71.一歩先行くSFDC

つい先日ブルームバーグの記事でSFDCがビジネスチャットツールを手掛けるSlackの買収を検討しているという記事を目にしました。以前このブログでSlackに言及したこともあり、Slackがどのようなビジネスを展開しているかはある程度は理解していた事と、私が会社員時代に使っていたSFDCの機能は商談管理機能程度であり、すぐにこの2社のシナジーが思いつかなかった為少し調べることにしました。




SFDCのHPを訪れてみると私の想像以上に機能が拡張されており、ラインナップが紹介されているページには十数個ものカテゴリが表示されていました。昔ながらの商談管理からロ―コード開発ツールまで幅広く取り揃えてありましたが、しばらく眺めてみた後に、大きく4つにカテゴライズできるのではないかと思い、私なりに整理してみました。

 

実は私の知人にもSFDCの社員がおりますので、あまり細かい事を言うとツッコミを受けそうなので、敢えて概念的に説明をしていきたいと思います。(笑)

 

まず、“コア機能”と名付けたものは、右の列に展開されている用語を見ればわかる通り、業務機能を提供するものです。例えば「営業支援」は商談管理機能等を核とする機能を提供し、「カストマーサービス」は文字通り商品の修理サービス等を含む一連のサービス業務を遂行する為の機能を提供します。

 

次に“拡張ツール”とあるのは、ロ―コード開発ツール及び開発したアプリケーションを稼働させるためのインフラを含む一連のサービスを提供しており、開発ツール単体としても競争力のあるものだと感じておりますが、このブログではSFDCのコア機能を顧客内の他アプリケーションと連携させるなど、コア機能の価値を拡張する戦略的ツールとして位置づけられているのではないかと考えております。

 

さらに、“活用促進ツール”においてはSFDC上に蓄積されたデータを分析活用したり、データに基づいた意思決定を円滑に行うためのコミュニティツールであったりと、これは文字通りSFDCの利用を促進させるための位置づけのモノだと理解しました。

 

最後に“利用生産系向上ツール”は、ユーザービリティを向上させるためのものだと理解しました。つまり素晴らしいコア機能を持っていたとしても、使い勝手が悪かったり、蓄積されたデータの活用I/Fが整っていなければ利用頻度が落ち、価値は半減してしまいますが、使い勝手を良くする事により、ユーザーが正確なデータを登録する事を促進させ、結果的に長く利用してもらう事を狙っているのではないかと思います。

 

SFDCはエンタープライズ向けの代表的アプリケーションソフトの1つではありますが、他のエンタープライズ向けのソフトであるSAP, Oracle, Workday等を見てみるとコア機能の拡張や、分析系を強化する動きはありますが、相変わらずユーザビリティは良いとは言えないと感じています。今回のSlack買収の検討は上記の表に於ける“活用促進”や“利用生産性”に寄与するものだろうと感じており、このようなユーザビリティに踏込んでいる欧米のエンタープライズアプリケーション企業はSFDC以外はあまりないように感じたために一歩先を行っているなぁと感じて、それを当ブログのタイトルにしてみました。

 

それでは、一歩先を行くSFDCはどのくらいのシェアを持っているのでしょうか?少し古いデータになりますが以下をご覧ください。

数学者のクープマンが提唱するモデルにおける、市場シェアとその数値が持つ意味によると、目標とすべきマーケットシェアの下限値は26.1%であり、その数値が持つ意味は、

 

「トップの地位に立つことができる強者の最低条件。安定不安定の境目。これを下回ると1位であっても、その地位は安定しない」

 

というものです。SFDCのシェアが18%ですから全く安心できる地位を築いているわけではないことが分かります(もっともセグメントの切り方によっては26.1%を超えているのかもしれませんが)。まだまだ安心できる位置にいないという前提に立った時、SaaS企業にとって最も意識する経営指標の一つにチャーンレートというものがあります。これは簡単に言えば解約率です。どんなに新規のお客様を増やしても、既存のユーザーがどんどん解約してしまっては一向にシェアもキャッシュフローも改善しないからです。SFDCのようなCRMツールは勘定系のシステムと異なり、多少いい加減なデータを登録しても会社は動きますし、そもそもSFDCを使うユーザーの多くは営業であり、勘定系のシステムを使う管理系のユーザーと比較しても、正確にデータを登録することがあまり得意でない特性を持っています。登録されるデータが正確でなければそのシステムの価値も半減してしまいます。そのような背景もあってSFDCはユーザビリティも重視してユーザーが喜んで活用し、登録されるデータの正確性を増し、システムの価値を上げ、結果チャーンレートも低く維持し、さらなるシェア拡大を進める基盤を盤石にしようと考えているのだろうと、私は想像します。

 

一方ソフトブレーン社など、日本産のCRMツール会社もあり、日本では一定の売上は上げていますが、グローバル市場では先ほどのグラフを見ればわかる通り、全く存在感は有りません。私の個人的な印象ですが、日本企業が提供するエンタープライズ向けアプリは、使いやすさは優れているものが多いと思います。では、なぜ日本のエンタープライズソフトはグローバルで売れないのでしょうか?日本企業の海外の体制等、理由を挙げればきりがないのですが、このブログではエンタープライズ向けソフトウェアベンダーの戦略に注目しつつ分析してみます。

 

そもそも欧米ではITに対する投資は戦略的投資として位置づけられます。”企業が成長する為に必要な投資”という意味です。それ故に、意思決定は経営トップに近い位置でなされます。そうなると経営層が如何に活用できるかと言う点が重視されがちになります。全社の商談の状況が一目で分かったり、全社の部門ごとの損益や、資産の活用状況が一目で分かることには価値を感じますが、その元データの登録インタフェースなどは、彼ら経営層の関心の外です。

 

グローバルのエンタープライズソフトベンダーは、経営層にとって価値のあるデータはどんものかと言うコンセプトを訴求してマインドシェアを取っていきますが、日本企業はそのコンセプトは後追いでユーザビリティを追求しますので、結局エンドユーザーが比較的力が強い日本でしか売れない訳です。

 

ただ、私も日本人ですし、日本に誇りを持っていますから、我々日本人がグローバル市場で勝者になる方法について考えてみたいと思います。

 

「国民のレベルが上がらないと政治家のレベルが上がらない」という言葉を聞いたことありませんか?これの意味は文字通りであり、国民が広い視野と厳しい目で政治家を評価し、投票をするようになれば日本でも、世界の政治家に負けない視座を持つ政治家が育つようになる…逆に国民の目が育たないと、政治家も票につながりやすい短絡的な政策しか思いつかない低レベルの政治家のままだ…という考え方です。私はこの考え方はビジネス界においても当てはまるのではないかと感じています。デジタルデータをいかに効率的に集め、分析し、ビジネスに適用できるか否かで勝敗が決まるかもしれないDX時代においても、日本のDXに対する取り組みは、現行の業務をいかに効率化できるかといった事を起点にしているものが多いように感じます。”強い会社になるために何をすべきか”が起点になってないとイノベーティブなDXを発想することはできません。

 

日本は社員のレベルは海外に引けを取らないかそれ以上だが、経営者のレベルが低いと言われます。しかし現在はインターネットが広がり、情報格差は無くなり、経営者の能力や経営者が知っている事と、社員の能力や社員が知っている事の差は無くなってきていると感じます。そしてさらに考えてみて下さい。じつは会社を動かしているのはたった一人の社長ではなく、社員たちです。ですから日本においては、ミドルクラスを中心とする社員が経営的な考え方と視点を身に付け、行動するようになることがレベルアップの為の第一歩だと思っています。そして我が社のBPOSはまさにそれを支援するツールであり、社員が自ら戦略とビジネスプロセスを検討・設計することを支援します。(参考 Tech-Dab Facebookページ http://facebook.com/techdab )

 

先日のAppleの組織に関するブログでも触れた通り、時代の流れが速くなれば専門的知識が、MBA的な経営ノウハウよりも優位になってきます。MBA的なモノの考え方も一般化されつつありますから、意思決定は現場に下がってくる動きは今後は進むでしょう。そこに日本のチャンスあると私は考えていますし。この変化が起こって初めて日本のITベンダーも世界と同様の戦略を取るようになる(強いられる)のだと思います。
一方、その時に改めて問われるITツールのユーザビリティに対して先手を打っているSFDCは悔しいけど凄いと思いますし、私が尊敬する企業の1つでもあります。日本企業だったらよかったのに!