットを考えてみます。

 

1.優秀な社員を獲得できるチャンスが増える
2.業績の変動に応じた労働力の伸縮を考える事ができる
3.会社の成長期に即戦力を採用できるチャンスが増える
4.社員を育成する時間とコストを節約できる

 

まだまだあるかもしれませんが、主だったところはこんなところではないでしょうか?

 

一方で、社員から見たメリットを考えてみます。

 

A. 給与を上げるチャンスが増える
B. 新たなスキルを得るチャンスが増える
C. キャリアアップを実現するチャンスが増える

 

こんなところでしょうか。
止めることのできない雇用の流動化の波を前にして、これを好機ととらえるには、ここで述べたメリットを確実に手にする為の備えが必要になります。なので、これから今述べたこれらのメリットを手にする為に何が必要かを考えてみます。

 

まずは1番目の“優秀な社員を獲得できるチャンスが増える”というメリットを手にする為に何が必要かを考えてみます。獲得したい優秀な社員はA,B,Cの何れかを期待しています。
Aについては高額の給料を用意するという事になりますから、すでに成長軌道にあるか、明確な成長戦略を描いていて、それに対する先行投資といった位置づけであれば、求人-求職がWin-Winの関係となり機能するでしょう。
Bについては、業界でも最先端の技術等を保有していて、且つその技術は今後の世の中で広く必要とされるようなものであれば、同様にWin-Winの関係となりスムーズに採用が進むでしょう。
Cについては、現在営業課長を務める転職希望者が、営業部長や本部長と言ったポストを求めているというケースになりますから、採用する側も、もとめる職位に対する明確な人物像やスキル設定がないと、不十分な人を採用してしまい、大きなリスクを冒すことになりかねません。

 

2番目については日本の法制度の影響下にあり、対応が難しい部分も残っておりますので、ここでは議論を避け、3番目の“会社の成長期に即戦力を採用できるチャンスが増える” というメリットを手にする為に何が必要かを考えてみます。求職者のメリットから考えると主にA(給与アップ)かC(キャリアアップ)に当てはまるケースだと思います。
売り子がいればもっと売れると考えての施策でしょうから、高給を用意してもよいかもしれませんし、成長部門を率いる責任者を雇いたいといったニーズもあるかもしれません。
この場合は今一度、なぜお客様から支持を受けて成長しているのかを考えてみることが良いかもしれません。その点を無視して、強気な販売を推し進めて、逆にお客様からの信用を失墜するという例は、枚挙にいとまがありません。その為に、今一度新規で採用する従業員や管理職が従うべき、意思決定の指標やプロセスを整理した上で、新社員に対してきちんとガイドラインが出せる準備をすることが重要となります。同時に、当該の事業が今後どのくらいの期間成長し続けるのかによって、今回の採用はチャンスにもリスクにもなりますので、継続的にヒット商品がだせるような商品開発のポートフォリオを回し続けるプロセスも整理できた方がより安心です。

 

そして4番目の“社員を育成する時間とコストを節約できる”についてですが、これが経営者にとっては最も直接的なメリットが大きいようにも見えるのですが、この考えにはリスクが伴います。過去の経歴がどんなに素晴らしくても、その人が自社に入社した後、期待通りの業績を上げるとは限りません。実はこの人選は非常に難しいのです。自社の規模が非常に大きく、募集職種の周辺のサポート部門の体制が万全で、ピンポイントのスキルさえあれば十分機能するというケースであれば、そのエリアでの実績があれば機能するかもしれませんが、そもそもそのような会社には教育体制もしっかりできているケースが多く、“社員を育成する時間とコストを節約できる”というニーズは多くはないです。そのようなニーズを持つ会社にとっては優秀な社員の目利きが重要になりますが、これについては以前に投稿した“優秀な社員ってどんな人”というタイトルのブログをご覧になっていただくとお役に立てると思います。

 

いずれにせよ、雇用の流動化が進むことは間違いのない事なのですが、無造作に中途採用を進めていくと、その中途採用人数が増えるにつれて、新しい人材の、会社の文化に対する影響度は強まってきます。その影響には、良い影響もあれば悪い影響もあります。日本企業の多くの方は「企業は人なり」という言葉には同調されると思います。しかしながら企業の目的、戦略、そしてこれらを日々の業務に落とし込んだプロセスを明文化している企業はまだまだ少ないというのが現状です。これまで培った、良い企業文化を生かしつつ、雇用の流動化を好機ととらえるには、この明文化を通しての新・旧社員との共有の努力を怠るべきではないと思います。

 

雇用の流動化に加えて、ダイバーシティの名のもとに海外国籍の採用も促進することになったときには、会社がバラバラにならないよう、さらなる準備を進める必要があると思います。次回は、私が様々な国籍の方と仕事をしたときの失敗談などをお話しし、反面教師として皆さんのお役に立てることにチャレンジしてみたいと思います。