31.孫氏の兵法の応用について考えてみた(その1)

さて、本日は「孫氏の兵法」について皆さんと一緒に考えていきたいと思います。「孫氏の兵法」については、皆さん誰もが一度は耳にしたことのある古典だと思います。湾岸戦争を指揮したパウエル元米国国務長官の愛読書でもあったという事ですから、その理論は現代にも通用するものとして認識されているのでしょう。なので、私も改めてこれについて学びの姿勢でエッセンスを読み解いていきたいと思います。



 

まずは、第一節の冒頭部分を見ていきたいと思います。

 

“孫氏曰く、兵とは国の大事なり、生死の地、存亡の道、察せざるべからざるなり。
ゆえにこれを経るに五事をもってし、これを校ぶるに計をもってし、その情を索む。一に曰く道、二に曰く天、三に曰く地、四に曰く将、五に曰く法なり。“

 

解説書などを参考にしながら1行目を現代風に訳しますと、
「戦争は国家にとって非常に大事な事である。国民の死活がきまるところで、国家の存亡の分かれ道であるから、よくよく熟慮せねばならぬ」
という意味になります。

 

しかしながら、我々日本人が第一に正視せねばならないことは、まず“戦争”というものが常に身近にあるという事だと思います。日本人は“戦争”や“争いごと”そのものから目を背けてしまう人が多いように感じますが、人類の歴史は戦争の歴史とも言われている通り、戦争を無視することはできません。いくら平和を愛していても、安全を確保するだけの力がなければ、平和を維持・獲得することはできない訳です。従って、「孫氏の兵法」にある通り熟慮が必要ですが、それは戦争に踏込まない為にも熟慮する必要があるとも解釈できます。言い換えれば、政府は日本国民が安全に暮らしていけるように熟慮して備えをしている・・・という事が重要という事になります。その備えが無ければ、一方的に攻め込まれてしまった場合、多くの国民の命が失われることを、傍観するだけになってしまうからです。

 

これをビジネスの世界に置き換えて考えてみます。我々が商売を行っている場所は、一般的には“市場/マーケット”と呼ばれます。ここには争いごとは無いのでしょうか?ありますよね。日々、市場のシェアを少しでも拡大する為の争いが繰り返されています。また場合によっては敵対的買収等、資本力に物を言わせて、敵そのものを飲み込んでしまおうという手法を取る企業さえあるわけです。つまりは、敵の存在を無視して

 

「目の前のお客様が望むものお届けする」

 

という事だけに注力していると、お客様でさえ想像できないようなイノベーティブな商品が出現したり、あるいは資本力に物を言わせて、無償で商品を配りまくり、一気にシェアをさらっていくような手段で攻め込まれて時に太刀打ちできません。やはり、ビジネスの世界においても、そこには“争いごと”があることを認識して備えておくことが重要だと言えそうですね。これを踏まえて「孫氏の兵法」冒頭文の2~3行目の解釈に移りたいと思います。この部分は、

 

「戦争に踏込む前には熟慮が必要。その為に“五事”つまり、5つのカテゴリーに関して、自身の力量を検証しつつ、敵方との力量を比較せよ。そうすることによって状況を客観的に理解する事ができるだろう。その上で5つのカテゴリーで敵方を上回っていれば、勝利を得られるであろうし、また普段から5つのカテゴリーで上回る備えをし、いざ戦っても勝てる状況を作っておくことが重要」

 

と解釈できます。ここで五事について補足します。

 

1.道:指導者と国民の関係
2.天:天候・気象条件
3.地:地理的条件
4.将:指導者の能力
5.法:軍事制度(組織体制、人事制度、ロジスティクス等)

 

さらにこれを、ビジネスの世界に展開していきたいと思います。
“道:指導者と国民の関係”は、リーダーと社員との関係は良好かという事になりますね。つまりリーダーは常に社員が、活き活きと働ける環境を提供できるように努力していて、結果として愛社精神が育まれているか?ということになります。

 

“天:天候・気象条件”については、孫氏の時代は天候・気象状況によって軍が被る被害や、戦い方も異なったはずです。これを現代のビジネスに置き換えると、時代の流れ/趨勢、市場環境や社会環境の状態がこれに当てはまると思います。つまり、様々な施策を打つ時の、タイミング等が整っているか否かを判断する為に理解しておくべき“環境の状態”という事になると思います。

 

“地:地理的条件”については、当時は、例えば自身が高台の上に陣取っているか、下にいるかが大きく優劣に影響を与えていたはずです。これを現代のビジネスに置き換えると、今自社が有効に活用できる資産の状況という事になるかと思います。キャッシュが十分か等はわかりやすい例ですね。

 

“将:指導者の能力”は言わずもがなですが、必ずしも社長 対 社長の優劣ではなく、経営陣と考えたほうが良いでしょう。指導者の主たる仕事は意思決定です。正しい意思決定は、正しい情報が無いとできませんので、社長単独ではなく、経営陣を含めて優劣を鑑みるべきだと思います。

 

そして最後は“法:軍事制度”。これはビジネスに置き換えるならば、リーダーが下した決定に対して、末端までの社員が整合性のとれた有効な活動ができるための、人事制度や業務プロセスが確立しているか?という事になるかと思います。

 

さて、現代の経営においても、リーダーシップの重要性は十分理解されており(将)、これに対して社員が活き活きと仕事をしている状態にあるかについては、ティール型組織等様々な取り組みがされていることから、これも重要視されており(道)、経営戦略においてはPEST分析等の市場分析の重要性(天)はもとより自社についても3C分析等を通して分析する事も求めらており(地)、このような状況を鑑みて意思決定したことが日々の業務に落し込めるためのビジネスプロセスが重要であることは、わたしもこのブログの中で何回も言及させて頂いた通りです(法)。

 

以上、「孫氏の兵法」の冒頭部分について見てきましたが、冒頭にあるという事は、孫氏がまず大前提として読者に伝えたいことを書いてあるはずですから、重要な項目です。これについて概ね現代のビジネスでも同じことが言えることが検証できたと思いますので、「孫氏の兵法」は現在ビジネスに応用できるものという前提で、次回以降、数回に渡って同書の主要な節のビジネスへの応用について皆さんと考えていきたいと思います。