49.ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用と貴方がやりたい事

2018年10月に経団連の中西会長が就活ルールの見直しの必要性に言及したのち、2019年になってから随所で「新卒一括採用には違和感がある」「終身雇用を続けるのは難しい」等の発言がなされ、それと並行して“ジョブ型雇用/メンバーシップ型雇用”に関する記事も目立つようになりました。
そもそもジョブ型雇用/メンバーシップ型雇用とはどのように定義されるのでしょうか?まずはこれについて簡単におさらいしたいと思います。




 

ジョブ型雇用:
ジョブ型雇用では、「ジョブディスクリプション(職務記述書)」で職務や勤務地、労働時間などを明確に定めて雇用契約を結びます。労働者は、ジョブディスクリプションに書かれていない命令に従う義務はありません。例えば、転勤や職務の変更などです。
労働者は、特定の仕事(ジョブ)を遂行するという意識で働いています。また、給料は職務の内容によって定められています。職務が限定されているので所属している会社でのキャリアアップや昇給は滅多にありません。そのため一つの会社で3年ほど働いたらキャリアアップのために転職する人が少なくなく、結果として人材の流動性が高くなる特徴があります。

 

メンバーシップ型雇用:
メンバーシップ型雇用では、専門知識を持っていない新卒の学生を雇用します。社内研修やOJT(On the Job Trainig)を行い、仕事に必要な技能を身につけさせます。職務範囲や労働時間、勤務地は限定されていません。会社が転勤や残業を命じれば、労働者は従わなければなりません。

 

この2つの雇用形態には各々メリット・デメリットが存在しますが、何がメリットで何がデメリットであるかはどの視点から見るかによるので、ここでは各々の“特徴”という表現で説明したいと思います。

 

ジョブ型雇用は主に外資系企業が取り入れている雇用形態であり、当該の職務を遂行する為に必要なスキルと条件が定義されており、これにマッチした人を採用しますので、理屈の上では働く人のスキルと仕事内容にミスマッチは生じないはずです。しかしながら実際は職務の範囲に認識のずれが生じる事はそれほどありませんが、スキルのレベルにおいては面接のみで見極める事は難しいことと、欧米においても解雇の条件が厳しくなっている背景もあり、試用期間を2年くらい設ける企業もあるようです。
また、マネージャー職にも相応のジョブディスクリプションが定義されているために、自身のスキルが客観的にそれに見合う事が証明でき且つ、そのポストに空きがない限り昇進することは簡単ではありません。その為外資系企業に勤める人たちは転職によりキャリアアップを図るケースが多いです。このことは、日本以外の国において雇用の流動性が高い理由の一つになっています。

 

ただ、漠然と外資系企業への転職にあこがれを抱いている人がいたとするならば、そのような人に申し上げておきたいことは、先に試用期間が2年に及ぶような企業もあるという事からもわかる通り、外国企業においても2年以内でポンポンと転職を繰り返している人は採用担当者から敬遠されがちです。さらに言うと、転職にキャリアアップの機会を得るという事を書きましたが、普通に考えてマネジメント職の経験がない人をマネジメント職として採用する事は、採用する側にとっては勇気のいる事です。したがって転職によってプロモーションの機会を得るときには、元居た会社より規模の小さい会社の中で今より高いポジションを狙うという事になるでしょう。そこで確かな実績を残すことができれば、その会社の中でのプロモーションや、改めて規模の大きな会社に挑戦するというチャンスも得られると思いますが、実績が残せなければ徐々に自身の選択肢は少なくなっていってしまいます。

 

一方、メンバーシップ型雇用の場合は、前述の通り職務の範囲の取り決めはありませんから、逆に企業は社員を育成する必要があります。このことは、社員から見れば手厚い教育を受けられるという事を意味しますから、現在の新卒一括採用とメンバーシップ型雇用が密につながっていることがこのことから見て取れます。ジョブ型の場合は基本的に即戦力を期待する雇用形態ですから、新卒者にとってのハードルが高いです。その為、学士だけでは不十分で大学院まで進み専門的知識を身に付ける必要性が高くなるわけですが、それには高額な学費を支払わなくてはならず結果的に格差社会を助長するような構造になってしまいます。

 

ちなみに、日本では解雇が難しいとよく言われますが、実は法律上厳しい条件がある訳ではありません。労働契約法第 16 条は、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と定めているのですが、これ自身は当たり前のことを言っているにすぎません。しかしながら日本においてはメンバーシップ型雇用を採用している企業が大半であり、且つこの雇用形態下では「ジョブディスクリプション(職務記述書)」が定義されていませんから、当該のポストが経済環境等の問題により排除されたとしても、職務を規定していない会社側は別の機会を社員に提供する(異動など)ことなしに一方的に解雇をすることができません。

 

ここまで2つの雇用形態について述べてまいりましたが、ここに書かれている記事の多くは株式会社ニッチモ 代表取締役 海老原 嗣生(えびはら つぐお)氏の講演内容を参考にさせて頂きました。海老原さんの講演は幅広い視点から網羅的に且つ多角的視点から解説されていて、非常に勉強になりました。興味のある方は調べてみると良いと思います。

 

さて、これまで述べてきたことを見てわかる通り、ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用のどちらか一方が圧倒的に優れているという事は言えないと思います。経営者サイドの視点から言うと、どっちの雇用形態を採用するかというゼロサムではなく、まずはどのような会社を目指すべきかを考えるべきだと思います。

 

例えば貴方が経営者で、自社をより競争力の高い会社にしたいと考えた時には、どのような人を採用すべきでしょうか?それは貴方が何をもって差別化しようと考えているかによります。技術力によって差別化を図るのか、商品の独自性で差別化を図るのか、それとも提案力で差別化を図るのか。他社と同じことをやっていても差別化は図れませんから、単純にジョブディスクリプションと照らし合わせて採用するのではなく、創造性に富んでいて且つチャレンジ精神が旺盛であるという事の方を重視すべきかもしれません。そして採用した人が自社にとって重要な戦力になったのであるなら、より長期間働いてもらった方が効率が良いに決まっています。そして企業の都合を優先するならば、プロモーションさせるのではなく今の仕事のまま成果を出し続けてくれた方が望ましいでしょう。その為には、より魅力的な給与で応えるのか、その社員に講演の機会等を多数持たせて自尊心を満たす工夫をするのか等、雇用形態を超えた工夫が重要になると思います。

 

いずれにせよ、明確な経営の意志が無いと、ジョブ型雇用でスキルの高い人材を採用したところで、採用する側もされる側も、いまあるスキルの貯金を食いつぶすだけの結果に終わりかねませんから、企業はさらなる成長の為に必要なスキルと人格を持つ人物を採用し、採用される側もその職場で与えられたチャレンジをクリアすることによって成長できるという関係をつくることが持続的成長には重要だと思います。

 

一方、貴方が採用される側の人物である場合は、自身を差別化する為に専門性を追求するか、実績を積むか、その他の特徴を強化すると言った努力がこれからは必要になるでしょう。しかしある特定のスキルのみに注力しすぎると時代の変化に伴い無価値化されてしまうかもしれませんから、幸運なことに自分のスキルを生かして働ける職場を得た時には、積極的に自身のスキルを応用してビジネスに貢献できる範囲を言広げる努力をすることをお勧めします。このことは、自身がリーチできる市場を広げる事に役立つはずです。さらにそのような活動を続けていると、嫌でも経営的な視点を身に付ける必要が出てきますので、結果的には自分が所属する企業の経営層の考えが理解できたり、自身の起業のアイデアがまとまったりとさらなる可能性を見つける事に貢献してくれるはずです。

 

世の中には、本日触れたようなジョブ型雇用、メンバーシップ型雇用といった言葉のように様々な手法を表す横文字がはびこっていますが、これらの言葉に振り回されるのではなく、自社は社会にどのような価値を提供する会社を目指すのか(企業理念/目的)、それを実現し世界を圧倒するにはどこに力点を置くべきなのか(戦略)、そしてそれを実行する日々の業務はどうあるべきなのか(プロセス)を明確にすることが最重要になります。例えば高度に標準化された仕事(プロセス)が既にあり、これを広範囲に広げることが最も自社の成長に寄与するのであれば、安い賃金で新卒を大量に採用し、教育してしまった方が早いかもしれませんし、ある高付加価値分野で高度な提案力を持つことで差別化を図るという方針が決まっていれば、その分野に経験があり且つ創造力が豊かな人物を採用するという事が適切なアクションとなるでしょう。