29.コロナ後の企業の在り方を考えてみた

実は私のブログは、発信している記事に加えて10話分ほど先に書き溜めているものを順にリリースしておりますので、時差を鑑み、あまり時事問題は扱ってこなかったのですが、本日この記事のドラフトを書いているのが4月7日。まさにこの日に緊急事態宣言が出されることになっており、期間は約1カ月と言われていますから、このブログがリリースされるときもなお、緊急事態宣言下であると想定されるので、この新型ウィルスについて考えてみる事にしました。



 

最近までの世界経済はグローバリズムを是として、各企業はアクセルを踏んできました。それが、米国のトランプ大統領誕生以降、ナショナリズムの波が起こり始め、一部ではグローバリズム懐疑論も囁かれてきました。しかし実体経済におけるグローバリズムの状態には大きな変化は一部を除いて起きていないように見えます。しかし、今回の新型ウィルスの問題を機に大きな変化が起こるかもしれません。

 

私は以前、この“グローバリズム”の最先端を行くような大手のIT企業で働いておりました。グローバリズムとは国単位ではなく、世界を一つの共同体とみなす考えです。多国籍企業は各国にコピー企業を展開するのではなく、企業の各機能を一つの地球の上に適材適所で配置することを進めた訳です。例えば私が在籍していた会社では、当時は以下のように各機能を配置していました。

 

研究所                   :先端技術者を集めやすい先進主要国に配置
調達                    :安価な調達が可能な中国
ソフトウェア開発     :優秀な開発者が豊富なインド
コールセンター         :日本向けコールセンターは、日本語を話せる低単価人材を集めやすい中国
ファイナンス             :税金が安く、優秀なバンカー上がりを採用しやすいアイルランド
セールス                     :各国に配置

 

当時の私は、誇らしげにこれを各企業のTopの方々に語り、
「御社も真のグローバル企業を目指しましょう!」
と戦略コンサルティングサービスを提案しておりました。私自身もこれがベストの形だと信じていたからです。しかし、後から気付いたのですが、この仕組みって、世界各国が信頼関係で結ばれていて、平和が保たれていることが大前提なんですよね。しかしながら、この大前提に変化が起こり始めています。

 

例えば、9.11のアメリカ同時多発テロ後は、米国の防衛体制はテロの撲滅に向けて、大きくシフトしました。その後、タックスヘイブンのように税が安く、口座保有者の情報が開示されない地域はマネーロンダリングに活用され、テロの温床になるということで、これを取り締まるためにFATCA(外国口座税務コンプライアンス法)が施行され、納税を逃れている富裕層や企業名が開示されるようになりました。GAFAが納税義務を果たしていないと指摘されていることをご存知の方も多いはずです。そのような経緯で、アイルランドをキャッシュの置き場として使い続ける事は難しくなっています。

 

そうこうしているうちに、米中経済戦争が激化しました。本質的にはこれは安全保障上の側面が大きいのです。長くなってしまうので、ここでは詳しく書きませんが、以前ソ連に対する輸出規制であったココムと同様に中国向けのハイテク機器・技術を規制するECRAという法律が施行されています。ハイテク技術は軍事転用されてしまうので、敵国には渡さないぞという法律です。冷戦中は米国にとっての仮想敵国はソ連でした。ソ連が崩壊し、冷戦が終了し暫くした今、米国は、明確に中国を仮想敵国とみなした訳です。そうなった今、ここで私が言いたいことは、米中経済戦争及び規制の影響で中国に工場を置いてモノを製造したり研究することが難しくなってきているという事です。

 

そこにとどめの新型ウィルス。これについては世界中が影響を受けていて、世界中の経済が止まってしまっているので、“自国に機能を置こうが外国に機能を置こうが同じだろ”という意見もあるかもしれませんが、復興の速度は国により異なると思われますから、そのような環境下で、世界に散らばった機能をスムーズに連携させることは非常に難くなるでしょう。

 

グローバリズムの名のもとに、世界を一つの共同体とみなし、企業は各機能を適材適所に分散配置し、極限まで利益を追求してきましたが、このモデルが高度に機能するのは、世界が平和で、国家間に信頼関係が構築されているときのみで、特定の国や、国家同士の関係が危機にさらされると、そこに配置された企業の組織は機能不全となり、複雑に配置された機能を有機的に連携・運用することは極めて難しくなってしまうのです。

 

また、今回の新型ウィルスが終息した後も、再度、似たような感染症の拡大が発生すると予測する専門家は多いそうです。そうなるとグローバリズムに沿った考えを維持しようとすると、全ての機能をリダンダントに配置する必要が出てしまい、より複雑性が増すだけでなく、コスト的には上昇してしまうかもしれません。

 

そう考えると、一旦はシンプルにローカリズム、つまりは本社が所在する国に多くの機能を集中し、海外の現地法人は販売機能とサポート機能といった従来型のモデルに戻るのではないかと思います。そこから先の未来では、また新しいモデルが生まれるかもしれませんが。

 

人間が安全で且つ、文化的生活を維持する為に最低限必要なものは、

 

・お金
・食料
・エネルギー
・防衛

 

です。お金が無ければ好きなこともできませんし、学ぶことも困難です。しかしお金があっても食料が採取できなければ飢えてしまいます。エネルギーが無ければ冬に暖房を使えず凍え死んでしまうかもしれません。いつの時代もならず者はいますから、身を守るためには自衛するか、警察などに頼る必要があります。

 

この4つの要素の内、企業が単独で担保できるものは“お金”+α程度です。他の殆どは、国の政策や行政に依存します。この関係性があるのに、利益のみを追求し、税金さえも払わないというのは、経営者としては傲慢すぎるのではないかと思うわけです。とはいえ、前述の通り私もグローバリズムをうたっていたわけで・・・一種の洗脳状態だったのかもしれませんね。

 

新型ウィルスの脅威はまだ収まっていませんが、国と企業、そして人との関係を改めて考える良い機会になったと思いますし、これをプラスに活かし、Tech-Dabを健全な世界創りに貢献できる会社にしようと改めて思うのでした。