67.リモートワークと地域の関係

コロナの影響もあり、リモートワークは定着しつつあります。企業によって判子レス化やペーパーレス化に向けての進みには差があるようですが、技術的には殆どのWhite Color業務はリモート環境でも遂行できる事は証明されましたので、今後もこの流れは続くと思います。どこでも仕事ができるという認識を利用して、これまでは優秀な人材にリーチできなかった地方の企業が優秀な頭脳を手に入れることもできるようになるかもしれません。いずれにせよ、我々を取り巻く社会に新たなオプションが確立したことは歓迎すべき事だと思います。



 

一方で、Zoomを代表とするような、このリモート化を促進するツールを提供するIT関連企業も様々な取り組みを続けているようで、興味深いです。私が興味を惹かれた取り組みは、リモートで仕事ができてしまうからこそ、離れていても繋がりを維持する為にどうしたら良いかといった取り組みです。IT企業のSlack社は音声チャットというものを提供する予定の様です。

 

例えば、オフィスにいてデスクワークをしていた時に、隣の席の人に「ちょっと聞きたいんだけど・・・」と話しかけたり、相談することありますよね。これをリモート環境でも実現するものです。自宅にいてもPCとネットワークがあれば仕事ができる事は先に述べた通りですが、ふと同僚に相談したくなった時、いちいちWeb会議に招待するのは手間です。チャット機能で相談することは可能ですが、それよりももっと手軽に繋げるツールと言う位置づけの様です。予めグループを設定しておいて、ネットワークに接続すると、音声チャットが利用可能な状態になります。なにも話をしなければ、当然何も聞こえませんが、ふと相談したいと思ったときに、

 

「ねえ、ちょっといいかな?」

 

とつぶやくと、メンバーにはリアルタイムでその声が届き、そこからは普通に複数人の会話を始める事ができる訳です。地味ではありますが、結構面白いツールだなと個人的には感じています。

 

今後もリモートワークをより便利にする様々なツールが世に出てくると思いますが、必ずしもリモート化を歓迎する企業ばかりではありません。Twitter社などのSNS系の企業は社員のワークスタイルとしてリモート化を推進している態度をとっているところが多いようですが、同様のネット関連の起業ともいえるNetflixのCEOであるリード・ヘイスティング氏は、

 

「リモートワークにプラス面はなく、アイディアを議論する事が困難になった」

 

とのコメントをWall Street Journalの取材の中で述べているようです。ここ数年のNetflixは自社コンテンツの制作に力を入れています。撮影自身もリモートで実施する事は出来ませんし、企画等についても、モノづくり系の仕事は対面で五感を使って会話、理解をするという事が必要なのかもしれません。しかしそのような課題も、今後5G,6Gと進歩発展していく中で解決していく可能性はありますが、今の時点の技術レベルを前提とすれば、Netflixにとってはリモートワークは生産性を促進するものではないという事の様です。

 

このように、就いている職種によってリモートワークに向いている場合と、そうでないものはあるようですが、我々がどこで働くかについてオプションが提供されるようになったことは事実です。働く場所が自由に選べるという事は、住む場所は、仕事の制限を受けないという事です。そうなると、どのような街に人々は集まっていくのでしょうか?

 

これまでの街は、昔の平城京や平安京のように遷都によって移動したり、或いは近代化の過程においては工業地域を中心に街が形成されてきました。つまり、行政や産業が主導して人を誘導し、その人々の生活を支えるための機能として街は発展してきました。しかし、今回のリモート化の流れは、行政や産業に影響されるものではありません。デジタル庁の設立により様々な手続きがネット出来るようになり、仕事はこれまで述べた通りリモートワークができる訳ですから、人々が住む場所はこれらの影響は受けずに、自分の住みたい場所に住む・・・ということになります。これまでとは違う動機で住む場所を選ぶことになる訳です。

 

サーフィンが好きな人は海の近くに住みたいと思うでしょう。子供の教育に熱心な人は、素晴らしい教育を提供する街があれば、そこの住民になることを選ぶかもしれません。年老いた両親を思う家族は、デイケアなどが充実している街を探すでしょう。恐らく今後新たに住む場所を選ぶ基準は、“趣味”、“教育”、“家族”に関する条件に影響されていくような気がします。急速な流れになるかどうかは分かりませんが。

 

各地方政府はアイデアの出しどころだと思います。しかし、魅力的な街とは、そこの住民がその街を愛しているところだと思います。そう考えると、地方政府が第一に考えるべき事は、今の住民にとって住みやすく、その上で魅力度を高めることに注力し、その取組を上手に発信していくという流れが良いような気がします。これまでそこに長く住む住民と、新たに来た住民が分断されるような街は良い街とは言えませんから、今の良いところを強化して、発信して呼び込むというステップが重要になるでしょう。

 

技術の発展により、仕事も家も、制限を受けずに場所を選べるようになりました。しかし、その環境下で重要な事は、人と人の関係を維持していくことだというポイントは面白いですね。