61.D2CとB2Bの結節点

D2Cと呼ばれるビジネスモデルが米国で産声を上げてから10年程度経つそうですが、日本に於いても少しづつ成功事例が増えてきているようです。ちなみに、D2Cとは、「Direct to Consumer」の略で、”消費者に対して商品を直接的に販売する仕組み”のことを指します。すなわち、自社で企画・製造した商品を、ECサイトなどの自社チャネルで販売するモデルのことです。




D2CはB2Cのカテゴリーの一部でもありますし、ECのカテゴリーの一部とも言えますが、D2Cが表す特徴的な意味は、「流通業者といった他社を介さず、自社で企画・製造した商品を、自社チャネルで直接販売する業態」という事になります。そして展開の特徴は、SNS等Netを通したコミュニティ形成を起点としているところです。このような業態の為、D2Cの強みの一つは、コミュニティの意見を商品に反映する等の活動を通した、消費者との強い関係を築けるところだと言います。

 

このような業態の特徴からか、D2Cの事例は圧倒的にアパレルが多いです。コミュニティの意見を商品に反映させるためのハードルが比較的低いからなのでしょう。企業経営は、必ずしも規模の拡大のみを追う事を是とはしませんが、一般的には事業拡大を目指すことは普通の事です。そこで本日は事業拡大/成長を鑑みた時に、D2Cというモデルの選択のPros/Consを考えてみることにしました。

 

まず、Prosは先ほど述べた通り、ユーザー/コミュニティとの強い関係という事が挙げられます。一方で、Consは“効率”という事になるのではないでしょうか?設立当初に限られたユーザーに対して限られた量の商品を企画・製造・販売しているうちは良いのですが、これを拡大しようとしたときには、どのように多数のユーザーの意見にクイックに対応するのかという事が課題になるはずです。また、アパレルのような半消耗品であれば限られたユーザーからも継続的に購入いただける可能性がありますが、別の商品の場合、限られたユーザーから、どのようにして継続的な収益を得るのかも課題になってくるでしょう。調べてみたところ、アパレル以外の成功事例としては、Quip(クイップ)という電動歯ブラシメーカーが、交換部品部分をサブスク・モデルで提供することで安定した収益を得ることに成功しているようです。

 

新型コロナウィルスの影響下においても比較的影響の少ない業態は、消費者の日常に根差していて、且つ3密を必要としないもという事になりますので、このD2Cがより広い商品に適用できると経済にとっても良い影響を及ぼすだろうと思い、個人的には注目していきたいと考えています。

 

さて、新型コロナウィルスの話が出ましたが、これによるB2Bへの影響は甚大で、この問題をきっかけに各製造工場が稼働停止を余儀なくされる時期が多発し、サプライチェーンの多様化や柔軟性確保に改めて注目が集まっています。そしてコロナを機に米中の亀裂は不可逆的になり、経済のデカップリングは間違いなく進みますので、製造業のサプライチェーンの見直しの必要性は一時的なものではなく、恒久的なものとなりました。

 

これまで大手企業は集約化による効率化を進めて、利益を創出してきましたが、今後は世界の工場であった中国から自国及びその他の周辺国に分散させることが強いられます。分散された製造拠点やストックポイントを効率よく運用するために、以下の様な技術や方針が注目されています。

 

・飲料品や薬剤等、一回のバッチで大量の製造が必要となるプロセス系製造における、バッチサイズの小型化/エネルギーの極小化/投入溶剤の極小化を実現する技術
・3D printing等の技術を活用した、金属加工の製造工程の簡素化
・代替部材の検討及びサプライヤーの多様化 等々

 

このような手段の組合せを通して、より堅牢でかつオンデマンドなサプライチェーンの構築を目指し、各企業は検討を開始しています。なお、このような新たなサプライチェーンの概念については、コンサルティング会社のDeloitteが、「Digital Capabilities Model for Supply Networks」と言うモデルを提唱しています。以下は、従来型のサプライチェーンの構成要素と、新しいサプライチェーンの構成要素を概念図にまとめたものです。

※従来型サプライチェーンモデル

 

※新サプライチェーンモデル

このモデルに関する詳しい説明は割愛しますが、要は従来型のモデルは各プロセスがシーケンシャルに連なっていましたが、新モデルでは各プロセスがリアルタイムに情報を収集し、あらゆるプロセスと相互に情報を交換し、動的に対応していくようなイメージとなっております。このようなモデルが、今回のコロナの問題を経て具体的な形で実装されていくのだと思います。

 

なお、B2Bに関するこれらの記述は主に、大企業を想定しているものですが、私がかねてより注目しているのは中小/中堅企業であり、これらの企業は主に大企業に対するサプライヤーの位置づけであり、これまで大企業から大量発注を受けていたものが、今後競合他社に分散していくというリスクが発生します。しかしながら、各大手企業が同様の動きをするとしたならば、他のサプライヤーが失う需要は、自社にとっての機会とみる事ができます。そして、中小/中堅のサプライヤーが大手メーカーの需要を獲得するにはざっくり言って以下のステップが必要となります。

そして、今後の日本の中小/中堅企業のサプライヤーにとって最も重要になるであろうステップは、上図のコミュニティ形成だと感じています。この活動をより広範囲に且つ、より川下のメーカーにアプローチする事が重要になります。

 

今、より川下のメーカーにアプローチする事が大事と述べたのは、レビトロニクスという半導体製造に関するある特定分野のコンポーネントを作っているスイスの会社の技術営業の話が強く記憶に残っているからです。レビトロニクスが作っている製品は、半導体製造装置の一部を構成するものです。つまり、直接の販売先は、アプライドマテリアルや東京エレクトロンと言った大手半導体製造装置メーカーです。しかし彼らがアプローチする先は、その半導体製造装置を使って半導体製品を製造するSonyのような企業です。レビトロニクスが東京エレクトロンのような会社のみにアプローチしても、東京エレクトロンが決めた仕様や品質基準に合わないと受け入れてもらえません。なかなか提案の主導権が握れない訳です。しかしSonyのようなその先の企業にアプローチし、おたくが求める半導体の品質を実現するにはレビトロニクスの技術が大きく貢献する!ということを訴求して、「Sony」を使って東京エレクトロンに対してレビトロニクスを指名買いさせる訳です。

 

今後B2Bのサプライヤー側の企業は、その部品が最終製品の品質にどう影響を及ぼすかとか、応用できる範囲等を想像力を膨らまし描いて、Youtube等で英語/日本語で幅広く訴求することを推し進めることによって存在感を増す事ができるのではないかと感じています。

 

今、サプライチェーンのパラダイムシフトにより変化を強いられるB2B系のサプライヤー企業にとってコミュニティ形成が重要だと申しましたが、一方で冒頭に触れたD2Cの企業はコミュニティ形成を起点としています。このD2C系の企業の課題として、先程“効率”に言及しましたが、コミュニティ形成と言う彼らの得意分野を活かして効率的に市場を拡大するアプローチとしては、新たな2つめのコミュニティを形成して繋げるというアプローチが面白いのではないかと個人的に思っています。

 

例えば、カストマイズしたランドセルを製造販売するD2Cメーカーが、新たなコミュニティとして熟年層向けの鞄を開発し成功した場合、改めてランドセル側のコミュニティとの接点を設け、孫にプレゼントを促し、リーチできなかったユーザー層に広げると言ったアプローチも可能なのではないかと感じています。そうなると各年齢層ごとに適したSNSの活用の研究も重要になるかと思います。以下に参考までに各SNSの特徴を表したマトリクスを載せておきます。ほとんごネットの記事の寄せ集めですが・・・(汗)

D2Cのビジネスがより沢山誕生すれば、市場は細分化していきます。そしてその市場がRegionをまたぐようになると、物流が非常に複雑になります。複数の物流企業を論理的に一つに繋げる物流プラとフォーム企業等が生まれると、比較的規模の小さいD2C企業がEnd to Endでモノを届けるにはとても便利な存在になると思います。Amazonならそんな事業を始めることもできるかもしれませんが、それじゃちょっとつまらないですよね。

 

いずれにせよ、政治的にも、経済的にも、技術的にもこれだけ変化が激しい環境下で生き残っていくには、川上~川下のどの位置にいようが、エンドユーザーに対する発信力の重要度が増していくことは間違いないでしょう。そして製造業であるならば、最終的には製品をお客様の手元に届ける必要がある訳ですから、Logisticsが重要であることは自明です。その為、ビジネスモデルによらず製造業を営むD2C企業とB2B企業の結節点がSNSとLogisticsに帰結する事は当然のことです。もしこの関係を破壊するイノベーションがあるとしたらそれは3D Printerになりますが、それはもう少し先のことになるでしょう。