59.AIを使いこなす?AIに使われる?

イーロン・マスクがまた新しい構想を発表した。2020/8/29の記事によると、イーロン・マスクが設立したAI研究企業のNeuralinkはこの日、人とAIを融合するというマスクの構想を実現するための第一歩となる「Link 0.9」と呼ばれるAIチップのデモを公開したという。



 

これは、脳に1024本もの電極を接続し、対象者の体温、血圧、運動状況等をモニターし、差し迫った心臓発作や脳卒中についての早期警告を提供する事を実現するとの事。データはワイヤレス通信可能なため、頭から延びるケーブルをどこかの機械につなぐ必要はないとこと。電源についてもワイヤレス充電が可能となっている。

 

実は、私は健常者と変わらない日常を送っておりますが、体内にはペースメーカーが埋め込まれています。ペースメーカーを装着している患者は、年に2回ほど検診が必要で、その定期健診ではペースメーカーに蓄積されたデータを読み取り、異常の有無を確認する事と、ペースメーカーのバッテリーのチェックをします。データを読み取るときは胸の上に、非接触型のリードライターのようなものを乗せて、ペースメーカー製造会社のエンジニアのような人が、医師の指示に従い操作します。データを読み取ったり、またたまに、ペースメーカの奏でるテンポを一時的に変えたるすることもあり、「ちょっとクラっとするかもしれませんが・・・」とか言われてパソコンで操作されるときは、あまり良い気持ちはしないものです。また、6年~10年ぐらいでバッテリーは切れるらしく、そのときには再手術となるために、先に述べたNeuralinkの発表した機器はワイヤレス充電ができる点は魅力的に感じました。

 

この日の発表は、このように医療目的であったのでそれほど抵抗なく受け入れる事ができましたが、この記事の最後に、

 

「人間よりもはるかに知能が高くなったAIに人類が破滅されないように、人の脳とAIを融合し、地球全体の人々の意志を結集してコントロールできるような世界を目指す」

 

と言う旨のイーロン・マスクのコメントが載っていました。

 

読者の皆さんはこの記事をどのようにとらえますか?「ワクワク」しますか?それとも「怖い」と感じますか?もちろん今後様々な臨床実験を経て、安全性を徹底的に検証していくことにはなると思いますので、それほどネガティブに反応すべきではないのだとは思いますが、個人的には少し違和感を感じました。

 

ちょっとイメージがつかめなかったのは、脳とAIの融合とはどのような形になるのだろうという事です。最近のコンピュータは複雑な処理と高速な処理を求められるために、1つのCPUだけで処理するのではなく、複数のCPUを補助するコプロセッサと呼ばれるチップと役割分担をして処理をするのですが、処理全体の管理はCPUがしています。脳とAIが融合するときはその連携システムを管理するのはどちらなのでしょう?脳側が管理するとなると、自律神経により無意識のうちに脳とAIが共同作業をするような世界となるのでしょうか?私は医学についてはど素人ですが、さすがにそれは難しいと感じます。

 

ペースメーカの話に戻りますが、私は洞機能不全症候群という病気で、適切なテンポで脈を打つ事ができなくなってしまったのですが、ペースメーカの力を借りて適切な脈拍を維持できるようになりました。もともと心臓の鼓動は自律神経によって維持されるものですが、ペースメーカによって強制的に脈を奏でる形になっています。執刀医は脈のペースが健常者と同様になれば健常者と全く同じ生活ができるとの考えを持っている様でしたが、実際は少し違い、手術前と比べて異常に汗をかくことになったなぁと感じたりしています。発汗も自律神経によるものですから、ペースメーカによる影響があるのかなと思い、ある日、執刀医に、

 

「自律神経ではなくペースメーカによって鼓動が制御されることに影響されて、自律神経が多少誤作動して汗っかきになってしまったんですかね?」

 

と聞いたことがあるのですが、全く取り合ってもらえませんでした。「専門医の先生はその分野には詳しいのだけど、それ以外には関心を持たないような人もいる」と言う話を聞いたことがあったので、それ以上こちらから問いかける事はしませんでした。

 

このような経験がある為に、前述の「脳とAIの融合」について全体の管理を自律神経がするというようなことは、難しいだけでなく、そもそも医者がついていけないんじゃないかと言う漠然とした不安があり、私は抵抗を感じてしまいます。しかし一方で、全体の管理をAIに任せるという事になると、それこそAIに支配されることになってしまい本末転倒ではないかとも思ってしまいます。

 

Neuralinkの研究は非常に貴重だとは思いますが、個人的にはAIと脳の融合は、もう少し“疎”の融合が望ましいと感じています。つまり、脳とAIとのやりとりは人間が持つ5感をインタフェースにして情報のやり取りをすることをベースに考え、その効率を極限まで高める方法を考えたほうが安全だし健全でもあると思います。

 

さて、ここで本分である“経営”について考えてみたいと思います。“経営”というものを究極的に簡略化して表現すると、

 

「価値を最大化する為に、最適な資源の配置に関する意思決定をすること」

 

と言えると思います。“価値”は“利益”と置き換えても良いのですが、敢えて“価値”という表現を用いたのは、その企業自身や株主のみが利益創出により潤う事より、その企業が提供する製品やサービスを通して顧客が享受する価値を最大化する事の方が社会的な意義は大きいし、結果的にその企業の持続的成長により寄与すると感じたからです。このような事を言うと、「奇麗ごとだけでビジネスは出来ない」と言う人もいるかもしれませんが、今やネット小売り業界の覇者であるAmazonは、自らの利益率を下げることにより、参入障壁を上げ、結果的に多くのユーザーの支持を集め支配的な位置を確保するに至りました。これはひとえにAmazonが顧客の利便性、つまりは顧客価値を追求した結果に他なりません。従って理念的にも、実質的にも“利益”と言う言葉より“価値”と言う言葉の方が適切だと判断しました。

 

そして、その意思決定における思考のプロセスは、主に以下の3つに分類できると思います。

 

1.抽象化
2.帰納的分析
3.演繹的分析

 

まず最初の「抽象化」とは“認識”する為に必要な思考のプロセスです。例えば企業内で今起こっていることを理解しようとするときに、

 

部品の整理→部品の調達→加工作業→組立作業→工程チェック→検査→・・・・・・・

 

というようにシーケンシャルに業務の流れを追ってしまうと、非常に長い文章になってしまい、且つこれに枝分かれが加わり、より複雑になってしまい、全体を理解する事は困難になってしまいます。しかし業務のプロセス全体を以下の様にカテゴライズして、課題がある部分のみ深堀するようなアプローチがとれれば、業務に関する“認識”のプロセスはかなり効率的に進められます。

 

調達
製造
物流
販売
サービス

 

つまり、「抽象化」とは物事を直感的に理解しやすい形に変換する事だと言えます。

 

次に、「帰納的分析」及び「演繹的分析」についてですが、これについて説明する前に、昔習った帰納法と演繹法についておさらいしたいと思います。

思い出しましたか?
この図が説明する通り、「帰納的分析」とは発生しているデータ等を分析し、今後起こりうることを予測するような、まさにAIが得意とするような分野になります。一方「演繹的分析」は数々のすでに世の中で証明されているような法則を事象に当てはめて結果を予測するようなものです。この分野は高度な教育を受けているエリートの方が得意な分野かもしれませんね。沢山の“法則”を学んでいるでしょうから。

 

さて、“経営”の意思決定における思考のプロセスで重要なのは「抽象化」「帰納的分析」「演繹的分析」と言う話をしました。「抽象化」においてはビジネスプロセスをモデル化する数々の手法はございますし、弊社が提供するBPOSも階層化されたビジネスプロセスをデータベース化して提供しています。「帰納的分析」においては先程申した通り、これを解決するAIが沢山世に出てくることでしょう。さらに「演繹的分析」について、世にあるナレッジをデータベース化して経営課題にマッピングする仕組みは構築する事が十分可能です。

 

このような技術やサービスを活用する事により、中小/中堅企業の経営者であっても、高学歴の経営者や大企業に伍していける経営力を持つことが可能だと私は考えていますし、それが私が目指す世界観です。それでは、何をもって企業の優劣を決めるのかという点についてですが、それは「何をするか」だと思います。

 

「より世の中に役立つ何か」を真剣に考える真面目な経営者が、報われ、誇りと尊厳をもって経営に勤しみ、その追求する顧客価値において優劣を競えるような健全な世の中の実現に貢献できるよう、私も努力していきたいと思います。そして、そのような真面目な経営者であれば、Neuralinkが提供する将来のAIを健全に使いこなす方法を思いつくかもしれませんね。