47.実現のイメージを描いているか

つい先日、とある大手企業の若手の営業から相談を受ける機会があり、その際に私の方からその企業の営業戦略について尋ねたところ、幾つか疑問を感じる点がありましたので、本日はその点を中心に皆さんと一緒に考えていきたいと思います。




 

その会社はIT企業であり規模的には年商1000憶以上、社員数も1000人を超えていますので会社法上は立派な大企業です。私が聞いたその企業の営業戦略は以下の様なものでした。

 

強化市場として以下の4業種に注力する。
-流通・卸
-物流業
-建設・不動産
-公共交通

 

そして“各業種のTop3として挙げられる大企業を中心に提案活動を進める”という方針を出しています。この方針に従って営業活動を展開していくことで2022年度には本年の倍の売り上げを達成する事が数値目標になっているとの事でした。

 

ここまで話を聞いたところで、私は次の質問をしてみました。

 

「具体的にどんなソリューションを中心に、この目標を達成していくのですか?」

 

しかし、これに対する回答はあまり明確ではなく、“ある大手流通業の成功事例を横展開する事に注力する”というものでした。私が話を聞いた相手は若手の営業マンでしたが、非常に聡明でしっかりした考えの持ち主でしたので、全く会社の方針を理解していないとは考えにくいと思ったと同時に、逆に若手の営業であるからこそ、未熟でも戦力になるように会社の営業戦略は浸透している必要があるべきなのだが・・・とも感じました。

 

この話を聞いたときに、昔私が中堅企業を中心に営業活動をしていた時の事を思い出しました。中堅企業とは従業員規模で300~3000人程度の規模をさしていますが、このような規模を持つ会社で私が良く耳にしたお客様の悩みは、会社としての大方針はあるのだが、具体的な内容はなく現場任せになっているので、活動内容のばらつきが大きく、個人ごとの成績の差も埋まりにくいというものでした。

 

実はこのような課題意識を持つ人は元来優秀な人であるが故に経営層の目に留まり、“改革リーダー”と言った特命を受けるようになるケースも多々あります。しかしその様なケースでは、“改革リーダー”という役割が、その優秀な人に丸投げされていることが少なくなく、結果アプローチ方法を自分で勉強するなどするところから始める必要があり、なかなか進捗せず、結果的にノイローゼに近い状態に陥る姿を私はよく目にしておりました。

 

今述べた”営業戦略”の話と”改革リーダー”の話から、私が感じた共通の印象は“経営層の怠慢”です。(もちろん私が聞いた内容が事実であるという事が大前提ですが・・・。)現場に権限を委譲したり、任せたりすることは悪い事ではありませんし、場合によっては促進すべき事でもありますが、示した方針/目標をどのように実現するかのイメージも持たずして現場に任せる事は、方針を示した経営層として無責任だと感じたからです。経営層の重要な仕事の一つは経営資源を最適に配分する事です。経営資源とはヒト・モノ・カネ・情報です。経営資源は、示した方針/目標を達成する為に最適配分されるべきですが、具体的な目標実現のイメージが無くしては資源の最適配置は不可能です。従って、実行方針を現場に丸投げするということは、経営資源をいい加減に配置していることの証左であり、従って“経営層の怠慢”という印象を持ったわけです。

 

有名な星野リゾートの代表でいらっしゃる星野佳路さんは、米国のコーネル大学ホテル経営大学院修士課程修了後に帰国し父親からホテル業を継ぐわけですが、この時に自身が大学で学んだことに基づき、次々と施策を打ちます。しかしこれが従業員からの反発を買い、全く機能しなかったと言います。その後方針を変え、現場のアイデアを積極的に採用し、現場の経営参加を活発化した結果、歯車がかみ合うようになり経営も好転しました。しかしこの時、星野社長は闇雲に現場のアイデアを採用したわけではありませんでした。あくまで、戦略は自身で立てたうえで、具体的な施策案に落すときに現場の経験があった方が良いアイデアがでそうな部分については積極的に意見を求めたのです。つまり経営者として目標を達成する為に戦略/施策の方向性は自身で考え、その案を強固で実行可能な施策案にする為に現場の協力を募ったことで、プランがより精緻化さされると同時に、会社としての一体感を獲得する事ができたということですから、“経営者の怠慢”はそこには全く感じられません。

 

さて、ここまで内容を読んで読者の皆さんはどのようにお感じになっているのでしょうか。読者の方が経営層の方で、この話を読んで、「よし、今後はもっと踏み込んだ経営計画に落し込む努力をしよう!」と感じて頂ける方がいらっしゃれば嬉しい限りです。一方で、「星野社長も結局は欧米型の経営学を学んでいる。やはりMBA等を学ばないとだめなのか・・・」といった感想をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。もしそう感じた場合、貴方に時間とお金があるのであればMBAを取る事を進めます。私は全くMBA至上主義でも何でもありませんが、漠然とコンプレックスに支配されているのであれば、現在は日本でもMBAを取ることはできますから、とっとと学んでしまった方がすっきりします。但し、MBAを学んだからと言って一流の経営ができるとは全く言えませんが。

 

一方で、MBAを取るには時間とお金が厳しいという方もいらっしゃるでしょう。その様な方は、経営目標を実現する為に必要な事をひたすらリアルに考える事をお勧めします。それを追求すると結果的に経営に必要なテクニックや情報はその過程で学ぶことになります。例えば、今期の営業利益が50億円だったとします。これを3年後に倍の100億円にするという目標があったときに、これを実現する為に必要な事をリアルに考えてみればよいわけです。例えば、

 

 

①今期の売上はいくら?→1000億円。

②営業利益100億円にするには売上を倍にするか、営業利益率を倍にするか?

③現有戦力で売上倍は非現実的。有力新製品があるのでこれに注力すれば営業利益率を飛躍的に上げられる。

④新製品だけに賭けるのはリスクあるから現行製品売上を50%増。営業利益率25%の新製品を100億売るという方針にしよう。

⑤現行製品売上を50%増やすには営業を50%増やせばよいのだろうか?現在の商圏である東京都の市場をリサーチ会社に調べてもらったところ、競合も多いので伸ばすのは難しい。

⑥リサーチ会社にさらに調査してもらうと、関西地域は競合が少なく、市場も成長しているので参入する価値が高い。

⑦都内のお客様は殆ど信頼関係のあるお得意様なので、若手の営業に交代しても売り上げは落ちない。平均的営業の1.5倍の成績を挙げている選りすぐりを関西に割り当てれば、人員増は25%に抑えられる。

⑧新オフィス+新規採用+・・・ で〇〇円の資金調達が必要。出資を募るには時間がかかるので融資にしよう。経理に相談したら、現金化が可能な流動資産もあるし、融資後の流動比率もそれほど悪くはないので銀行も難色を示さないだろう。

Etc

 

つらつらと書いてみましたが、ここに書かれているステップはある程度の実務経験がある人から見れば自然な発想なはずです。しかし上記の内、⑤⑥はマーケティング、⑦は人材管理、⑧はアカウンティングに関する事であり、いずれもMBAで学ぶ内容に含まれます。つまり、目標を実現する為に必要な事をリアルに考えていけば、論理的思考さえできればMBAで学ぶことは実戦で学ぶことが可能です。ただ、論理的思考ができないと少し厳しいので、クリティカルシンキング(11.学ぶことが多すぎる 参照)は身に付けたほうが良いでしょう。欲を言えばそれに加えてマーケティングの基礎とアカウンティング/ファイナンシングは書籍などを通して勉強すれば、あとは先の例のようにリアルに考える事に勤めていけば、これに加えて何を学ぶ必要があるかも自分で気付くことができます。

 

読者の皆さんが20代~30代前半のような若い方であれば自分に対する先行投資としてMBA等にチャレンジする事もよいでしょう。一方、40~50代の人で、「そろそろ定年が迫ってきた」などと考えている人がいたら今一度考えて頂きたい。これからは人生100年時代であり、定年も伸びていくでしょう。これまで生きてきた人生と同じ分だけ時間があるなら、人生をたたみ始めるのではなく、一生勉強だと腹をくくって、日々リアリティを追求して“必要な事を学ぶ”という姿勢を貫けばMBA以上の実践的なノウハウが身に付きます。私は個人的に、死ぬ寸前まで成長できたとしたら、それ以上の充実した人生はないと考えています。

 

ちなみに、Tech-Dabが提供するBPOSは先ほどお示しした①~⑧のような思考を効率的に進めることを支援するフレームワークとデータベースを提供するクラウド型のソリューションです。現在は企業の成長に必要な思考のステップを間違いなく踏めるための機能を提供しておりますが、将来はBPOSさえあれば日々進化する最先端の経営ノウハウにアクセスできるようにすることを目指しております。

 

話を当ブログのテーマに戻しますが、経営層が経営目標の達成に向けて、緻密な実現のイメージを描くためには、明確な方向性の定義とそれの分解が必要です。そしてそれをより実効性のあるプランに落し込むためには星野リゾートの例ように社員の参加も不可欠です。そしてこのように経営層も社員も甘えなく、リアルなイメージを持って作ったプランを共有する事ができたら、日々の仕事も間違いなくエキサイティングなものになるはずです。