26.最強の営業(その3:勝率100%の提案活動)

さて、前回は2回にわたってアカウントプランについて述べさせて頂きました。本日は具体的な案件の進め方に関する内容をお話しします。これを理解する事によってアカウントプランで作るマイルストンや30日/60日/90日プランの精度も上がる事になります。



 

「“勝率100%”とは大きく出たな!」

 

とお感じになるかもしれませんが、これは私がこれから述べる方法で提案活動を進めた結果、私自身が実現できた勝率なのです。どうですか?この方法知りたくないですか?・・・知りたいですよね!?

 

勝率100%を実現するには、たった一つの事を徹底する事です。それは何か?

 

“勝てる案件しか追わない”

 

という事です。正確に言いますと、私は当時、5回以上訪問した案件については必ず獲得するという事に拘っており、結果的に5回以上訪問した案件は全て受注する事ができました。逆に言うと、5回の訪問の内に案件を見極めてしまうという事です。これから述べる提案の各プロセスにおいて、確認すべき事を確認することにより、勝てる案件か否かを見極めて、無駄な活動を排除する事ができるのです!

 

いかがですか?興味がわいてきましたか?
はい。では、その確認すべき内容についてご案内しましょう。これまでも何回か引用した提案のプロセスの図に沿って順に説明します。

まず、「案件認識」のフェーズで行う事は、

 

“お客様の本気度を測る”

 

です。いくらいい提案をしても、そもそもお客様が初めから本気で買う気が無ければ売れる訳が無いですよね。これ、当たり前のことに聞こえるかもしれませんが、結構多くの営業が気付かずに、無駄な提案活動をしています。この無駄を避けるために確認すべきことは以下の4つです。

 

B:Budget(予算の有無)
A:Authority(その人は決済プロセスに正式にかかわる人か)
N:Needs(会社としてのNeedsは明確にあるか)
T:Time(その投資はいつ実行されるのか)

 

BANT(バントと読む)でググれば結構記事はでてきますが、私が実践していた当初はそこまで有名ではなかったです。いまこの言葉がそれなりに知れていることは、この見極め方法は効果があるという証左なのでしょう。

 

見積もり依頼をしてきたお客様の担当者が、興味本位で聞いてきた場合はB(予算)はまだとれていないはずです。また、Needsについてお客様に伺った際には、そのNeedsを満たすことが、企業としてのお客様にとって、本当に価値のあることなのかを客観的に精査する必要があります。つまり、その投資は将来のお客様の儲けにつながるのか?お客様にとっての甚大なリスク回避につながるのか?そしてこの投資を行わなければどうなってしまうのか?ということを多方面から分析して、

 

「お客様が今行動しなければならない理由」

 

を明確に説明できるまで整理しましょう。これが曖昧なケースは、依頼をしてきた担当者は本気だとしても、最終的に役員決済で否決されるか、単に安い方を選択するという可能性が高い案件です。価格で勝負できる自信が無ければ降りるべきです。

 

そして、最後のTですが、いくら予算は潤沢にあり、決裁者に対する影響力もあり、会社として明確なNeeds(投資の理由)があったしても、

 

「実行は来期です」

 

と言われたら、今この瞬間に全力投球する必要はないですよね。
この4つの指標を駆使して、提案活動を進めるべき案件か否かを判断し、無駄な時間を費やすことを避け、可能性のより高い案件に時間を使う事ができるようになります。

 

もちろん、お客様との関係がありますし、来期の予算の為に見積もりを依頼される事も当然ありますので、“全く答えるな”と言っているわけではなく、本気の案件として全力投入するか、5回以内の訪問でお客様の要望に応える程度の労力で済ますかの判断をすればよいわけです。

 

そして次の、「要求定義」のフェーズで行う事は、

 

“自社は「勝てるか」を測る”

 

です。つまりお客様がいくら本気でも、勝ち目のない勝負に挑むことも、結局は無駄な時間を使うことになります。「勝てるか」を測るために確認すべきことは以下の3つです。

 

・お客様の期待値(Business Needsの再精査と何を満たしたらそれは成功と言えるかの明確化)
・自社のケイパビリティ(期待値を満たすだけの商品、能力、要員は自社にあるのか)
・競合他社(お客様の期待値に対して圧倒的な優位性を持つコンペはいないか)

 

この作業は営業一人で試行錯誤するのではなく、マネージャーを含めた提案Teamで協議する事が望ましいです。なぜなら本当のNeedsを理解するには、課題の本質を理解する必要があり、難しいからです。例えば、お客様の目的が「ERP導入による会社の見える化」だった場合、これをBreak downしていくと、例えば、

 

・部門別P/L, B/S
・プロジェクト別損益
・商品別損益

 

というものがタイムリーに把握できることにより、会社資産を最適配置し、収益性を高めることが本質的なNeedsであることや、それを適切に運用しようとしたときには、コストをどう“配賦”するかがポイントである・・・といったような分析力が必要です。これを若手の営業一人でImageすることは難しいかもしれませんから、社内のコンサルタントやエンジニア等を含めたTeamでのNeeds分析が重要になります。
分析の結果、“配賦”がポイントとなり、これをお客様自身が遂行することは困難ということであれば、これについて“自社のケイパビリティ”があるか否かが「勝てるか」か否かのポイントになる訳です。

 

実際の提案活動では、このNeedsに答えるポイントは複数あるはずです。その中で自社にケイパビリティがあり、且つそれが競合より優位性がある場合、お客さんがそのポイントを最重要と認識してくれた場合「勝てる」というシナリオが出来上がる訳です。その為に、このような勝ちシナリオを作るために、つぎにやることは、お客様が“そのポイントを最重要と認識”するように誘導する事です。案件の規模にもよりますが、この”誘導”をするために、社内のあらゆるリソースを駆使して、

 

・お客様Top宛てに、自社Topと訪問し直接ポイントの重要性を啓蒙する
・自社のケイパビリティと効果が出た事例をお示しするツアーを企画する
・お客様検討メンバーを含めたセッションを企画し、ポイントに落し込む

 

等の活動を進めます。提案書を提示、プレゼンテーションをしてしまった後は、公平性の観点から、お客様内のキーマンに頻繁に会う事は難しくなりますので、できるだけ提案書を作成する前に上記のような仕掛けを進めて、お客様内のネットワークを広げていくことも、最終的な交渉フェーズで打てる手を増やすためのポイントになります。

 

さあ、ここまでの活動を通して、“お客様の本気度”も確認し、間違いなく投資をすることがわかり、さらに自社が「勝てるか」という点についても明確なシナリオが描け、且つそのシナリオに乗っていただくための仕掛けも実施しました。ここまで万全を期せば、プレゼン後も高い確率で勝利する事ができるでしょうか?

 

いえ。これだけでは勝てません。

 

「え?どういう事? ここまでやったら5回ぐらいの訪問回数に達してしまうのでは?」

 

仰る通りです。ここまでの活動の中でこの案件に対してプレゼンまで進むか、降りるかを見極める必要があります。つまりこれまでの活動の中で、“お客様の本気度”の見極めと、“「勝てるか」”の見極め(=”勝ちシナリオの策定”)、の2つに加えて、もう一つの事を達成しておく必要があるのです。それは何か?

 

“お客様内に自社のファン/味方をつくること”

 

です。お客様の中にファンがいれば、正確な情報を入手する事ができます。
「敵を知り己を知れば百選殆うからず」
という言葉がある通り、勝負において最も重要なのは情報です。従って正しい情報源を得ることは、勝負において最も重要な事です。私の経験の上でも、勝てた案件においては必ず1人以上の味方がお客様内にいました。逆にこれが1人もいないとその案件の勝率は極めて低いと思った方が良いです。

 

このファンを見出すために、これまで実行したお客様を誘導する様々活動を通して、お客様を魅了します。そしてその中で、反応の良い人を見逃さず、確実にフォローしてファンとして取り込むのです。

 

ここまでが、提案プロセスのチャートにおける“提案合意”までに実行すべき事です。“提案合意”とは「提案に参加して良い」という合意ですので、次は具体的な提案書作成のプロセスとなります。

 

以上のように、“お客様の本気度”を測り、本気であれば“勝ちシナリオ”を検討し、それが策定できた時に、その上でファンが獲得できていれば、あとはプレゼン後に、そのファンから入る情報をもとに迅速かつ適切にアクションが取れればその案件は確実に獲れます。

 

因みに、当該の案件が新規客からの場合は、このファン以外の方へのアプローチは注意が必要です。そこには当然既存のベンダーがコンペとして存在し、そのベンダーのファンもいるからです。場合によってはこちらの戦略をコンペに流すスパイとなる可能性もある訳です。私自身もある大型案件で、ファンづくりまでは順調に進み、さらにファンを広げようと様々な人と会って、べらべらしゃべっていたら、実はそのひとはコンペのファンであり、情報が洩れてしまった事があります。その時は、私の会社のファンになって頂いた方からは強くおしかりを頂いたものです。幸いなことにその時は、我々のファンの方が声が大きい人だったので、案件獲得ができたので良かったのですが。

 

新規客からの案件の場合における注意点をもう一つ。途中まで案件を優位に進められていたとしても、既存ベンダーは自身のテリトリーを守るためになりふり構わず手を打ってきます。結果一夜にして状況が変わってしまう事もあります。こんな時に、ファンからのタイムリーな情報提供が無いと、とても対応が追い付きません。このような点からもファンの獲得は必須だと言えます。

 

以上が“勝率100%を実現する為の提案活動”です。試してみようという気になりましたか?
因みに、この活動には唯一のデメリットがあります。案件の利益率が下がる傾向にあるという事です。つまり、正確な情報が入るとコンペの提案金額も入手可能になります。自社のファンからも確実に案件をとるためにコンペと同じかそれより下の金額にできないかと言われるわけです。自身も確実に案件を獲得する為に価格を下げてしまいがちです。本当に下げるか否かは実際の利益率等、その時の条件によると思いますが、案件を取るために例外的な価格を提示しなくてはいけないケースもあります。しかし、このような時でも、前述のお客様を誘導する活動の中で、自社の上層部も巻き込んだ活動をしていると、皆が当事者になっていますので、特価の承認も得やすいはずです。

 

アカウントプラン、案件の進め方、について3回に渡り述べさせて頂きました。次は“案件のつくり方”について皆さんと一緒に考えていきたいと思います。