27.最強の営業(その4:案件のつくり方)

本日のテーマは“案件のつくり方”です。これは“最強の営業 その2”で言及したアカウントプランの中の「中期案件のマイルストン」の具体的な活動内容という事になります。
因みに、この“案件をつくる”という活動は、営業として最も難しく、高いスキルを要する活動の1つです。従って一朝一夕に身に付くものとは思わないでください。なので、本日ご案内する一連の活動は、完璧に遂行する事を目指しては頂きたいですが、完璧に遂行できなくても気にする必要はありません。うまくできなかった部分を一つずつ改善し、最終的に自分でも納得いく品質で一連の活動ができたなと思ったときは、“案件をつくる”スキルが身に着いたと言える・・・というようなバロメータとしても、本日ご案内する方法論は活用できると思います。



 

“案件のつくり方”は大きく分けて以下の活動によって構成されます。

 

1.お客様の経営課題の想定
2.お客様経営課題の解決に関連する自社ソリューションの洗い出し
3.会うべき人の特定
4.訪問(訪問準備~次のアクションの共有)

 

それでは、順を追って説明を致します。

 

1.お客様の経営課題の想定
ここではまさに、“最強の営業(その1:アカウントプラン “お客様分析編”)“で説明した内容そのものになります。その為、アカウントプランの対象のお客様の場合、この活動はアカウントプランを参考にすればよいので大部分はスキップできます。一方、アカウントプランの対象外のお客様に対する活動の場合、同様のお客様分析を実施するのは少し重いので、以下の内容が整理できれば十分です。

 

・お客様の中期経営数値目標:
公開企業であれば中期経営計画、決算発表プレゼン資料をHPから参照できますし、非公開企業の場合は、調査報告書(帝国データバンク※有料)を取得するかヒアリングによる入手となります。

 

・目標に対する実績値/阻害要因:
中期計画には数値目標に加えて定性目標も立てているはずです。この両面に対して何合目まで進んでいるのか?予定通りなのか?予定を下回ってる場合その原因は何か?を有価証券報告書の【事業の状況】のセクションなどを参考にしつつ、それにヒアリングを加えて裏付けを取るなどをして状況を把握します。少し大変かもしれませんが、これに加えて財務分析(最強の営業(その1:アカウントプラン “お客様分析編”)参照)も実施すると入手した情報に対する数値的裏付けが整理できます。

 

2.お客様経営課題の解決に関連する自社ソリューションの洗い出し
ここでは、上記“1.”で見出した、お客様が目標を達成する為に解決すべき課題の解決に貢献する、自社のソリューションを洗い出します。しかし、この作業がとても難しいのです。皆さんの職業がビジネスコンサルタントであるならば、経営課題に対して直接解決案を提供するコンサルメニューがあるかもしれませんが、それ以外の職業である場合、お客様の経営課題と自社のソリューションを結びつけるシナリオが必要になります。これを若手の営業が一人で考える事は、非常にハードルが高いので、予め一般的な経営課題と自社ソリューションを紐づけるフレームワークなどを(会社として)用意して、それを現場の営業が活用できるようにしてあげることが必要だと思います。例えばIT-Systemの場合それを評価するフレームワークとして「機能要件」と「非機能要件」という考え方が確立しています。例えば、経理システムを構築する必要があるときには、財務諸表を作成する為の一連の必要となる機能が「機能要件」となりますが、その他、機能として定義できないが、システムを運用する上で重要なポイントを「非機能要件」としてフレームワーク化しています。具縦的にはITの非機能要件とは以下のようなものになります。つまりITインフラを構築するときは、実装する機能以外に、以下の6つの項目についてどのレベルまで満たすべきかを検討して最終的な仕様を確定する事が推奨されているわけです。

例えば、皆さんがネットワーク機器を提供する会社であり、お客様が小売業者で、経営課題として“販路の拡大”挙げていたとしたら、

 

①今の時代は販路としてネット販売は必須
②お客様のIT運用の体制は十分ではない。新規事業のリスクはなるべく抑えたい
③自社のネットワークA商品は電源を入れるだけで手間いらず(運用・保守容易性)、且つ最小構成から始められてオプション追加で後から拡張できる(拡張性)

 

というようなシナリオが、このフレームワークを利用して策定する事ができる訳です。
以上のような活動を通して、お客様の経営課題と自社ソリューションのマッピングを完了します。

 

3.会うべき人の特定
この“案件をつくる”活動は、お客様内のネットワークを広げることも目指した活動ですので、会うべき人は出来るだけTopに近い方を目指したほうが良いでしょう。ただ、あまり細かい話を上層部の人にしても、

「それは現場でやってくれよ」

となるでしょうから、ここは悩みどころです。様々なアプローチがあるかとは思いますが、ここではその会うべき人を決める基準の例をお示しします。それは、

 

“自社のソリューションへのマッピングの時に用いたフレームワークにある各項目の優先順位において、意思決定する最上位の方”

 

という決め方です。先ほど述べた例では、ITの非機能要件にある、6つの項目についての優先順位を決めることができる最高意思決定者です。Small Startをするのであれば“拡張性”が重要かもしれません。個人情報を扱うのであれば”セキュリティ“が重要かもしれませんし、株主や地域に対する印象を重視する場合”環境対応“が重要になるでしょう。いずれにせよ、これらの意思決定はビジネス的な側面を理解していないと判断できませんから、この場合は会うべき人はCIOという事になるでしょう。
もし、それより上流の販路選択として、店舗かネットか等の意思決定に関するコンサルサービスを皆さんの会社がもっており、そこの意思決定に影響を及ぼしたい場合は、マーケティング担当執行役員になるかもしれませんし、社長になるかもしれません。

 

一方で、CIOにお会いした時に、そもそもネット販売は検討の対象外ということですと、その訪問は空振りに終わってしまいます。その為に、会うべき人を決める際には、ソリューションマッピングまでのシナリオができたあとで、そのシナリオが正しいかを検証する為に現場でのヒアリングをすることが必須です。ネット販売をすることが確定していなくても、検討の俎上に載っているのであればOKです。そのような検討の初期段階の場合は、CIOの判断基準に影響を及ぼすよう働きかけ、いざネット販売を実施するとなった際に、自社に有利な判断をして頂く可能性を高める・・・という事が会う目的となる訳です。

 

因みに、どうやって会うかについては、お客様と皆さんの会社との関係性によって難易度は分かれますので、常にターゲットに会うことを意識して、“あらゆる機会を利用して会ってやるぞ”とアンテナを高くすることが必要です。お客様との深い信頼関係がある場合は、普段お付き合いいただいている部長様を経由してアポを取るといったオーソドックスな形で良いでしょうし、あるいは皆さんの会社が有名企業であればそのName Valueを利用して、役員や社長とともに伺うと言えば、会ってくれるかもしれません。直前になにがしかの受注を頂いていたのであれば、お礼を申し上げたいという理由でも良いですし、はたまた、そのお客様がなにかのイベントのお披露目をしたりしたときは、「そのお祝いを申し上げたい」というように自然に面会を申し込めるあらゆるチャンスを普段から狙っていることが大事です。是非、頭をフル回転させて大きなチャンスをつかみましょう!

 

4.訪問(訪問準備~次のアクションの共有)
このような一連の活動が功を奏して、会うべき人へのアポが取れたときには、このチャンスを最大限生かせるように入念に準備をしましょう。当日用意する資料は以下のようなアジェンダになります。

 

①自社の紹介(体制図含む)
②我々が理解しているお客様の戦略と課題
③我々がご提供できる価値

 

まず①については自社の簡単な紹介と、そのお客様を担当している営業組織について、当日訪問している担当営業と同行する上長等の位置づけが分かる形でまとめたものを用意すると良いでしょう。また最近の活動報告と称して、提案活動を進めているプロジェクト名とお客様責任者等を一覧できる形でまとめておくのもよいでしょう。検討状況を教えてくれる場合もあります。

 

次に、②については前述の“1”で精査した課題を2~3記載します。ここでの課題はなるべくお客様が外向けに発信している言葉があればそれをそのまま引用する事をお勧めします。こちらの解釈をいきなり書いてしまうと、それを否定されると話が終わってしまいます。お客様自身の言葉であれば否定はできませんから、議論にスムーズに進みやすいのです。

 

②の課題の説明と解釈が合っていることの確認が取れてから③に移ります。前述の“2”で検討したシナリオに沿って課題とマッピングしたソリューションの価値を1枚程度にまとめて説明します。課題が3つある場合は3枚になりますね。

 

仮説が合っていることが確認された課題については、検討もしくは継続した情報提供の合意が取れれば目的達成です。訪問前には同行いただく上長に背景と、目的を説明した上で話すパートの役割分担を決めたうえで当日を迎えましょう。多くのケースでは①は上長に話をしてもらい、②③は営業が説明し、最後の合意については上長にプッシュしてもらうというのがオーソドックスなパターンです。

 

ちなみに、このような経営層の方々とお会いするのは貴重であり、お客様内のネットワークを広めたり、新たな情報を入手できる絶好の機会ですから、これを有効に機能させるために、是非以下の事にもチャレンジしてみてください。

 

A.マッピングしたソリューションについて具体的検討をする担当責任者のご紹介をお願いする。
B.事実検証ができていない仮説が正しいかの検証を行う

 

Aについては、先の例ではネットワークの設計に関する責任者がだれか見当をつけておきます。仮にそれが山田部長であった場合、その訪問の中でCIOから検討の合意を頂いたときには、

 

「これに関する詳しい情報は、山田部長にご案内するのが良いのでしょうか?」

 

と聞いてみれば、

 

「いや、僕に直接くれればよいよ」とか「いや、中村君がいいかな」

 

といった具体的指示を受けることができます。その時にまだ中村部長との面識がないのであれば、

 

「承知しました。実はまだ中村部長にご挨拶できていないのですが、ご連絡先うかがってもよいですか?」

 

と聞けばほぼ間違いなく教えてくれるでしょうし、そのアポもとれるでしょう。

 

次に、Bについて説明します。訪問に先立って用意するシナリオはできれば1つではなく2~3個用意する事をお勧めします。そのうち1つは仮説が正しい事を事前に検証する必要がありますが、他の2つは、現場の裏付けが取れていなくても、外部に発表されている情報と整合しているシナリオであれば、同様に説明を進めてしまってもほとんどのケースは問題になりません。前提となる事実がそのお客様が公に発表している情報に基づいていて、シナリオが論理的には正しければ、特にお叱りを受けることもなく、

 

「あー、それは実際はこうで。。。」

 

といった貴重な一次情報が取れたりしますのでお試しあれ。
因みに、検証済みの仮説に基づいたシナリオについて、検討の合意が得られれば、この訪問は100点なのですが、実際ははずれたりすることもあります。しかし、きちんとした情報収集活動の上、仮説を検討するプロセスを取っていれば、それは相手にも伝わります。その結果、

 

「貴方が言っていることは正しいんだけど、今うちが困っていることはこっちでさ・・・」

 

と別の提案の機会を得られたりします。実際はこちらの確立の方が高かったりします。いずれにせよ、本気でお客様の事を考えて準備をすれば、相手もチャンスを与えてやろうという気になるのだと思います。

 

今回は“案件のつくり方”というテーマでしたが、狙い通りの案件を発掘することは非常に難しい事ですから、継続的に訪問できるよう、次につなげるために一つのテーマを共有する事を重視してください。テーマが共有できれば、「進捗を報告したい」ということで次のアポも取りやすくなります。

 

以上4回に渡って、最強の営業になるための一連のプロセスについて説明してまいりました。しかし、個々の活動においては、如何にお客様から情報を得る事ができるかがキーになります。次回は最強の営業シリーズの最後として、お客様から情報を引き出すテクニックについて触れたいと思います。