37.儲かるRPAの活用法について考えてみた

さて、本日はRPAについて考えてみたいと思います。RPAという言葉が世をにぎわせ始めたのは、数年前からだと思いますが、今ではすごい数のRPA製品が出ていますよね。このブログを読んでいただいている皆さんの中にも、検討もしくはすでに導入したという方々はいらっしゃるのではないでしょうか?



 

私が最初にRPAに関心を持ったのは、以前勤めていた会社がSAPを導入し終えたあたりの時でした。SAPを導入して、恐らく経営に関する数字は見える化されたのだろうと思いますが、一方で入力を担当する現場では、かえって運用が煩雑になったりして疲弊していました。その時に、RPAのような自動化ツールで現場の社員の負担を下げてあげられるといいなと感じたのです。なので、私にとってのRPAは現場の負担を下げる便利ツールと言う位置づけで、戦略的に用いるツールと言う印象ではありません。

 

しかし、一方で世の中ではRPAという言葉が跋扈している印象があり、個人的にはそこまで注目すべきものなのだろうか・・・と戸惑いを感じてしまいます。どのくらいバズっているのかを調べるのに、試しに最近の1年間で日経コンピュータの表紙に“RPA”の文字が載った回数を数えてみました。日経コンピュータは月に2回発行されますので、24回のうち何回表紙を飾ったかについての統計です。

AI           x 4回             5G         x 1回
RPA       x 3回             SDGs    x 1回
DX         x 2回             ドローンx 1回
VR         x 1回             Python    x 1回

 

なんと、2位なんですよね!この他の表紙に登場したタイトルは企業名だったり、〇〇ランキングというものであり、バズワード的な言葉といえるのは上記だけでした。もちろん表紙に言葉が載っていなくても、中の記事として書かれていることもありますから、相当な頻度で取り上げられているという印象ですね。

 

日経コンピュータは企業向けのIT誌ですから、表紙に載るという事は、企業が注目すべきものと捉えられているはずです。企業が注目すべきものと言うのは、企業の存続の為に重要なものという事になりますから、大きく分ければ

 

“企業の利益につながるもの” もしくは
“企業にとってのリスクをさけるために必要なモノ”

 

の何れかになると思います。RPAはどっちなんでしょうね?自動化によるミスの削減というリスク回避の側面もありますが、成功事例等を見ると“何時間労働時間が削減された”といった評価のされ方が多いようなので、おそらく“企業の利益につながるもの”・・・であることを期待されているのだと思います。さて、期待通りの成果が世の中で出ているのでしょうか?RPA導入の成功/失敗の特集記事はよく目にしますが、統計的なデータ等は見たことがありませんから、期待通りの成果が出ているか否かについては、私は正確にはわかりません。

 

冒頭に、私がRPAに関心を持った時の事をお話ししましたが、RPAのような自動化ツールは会社の社員が長時間かけるべきではないような、比較的価値の低い仕事を自動化しようとして検討を開始する事が一般的だと思います。“単純作業はツールに任せて社員はもっとクリエイティブな仕事しましょう”とか。。。

 

ここで今一度、“RPA検討のきっかけ”というものを考えてみたいのですが、そもそも価値の低い長時間作業を自動化したところで、その自動化された作業の価値が上がる訳ではありません。RPA導入によって解放された社員の時間を他の価値ある仕事に振り向けないと本当の価値にはつながりません。そんな背景もあってか、経営者によるRPAに対する評価の中には

 

「人件費がRPAのライセンス費用に替わっただけ」

 

といった辛口のモノもあるようです。そうなると、私のような単純な人間は、空いた時間を価値ある仕事にどう振り向ける事ができるかに注力すべきと考えるのですが、多くの成功事例として紙面を飾っている記事を見ると、そうではなく、

 

“このRPAをどうやって全社に広める事ができるか”

 

という取り組みが圧倒的に多く、

 

「全社で都合〇〇時間を自動化する事ができました!」

 

と誇らしげに語っているわけです。もちろんRPA化する仕事は、必要だからそこにある訳で、それを自動化して社員を残業から解放し、健全な生活にもどしてあげることはとても意味のあることだと思います。ただ、私のような意地悪な見方をしてしまう人間からすると、

 

「そもそも利益率が薄い事業だった場合、その末端の作業を何時間か削ったところで利益に貢献するのだろうか?」

 

と疑問を持ってしまうわけです。もちろん、会社の全ての活動が利益創出の為だけにある訳ではありませんし、社員の労働環境を健全に整える事は重要です。しかし、先に述べたような

 

「人件費がRPAのライセンス費用に替わっただけ」

 

という印象が持たれてしまう事があるという事は、経営層から見て割高感があるのではないかと感じます。なので、本日のブログのテーマにあるように、

 

「儲かるRPA活用法ってなんだろう?」

 

ということを考えてみたいと思ったわけです。“自動化して金になるものは何か”を考えたときに、シンプルなアプローチは、“そもそも儲かる仕事を自動化で今以上にこなす”という事だと思います。

 

例えば、“人気の商品があるのに全ての注文をさばききれない”と言った時に、受注の処理を自動化する事ができれば機会損失がなくなり、大きな利益を生むでしょう。ちょっと前からRPAとOCRの連携のソリューションを見るようになりましたが、このソリューションはこのような視点から生まれたのかもしれませんね。

 

これだけ話題のRPAですから、もう少し儲かる活用範囲を考えてみたいと思います。今度は逆の発想で、“儲けるために強化する業務を決めて、そこを自動化で効率化する”という順番で考えてみたいと思います。事業戦略のオーソドックスな考え方に従えば、事業目標を設定した後は、それを実現する為に、どのような施策により実現するかを整理し、最後にその施策を遂行する業務をどう変えるかを決めます。
以下の図のようなイメージです。

この図では、強化事業としてA事業を選び、目標は営業利益20%向上を掲げています。これを実現する施策として検討の結果“顧客数増大”と“原価低減”を遂行することに決めました。そしてこれらの施策を遂行する業務を分解していくと、赤線で結ばれたプロセスが対象となり、最終的には赤丸で括られた
・マーケティング      サブサブプロセス2
・製造                              サブサブプロセス3
のプロセスを強化することによって目標が実現されることを表しています。その上で、この赤丸部分強化にRPAが有効であれば適用するという考えです。

 

もっとも最近のRPAの導入においては、効果が出る業務エリアを見つけるために、BPMSという業務フロー作成とワークフローがミックスされたようなツールを導入し、業務フローからボトルネックを見つけて、RPAの適用/連携を検討するといった取り組みが増えていますが、これですと膨大な量の業務フローを描く作業が必要になってしまいます。先ほど示した図のアプローチでは、儲かる方法を決めて、その実現に必要な強化プロセスをピンポイントで追っていきますので、必要のない業務フローを描く作業はしなくて良いわけです。

 

日本人はボトムアップ型が得意だとよく言いますが、今述べたBPMSを活用したようなアプローチですと作業時間を圧縮するという考えに偏りがちです。日本においては外国程解雇が簡単にできる訳ではありませんから、時間が短縮されただけではコストは下がりません。作業時間を短縮してもコストが下がらないのであれば、トップラインを伸ばすしか利益を上げる方法はありません。従って、RPAを使って会社の利益に貢献しようとしたときには、私が図で示したアプローチか、こなしきれない注文を自動化するような機会損失を防ぐアプローチの何れかしかない訳です。

 

RPAに限った話ではありませんが、プロジェクトの成否を決める最も重要な要素の一つは目的の設定です。ツールを導入すること自身を目的にしてしまうと、投資に対する効果は期待できません。今回は、RPAを直接利益創出に貢献させるためには・・・というアプローチで話を展開しましたが、そうでなくとも、

 

・RPAを導入して価値の低い作業を自動化する
・社員のスキルアップを実現するトレーニングを導入し、創造的仕事の比率を20%向上させる

 

といった2つの事がセットになって進められていれば、良いわけであって、そしてこのようなバランスの取れた施策を考えつくためには、事業成長に関する目的が定められていることが必要な訳です。

 

私の勝手な想像ですが、日本人はRPAを広く活用する能力は世界一なのではないでしょうか?それは現場の力が強いからです。しかしRPAを導入する事を目的化すると、それは会社の強さにつながりません。私は現在のRPAへの取組をそれほど悲観視している訳ではありません。目的を明確化し、ほんの少し目線を上げれば会社の強さにつながる訳ですから。だって能力はあるんですから!私は、Japan as NO1 と呼ばれる日をもう一度と皆さんと共に頑張って取り戻したいと本気で考えています。

 

ちょっと熱くなりすぎましたかね(笑) 次回はIoTについて皆さんと考えていきたいと思います。