51.“女性管理職3割目標”に思う

つい先日、政府が掲げる「指導的地位に占める女性の割合を30%程度」に上昇させる目標の達成年限について、「2020年」から「30年までの可能な限り早期」に繰延するとの記事を目にしました。少し気になったので調べてみると、そもそも管理職世代(30代後半~40代中判ぐらいを指すらしい)の女性の採用時の男女比において女性は30%未満であったので、男女を平等に評価したとしても女性の管理職比率を30%に乗せることは無理があるのだ・・・という事らしい。では、2030年に30%という繰延した目標は妥当なのでしょうか?



 

2014年のJILPT(独立行政法人 労働政策研究・研修機構)の調べによると、この年4月の女性の採用比率は40%程度に達している。また同時期にJILPTが集めたアンケートでは、

 

「配置・育成が同世代の男性と同様になり、必要な知識・経験・判断力を有する女性が育成されているか」

 

との問いに対して半数以上の企業がYesと答えている。つまり、男性社員と同等の機会と教育を提供すれば、女性は遜色なく管理職に相応しい能力を身に付ける事ができると、各企業の回答者は認識しているわけです。さらに同機構が提供している資料によれば、最近5年間に課長相当職に昇進した者の平均勤続年数は17~20年程度という事です。

 

以上の情報を組み合わせていくと、2014年時点で女性採用比率は40%(30%以上)であり、且つ男女は同機会を与えれば差異なく能力を身に付け、且つ管理職になるまでの平均期間が17~20年という事になりますから、

 

2014 + (17~20) = 2031~2034年

 

となり、計算上は2030年に「指導的地位に占める女性の割合を30%程度」にするという目標は不可能ではない設定のように思えます。しかしながら、実際はこの簡単な計算式通りに進めるのは難しそうです。なぜならば17~20年という管理職になるまでにかかる勤続年数の途中で多くの女性社員が辞めてしまうからです。当然指導的地位に近づけば、求められる業務の難易度は増す一方で、一般的な日本企業内では女性にとってのロールモデルが周囲にいないことが多く、男性以上に女性の方が心のハードルが高いのかもしれません。それに加えて家事の多くは、まだまだ日本では女性が負担するケースが多い事も、女性社員の辞職の後押しをしてしまっているのかもしれません。

 

さて、ここで家事の負担について少し考えてみたいともいます。そもそも日本全国における就労者に求められる労働時間と家事にかける時間の総和は、GDPが変わらず、雇用数が横ばいである限り理論的には一定のはずです。共働きの女性が家事をしようが、男性が家事をしようが日本の人口構成が大きく変わらない限り総和は変わりません。つまり女性の家事の負担が減るという事は、その分男性の家事の負担が増える事を意味します。

 

そうなると、女性の家事の負担が相対的に減り、心のハードルが下がり、辞職率も下がり、結果的に前述の計算式通りに2030年に「指導的地位に占める女性の割合を30%程度」を実現させるには、国民一人一人の考え方や生活様式が変わることが大前提となってしまい、各企業の努力だけでは達成が難しいように思えます。

 

もし企業の努力のみによってこのハードルを乗り越えようとすると、例えば管理職を目指す優秀な女性社員に対して、家政婦を雇えるような補助金を会社から支給するようなプログラムを発足させるようなことが必要になるでしょう。

 

上記のようなプログラムを持っている会社があるかどうかはわかりませんが、女性の抜擢を積極的に進めている企業に対して、なぜ積極的に取組ようになったのかについてのデータもJILPTから発表されていたのですが、その内容は以下の様なものでした。

 

①経営トップの方針だから
②国際的な趨勢だから
③経営戦略としてあげられているから

 

これらの結果を鑑みると、女性の活躍推進は“社長のやる気次第”とも言えるような気がします。
その“社長”は日々何を考えているかと言うと、如何にして“持続的成長”を実現するかという事になるでしょう。そしてその“社長”がどのような課題意識を持っているかについて長年統計を取っている日本能率協会の資料を読むと、10年以上に渡って“人材の強化”が一貫してTop3にエントリーされています。

 

さてここで改めて、企業が”女性の活躍推進“に取組む意味があるか否かについて整理したいと思います。

 

1.”女性の活躍推進“に積極的に企業が取り組むか否かは社長次第
2.社長の課題意識のTop3には常に“人材の強化”が入っている
3.指導的地位に占める女性の割合を増やすには補助金支給等、投資が必要になる

 

ROIを前提に社長がとりうる選択肢を考えると、無理に女性を抜擢せず、男性に管理職を任せていた方が投資対効果は安定するように見えます。つまり現在の日本の社会全体の成熟度を前提とすると、構造的に、女性の管理職を今まで以上に増やすことは難しいのだと思います。もちろん、家事に積極的に関与する男性も増えてきていますので、長い目で見れば女性の社会的地位は上がってくるとは思いますが。

 

では“今”、女性の活躍推進に積極的に着手すべきなのでしょうか?もう少し待ってからでも良いのでしょうか?私は“べき”/“べきでない”といえる立場ではありませんから、私だったらどうするかという観点で回答します。

 

私だったら・・・“女性の活躍推進”に積極的に着手します。先に述べた通り、“人材の強化”は最大の経営課題の一つです。その為、優秀な人材獲得の為の競争は激しいと考えるべきでしょう。優秀な人材を獲得したいという同じ目的であるなら、レッドオーシャンに飛び込むよりブルーオーシャンを探したほうがより確実に“優秀な人材”に巡り合えると思います。それに、これは私の個人的な経験による意見ですが、成長意欲のある女性の社員は非常に頑張り屋であるし、素直な子が多かったです。特に若い前向きな優秀な女性社員の育成に携わったときに、中期的な目標を共有することは、その社員の将来にとっても私にとっても非常に貴重な時間であったと思っています。そのような経験・活動を通して優秀な女性社員が活躍できる会社にする事ができたなら、上手に広報ができれば、より優秀でやる気のある女性が集まってくると思いますし、そしてその(女性が活躍できる会社という)イメージは、“人材の強化”を常に課題に持つ企業にとっては大きな資産になるはずです。

 

最後に、“管理職”について言及したいと思います。よく、

 

「優秀なプレイヤーが優秀な管理職になれるとは限らない」

 

という言葉を耳にしますが、私もそう思います。しかし一方で、“優秀じゃないプレイヤー”が“優秀な管理職”になる可能性は非常に低いと考えています。(プロスポーツ選手とコーチの関係は別です。理論と身体能力に大きな乖離があるスポーツの世界は、本日の議論の対象から外させてください)

 

管理職の仕事は様々ありますが、重要なのは部下のパフォーマンスを上げさせるために適切なコーチングを施すことです。コーチングにはスキル的に不足するところを文字通りコーチする事が含まれますが、部下が自律的に行動できるように彼らの立場になって目標を共有するなど様々な仕掛けを考える事も含まれます。適切にコーチをするには、そもそも“正解”を身に付けていることが前提にあります。従ってビジネスの世界では“優秀じゃないプレイヤー”は“優秀な管理職”になりにくいと思うわけです。そして“優秀なプレイヤー”と“優秀な管理職”との違いは、“正解”を部下が再生できるように伝える論理的思考/説明能力があるかないかです。これに加えて、部下が自律的に行動する為の仕掛けを考えるには、そもそも自己の利益のみならず“組織の為に働く”という意欲が必要です。このような心を持っていない人が組織の長になってもその組織が効率的に回ることはありません。このあたりの内容については以前上げたブログ「優秀な社員ってどんな人」をご覧になってみてください。

 

ちなみに、この「優秀な社員」か否かをアセスする行動心理学に基づく手法があるのですが、この手法によりアセスすると、女性が「優秀な社員」としてアセスされる確率が高いです。理由はよくわかっておりませんが。。。