24.最強の営業(その1:アカウントプラン “お客様分析編”)
私の現在の仕事の関係もあって、このブログは経営全般にかかわる内容に触れてきましたが、私のキャリア上は営業の経験が長い事と、なかなか結果が出ず思い悩んでいる営業マン/ウーマンもたくさん見てきておりますので、そのような人たちに対する応援の気持ちも込めて、本日から数回に渡っては営業に関するネタをお届けしていきたいと思います。
前提として、これからお話しする内容はB2Bであり且つ提案活動を伴う営業形態をとる方々向けになっております。数多くの不特定多数のお客様に、同じ商品を効率よく売りさばくような営業形態はあまり想定しておりませんので、その点はご了承ください。
という事で、営業シリーズの第一回目のテーマは“アカウントプラン お客様分析編”です。アカウントプランとは特定のお客様に対する営業的活動計画の事です。アカウントプランの中で明記することは、超ざっくり言えば、
①今期いくら売るつもりなのか
②現時点でいくら見込めるのか
③これからいくらの案件をつくるのか
④上記②③に対するアクションプラン
です。
しかし、これだけを宣言してもただの気合の文書になってしまうので、第三者が見ても、①~④が妥当か否かを判断できる裏付けの情報を付記していきます。このアカウントプランをしっかり作るにはそれなりの労力を要しますので、一人の営業当たり2顧客分程度が妥当でしょう。そして内容は四半期ごとに変更部分を更新していく形になります。対象の2つの顧客から期待できる売上が、予算の30~50%を占めるようですと理想的なのですが、そうでない場合は、その他の軽めのお客様について、アカウントプランの簡易版を用意するといった形で現実的な運用案を考えていくことをお勧めします。
細かい内容の説明に入る前にアカウントプランの必要性について言及いたします。
「現実の世界はプラン通り進まない。なのでプランを緻密に作ることの意味はない」
と反論する人がいます。しかし、プラン通り進まないからこそプランが重要なのです。プランを作るにせよ作らないにせよ、年初に予算は決定されています。これに対してプランもないまま暗中模索で活動を進めていても、予算に対して何合目まで進んでいるかの把握がタイムリーにできないのです。各四半期や各月の結果に対して、あと幾ら売らねばならないという事しかわかりません。
しかし、案件ごとの期待する売上、新たに作らないといけない案件及びその売上、そしてそれを進める活動計画(マイルストン)が明確化されていれば、
“2億を期待していた案件の獲得時期が大幅に遅れることが予想出来た時に、早期に他の1億の案件2つに巻きを入れつつ、2億分の案件創出を急ぐ”
といった事が期中に判断できるわけです。
さて、ここからはアカウントプランに含めるべき情報と、それを遂行する為に習得すべきスキルについて述べさせて頂きます。なお、ここで述べられたスキルが、現在の自分にないからと言って落ち込む必要はありません。勉強すればよいのです。何も勉強せず闇雲に売り込みをかけても数字は改善されません。焦らず着実にスキルアップできるよう、以下の内容と現在のご自身のスキルを比較して、今後の学びのプランに活かしていただければ幸いです。
お客様分析の進め方
ここでは以下の情報を調査・分析した内容を記述します。
・事業内容:
お客様が具体的に何で儲けているのかについての記述です。有価証券報告書の“事業の内容”のセクションやアニュアルレポート、HP等から情報を集めてビジネスモデルと全体のサプライチェーン(どこから調達してどこに販売しているか)が俯瞰できる内容をまとめます。必要に応じてお客様に直接ヒアリングして補足するとなお良いでしょう。
・中期経営計画:
お客様が今後、どのエリアで儲けようとしているかについての記述です。またその為に強化すべき内容も含まれます。具体的に言えば、どの事業がどの市場でいくらの利益を今後何年で創出しようとしているか。それを実現する為に何を(新商品強化、営業力強化、コスト削減、人材強化、研究開発、M&A etc)強化するのかについての記述です。
公開企業であれば中期経営計画はHP上に公開されていることが多いので入手は容易ですが、非公開企業の場合は、帝国データバンクから調査報告書を購入したり、ヒアリングによって情報を集めることになります。
・PEST分析/3C分析:
お客様を取り巻くビジネスがどういう状況にあるかについての記述です。PEST分析はお客様企業の外部環境(P:政治・規制的要因/E:経済的要因/S:社会的要因/T:技術的要因)について調査します。3C分析は“お客様企業自身”、“競合”、“市場・顧客”について調査分析します。PEST分析を通して、“お客様事業”を“中期経営計画”通りに進めようとしたときにどのような“機会”或いは“脅威”が存在するのかを挙げていきます。3C分析では同様にどのような“強み”或いは”弱み“があるのかを挙げていきます。この分析を通して、お客様が中期経営計画等で上げている施策に関する理解を深めると同時にお客様の投資の優先順位を自分なりに想定します。
これを作成するにはマーケティングに関する基本的知識が必要です。少なくともSWOT分析をするための知識を習得する必要があります。一般に提供されている研修であればグロービス社の「マーケティング・経営戦略基礎」を受講すれば十分です。あるいは同社から書籍も販売されていますのでそれを参考にして進めるのも良いでしょう。また、3C分析については主にはお客様から直接情報を入手することが必要となりますが、PEST分析はインターネット等から幅広く情報を集める必要があります。これはかなりの労力を必要としますので、これらの情報を有償で提供しているサービスを利用する事をお勧めします。比較的安価に入手できるサービスは
・インフォマート
・SPEEDA
等です。
大変そうだな・・・という気分になってきちゃいましたか?実は完璧なアカウントプランを作るにはかなりのスキルとお客様とのリレーションが必要です。逆に言うと、完璧なアカウントプランを作ることはほぼ不可能です。なので、できるところから始めて少しずつ書き足してブラッシュアップしていく方法をお勧めします。ちなみに、これまで述べた調査・分析の中でお客様からのヒアリングも必要であると書きましたが、実はこれも結構ハードル高いです。単に、
「御社の強み、弱みは何ですか?」
と聞いても、よほど仲良いお客様でないと答えてくれませんし、答えてくれたとしてもこちらが期待する情報量を得ることができるとは限りません。なので、事前の準備と、聞く時の言い回しなどを工夫する必要があります。以下にその例を記します。
例:3C分析で競合と比較した強み・弱みをお聞きするとき
準備:
事前にインターネット等を通してお客様とその競合を調べて強み、弱みを自分なりに想像します。この時に、その想定に至った理由を自分の中で整理しておく必要があります。でも、想定が外れていても大丈夫です。
質問:
いきなり質問するのではなく、以下のようなセリフからはじめると緊張感も緩み、ハードルが下がることが多いです。
「〇〇さん、本日は貴重なお時間いただきありがとうございます。実は私は改めて御社について勉強させて頂いております。それは〇〇さんから頂く貴重な時間を無駄に使いたくないからです。御社を正しく理解して、御社にとって意味のある情報を届けられるようにしたいからです。その為に少しだけご協力ください。」
このような言い回しは、私が若い時から現在に至るまで、今でもよく使っている言い回しです。個人的にはこの言い方をして嫌な顔をされたことは殆どありません。この後に具体的な質問に入るのですが、ここで事前の準備を生かします。漠然と「御社の強みは何ですか?」と聞いても、ほとんど具体的な回答は返ってきません。なので事前に勉強したことを生かして、
質問:
「私なりに調べてみたのですが、御社のライバル企業はB社だと思うのですが合ってますか?」
「B社とは〇〇商品が競合していますが、ここは御社の特徴の〇〇技術が差別化のポイントなのかなと思っているのですが合っていますか?」
「〇〇技術で差別化できているのはなぜだと思いますか?」
このように、なるべく具体的な質問を、自分なりの解釈なども添えながらぶつけてみます。もしこの想定が間違っていれば、お客様からは
「違います」
という正しい情報が入手できるわけです。曖昧な質問で殆どゼロに近い回答を得るより相当価値が高いです。また、自分の解釈を添えることにより、あなたが勉強していることが伝わりますので、お客様も真摯に答えてくれる可能性が上がります。1回で欲しい情報が手に入らなくても、その時に得た情報に基づいた提案をしたり、あるいは前回のヒアリング内容をまとめてみたので理解があっているか確認いただく等の行為を継続して、どんどん深い情報を得るように努力を続けていけばよいのです。継続は力なりです。
・財務分析:
お客様のこれまでの事業の結果を理解します。つまり中期経営計画と決算とのGAPを理解し、どのようなてこ入れが必要か?について理解をします。ここでは、財務分析をするスキルが必要です。B/S, P/Lに基づき以下の分析を実施します。
A. お客様が掲げる財務指標(ROE, 営業利益 etc)と実績値との比較
B. 収益性
C. 安全性
D. 資本収益性
E. 効率性
F. 成長性
B~Fについてはお客様がベンチマークしている企業との比較と、過去3~5年の推移をみて、目標とのGAPが大きいところに注目したうえで、改めて財務諸表の詳細を読み解き原因を追究します。
ここでは、B~Fの用語の説明はしませんが、財務分析については一般に発売されている“財務分析”に関する本や“有価証券報告書の読み方”に関する本を買えば独学で充分身に付けることができますので、是非トライしてみてください。もちろん研修を受けるのも一つの選択肢です。
以上の一連のお客様分析を通して導き出すものは以下になります。
・お客様が目指す方向性と現状のGAPを洗出すことで、お客様が手を打たなければならないエリアを想定する。
・そのエリアに対して直接的、間接的に貢献できる自社のソリューションを抽出する
なお、上記の例はあくまでゼロからお客様の投資エリアを想定するステップです。しかし実際は皆さんの会社のソリューションを検討する主要部門があるはずです。購買/調達ではなく、実際に皆さんの会社のSolutionを利用してメリットを得られる部門の事です。その部門は当然年間の投資計画を作っているはずですから、その情報を入手する努力も必須です。すべてではなくとも部分的にでも入手できれば、これまで自分で分析した内容と照らし合わせて、より精度の高い投資の優先順位が想定できます。
・Power Structure分析:
お客様分析の最後に、お客様内の意思決定に関する組織構造や力関係を整理します。ここでそろえる情報は以下です。
A. 組織図(口頭で得た情報をもとに自分で作ってもよい)
B. 上申から決済までの意思決定プロセス
ここで準備した組織図にキーマンの名前をプロットし、キーマンに対してできる限り以下の情報を整理していきます。
・皆さんの会社のファンはだれか
・皆さんの会社の敵はだれか
・中立の立場の方はだれか?
さらに、以下の情報もそろえることを試みましょう。
・意思決定に実質的発言力を持つ人はだれか?
・情報を教えてくれる人はだれか?
以上を整理することによって、具体的な提案に対する決済に影響を及ぼすためにだれに、どのようにアプローチをするか、あるいは新規のNeedsを探り、案件を創出する為にだれに、どのようにアプローチすべきかを決める際の参考にできる訳です。
アカウントプラン “お客様分析編”はここまでです。次回は“自社分析編”です。対象のお客様に対して自社はどのような位置づけにあるのかを洗出し、より優位な立場を得るための計画に活かしていきます。