40.顧客との関係構築(維持編)

前回のブログでは、新規のお客様と良好な関係を築くために重要なポイントを、事例を交えてご紹介させて頂きました。それは、“お客様の利益になるものを提案”し、“お客様が納得するまで説明を繰り返す”という基本的な内容でしたが、特に初めて会うお客様の場合は“お客様の利益になるものを提案”するときのインパクトが重要になります。男女の関係でも“一目惚れ”と言うのがありますが、最初に心をつかまれると、多少の欠点は見えなくなってしまいますよね。私は個人的に、“基本”/“本質”を重視してしまうので、前回のブログでことさら最初のインパクトの重要性は強調しなかったのですが、インパクトが強ければ、ある程度のところまでは勢いで行けることは事実です。



 

但し、B2Bの場合は意思決定のプロセスが複雑だし、最初にインパクトを与えた人とは違うところで最終決定がなされる事が少なくない為に、一つ一つ課題をつぶしていくというプロセスも重要になる訳です。そして、本日のテーマは既存顧客との関係維持ですが、ここにおいてはより、“一つ一つ課題をつぶしていく”ような地道な繰り返し作業が重要になってきます。

 

既存のお客様との関係を長く維持する為には、お客様から「関係を保ちたい」と思ってもらわなければなりません。どうしたら、お客様に「関係を保ちたい」と感じて頂けるんですかね?

 

様々なアプローチがあるとは思います。お客様の無理を聞いてあげる・・・という方法もあるでしょう。表現は悪いかもしれませんが、“お客様を甘やかす”と言うか・・・。このブログはテキストではないので、意図的に私の好みを推しても良いと思っているので敢えて申しますと、個人的にはこの“お客様を甘やかす”的なアプローチは好きではありません。例えば、事務処理が苦手なお客様が、期日までに発注が間に合わなくても、見切りで作業を開始してあげるといった様なことは、あまりやるべきではないと考えちゃいます。1人でフリーとして働いている人はまだ良いですが、そうでない場合は自分以外の人も負担を被るからです。もちろん、戦略的にそのよう方策を取り、競合を排除するという事もありますが、往々にして、そのようなアプローチをとる人は、お客様内で意思決定がひっくり返るリスクを精査せずにやっていたりします。

 

もう少し、私が意味する“お客様を甘やかす”について話をさせてください。
例えば、お客様にAとBという2つの選択肢があり、それぞれは以下の特徴を持っているとします。

 

A:実行に移すには、ご担当者の労力も必要とするが、お客様企業への利益貢献は高い
B:ご担当者にとっては、比較的楽な選択肢だが、お客様企業への利益貢献は低い

 

例えば皆さんがコンサルティングサービスを提供しているとします。ご担当者は、お客様社内の5名の意見を1週間以内にあつめ、貴方はその情報に基づいて分析作業を進めるというステップを踏むとします。Aのケースはご担当者に対して期日を厳しく求め(もちろんアドバイスはしますが)、予定通りプロジェクトを進めるケースです。Bのケースは、ご担当者が意見を集められなくても、「いいですよ、いいですよ」と甘やかす一方、最終成果物の品質は下がり、それを補完する為に目立たない規模の追加発注を繰り返し頂き、帳尻を合わせる等といったケースをイメージしています。私がBの様なアプローチを嫌うのは、結局は担当者が楽になるだけで、お客様企業の為にならないからです。B2Bの場合は、お互いがプロとして役割を全うする事で、互いの企業が成長・発展するものだと信じており、なあなあの関係では、新しい未来をつくることは難しいと思います。

 

さて、話を戻します。お客様と自社は互いにプロとして、自分の仕事に責任をもって進めるという基盤があった上で、そのお客様から「関係を保ちたい」と思ってもらう為にはどうしたらよいか。私は大きく2つの要素があると思っています。

 

1つ目は、“期待を超える”です。期待を超えると言っても、この中にはさらに3つのレベルがあり、それは以下の様に分解できると思います。

 

①依頼されたことに対し、期待以上のアウトプットを返す
②依頼された以外の事も、想定してアウトプットを提供する
③お客様が気付かないような事について、調査し提案をする

 

①については、お客様の目的と課題を正確に理解し、プライドを持って仕事をしないと実現できませんし、②については、「どうしたらお客様がより効率的にこの仕事を進めらるか」ということを考えていないと実行できません。そして③については、「どうしたらお客様はもっと発展できるか」ということを考え続けていないと実行きません。

 

「わからないでもないけど、そこまでやったらかえって非効率なんじゃない?」

 

という意見もあるかもしれません。そうですね。非効率なところもあるでしょう。しかし、昔のような高度経済成長で且つ大量生産の時代であれば、需要が豊富で効率的に数をこなすことの方が重要でしたが、現在はNeedsも多様化が進んでいますし、製品のライフサイクルも短いです。来たものをこなすだけでは”期待を超える”ことはできません。

 

「“期待を超える”ってそんなに大事?私にもプライベートがあるし、仕事ばかりに時間を費やせないんですけど!」

 

という意見もあるかもしれません。うーん。難しい問いかけですね。でも、働いている人であれば、1日の中で最も時間をかけている事と言えば、“仕事”ですよね。という事はやっぱり“仕事”がコアという扱いになり、そこコアな部分が充実しないとプライベートも充実しないのではないでしょうか?

 

実は、上記の①②③を本気で追及することは結構大変です。②に気付くにはお客様の業務を理解する必要があるでしょうし、③についてはビジネス書などで勉強する必要も出てくるでしょう。場合によっては、お客様に全然ウケないこともあるかもしれません。実は、この①②③の一連の行為は、埋もれているチャンスを探し出すための行為とも言えます。お客様がどうしたらもっとHappyになるかを考えて、勉強して、トライ&エラーを重ねて取った行動が、お客様のNeedsにはまったときは、すごく嬉しいし、何より仕事が楽しくなります。お客様の信用も高まると同時に、様々な仕事を頂くと、お客様との接点が増え、簡単に関係を切ることは難しくなります。なので、仕事をエキサイティングなものに変え、結果的に関係強化を実現するには、“期待を超える”為の①②③を繰り返すことが重要なのです。

 

効率化のみを重視すると、これらの行為は無駄もあるように見えますが、変化の激しい現在の経済環境においては、チャレンジをしない事により失う事の方が多いと思います。今や、世界最大の宿泊予約サイトに成長した“Booking.com”はどのようなサイトのデザインがよりお客様の予約を促せるかのテストを、年間25,000回以上も行っています。その為、2人の予約者が同じメニューにアクセスしても違う画面が表示され、その結果の違いが分析に回され、常にデザインは進化を続けています。中には、大きく予約数を損なうような結果になることもありますが、そのテストを止める人はいません。”Booking.com”には、

 

「社員であるなら誰でも、どんなテストでも上司の許可なく実行できる」

 

というルールがあるのです。例えCEOであったとしても社員の無謀とも見えるテストを止めることはできません。しかしこのルールのおかげで、前向きにチャレンジを続ける企業文化が育まれ、ちいさなオランダのネット企業が世界一の宿泊予約サイトになれたのです。このことからも、“期待を超える”チャレンジを続ける事が大事であると言えると思います。

 

次に、「関係を保ちたい」と思ってもらう為の2つめの要素は、“人としての魅力を高める”事です。

 

「また、こいつは格好つけた事を言い出しやがって」

 

と思われちゃうかもしれなのですが、ノウハウ的な事を挙げていくと、いくら挙げてもきりがないですし、時代と共に変化していきますから、結局覚えきれないし、当然実行に移せない訳です。しかし、本質的な部分を理解すると、その考えを中心にその人が勉強してトライ&エラーを繰り返せば、その人自身がノウハウを作り出す側に回れます。つまり本質的な部分を抑えたほうが結果的に効率も良くなります。ということで話を続けさせていただきます。(笑)

 

“人としての魅力を高める”という表現は漠然としていますが、要は人の役に立つことを考えればよいのです。そしてより多くの人の役に立つ、つまりは“社会の役に立つ”為にはどうしたらよいかを常に考える事です。突き詰めると、1つめの要素と同じようなことになるのですが、2つめの要素は、仕事の枠にとらわれず、“社会の役に立つ”ことを考えるという事です。ただ考えるのではなく、リアリティをもって考える為に、最終的にはその為に何を実行するか、というところまで突き詰める必要があります。最初は何から手を付けて良いか途方に暮れてしまうかもしれませんが、あなたが抱いている社会に対する不安や不満を解決する事に必要な事から考えると良いかもしれません。そうすると、何を勉強する必要があるかも、徐々に明確になってきます。リアリティを持つことの重要性は、具体的に自分が実行でき、実現可能なことを考える必要があるために、変に偏った思想になりにくいからです。そして“人の役に立つ”ことが起点にあるので、他人をリスペクトすることが身に付き、結果的に魅力的な人間に近づいていくと思います。

 

会社と会社の関係は、突き詰めれば人と人の関係です。プロの仕事をすることは大前提ではありますが、たとえ相手が自分より年下であっても、その人がしっかりとした考えを持っていることに気付くと、興味も沸きますし、長く付き合いたいと、個人としても感じるものです。逆も真なりです。

 

本日のブログのテーマは「顧客との関係構築」でしたが、お客様とあなたがこの先もずっと今と同じ会社の枠組みで働いているとは限りません。ひょっとしたら、将来の仕事のパートナーになり得る人との出会いが、そこにあるかもしれないのです。今日述べさせて頂いた2つの要素は、そのようなチャンスを増やすことにも役立つものだと私は信じています。